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13 - ほくとの世界〈Green×Black〉

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2023年01月25日

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Side.緑


「ただいまー。よいしょ」

北斗を先に家に入れ、ドアを閉める。

幼稚園から帰ると、「ただいま」の練習をしてみようと思うのだが……。

「北斗、ただいまは?」

無言。今日も失敗。いつになったら言えるかな、と思うがゆっくり待てばいいことだ。

たたっとリビングへ向かおうとするところを捕まえて、洗面所へ連れていく。

「手を洗います」

そこに置いてあるカードを見せると、自分で台に上る。そこまではいい調子。

水を出して、泡も北斗の手に乗せる。

「はい、ゴシゴシするんだよ」

自分も手を洗って見せる。真似てしっかり洗えたところで、帰りのミッションは終了。

リビングに入ると、北斗は片付けてあった画材を開きはじめた。

そう、彼の趣味は絵。同年代の子どものようなおもちゃ遊びやアニメではなく、絵を描くこと。

サヴァン症候群を持っていて、北斗の場合芸術の才能が突出しているらしい。

ほとんど話さないけど、絵で何かを伝えようとしているのが愛らしい。

たまに無言で見せてきて、ちょっと誇らしげな顔をして。

今だって、絵筆を持つ手を止めてこちらを見つめている。

「うん? どうしたの。描けた?」

訊くと、また画用紙に向かう。

のぞき込むと、そこには白地の紙に水色や白、オレンジなど明るい色で細かく描かれている。抽象画のようだ。

一体何を描いているのだろうか、想像もつかない。

ふとそばに目をやると、水入れの水が絵の具に染まっているのに気づいた。替えなくては。

「北斗ー、お水綺麗にしようか」

と水入れを取ると、腕を伸ばして阻んだ。

「でもこれ替えないと、汚いよ?」

嫌とも何とも言わないが、その顔には不満が書いてある。理由はわからないけれどそのままにしておくことにした。


北斗の様子が見えるところで、パソコンを開き仕事をしていると、すくっと立ち上がってこちらに歩いてきた。

ん、と差し出したのは絵の具のチューブ。机の上にコロンと置くと戻っていった。

「……?」

取り上げてみると、それは黒の絵の具だった。これがどうしたのだろうか。

「北斗、これなあに?」

訊いてみても、返答は返ってこない。

「…わかんね…」

思わずつぶやきが漏れた。自分の息子だというのに、わかってあげられないことばかりだ。

そのチューブを持って呆然としていると、少し軽いことに気づいた。硬い素材だからへこんではいないけれど、使い切ったのかもしれない。

試しに北斗が使っているパレットに出そうとしてみたが、空だった。

「なるほどね」

ごめんね、と北斗の頭をなでた。無くなったことを伝えに来てくれたのだ。

「今日使いたい?」

じっと表情を見つめるが、変わらない。黒は使う予定はないらしい。

「じゃあ明日にでも買いに行くか」

そう言うと、わずかに口角を上げた。

ふふ、と自分も嬉しい笑みが溢れた。

続く

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