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#心理戦
鬼霧宗作
230
#オカルト
つかであきひろ
539
161
雨は、人の足音を消す。
午後十一時四十分。
街灯の下に、一人の女子高生が立っていた。
傘も差さず、制服は雨に濡れ、両手でスマートフォンを握り締めている。
画面には一つのメッセージ。
『向こうで待ってる。今度こそ、幸せになろう。』
少女は小さく笑った。
「……やっと終われる。」
その直後、けたたましいブレーキ音が夜を裂いた。
⸻
翌朝。
「またか……。」
刑事・神崎悠真は、新聞の一面を見つめてため息をついた。
『女子高生、飛び込み死亡。自殺とみられる。』
これで三週間で十二件目。
年齢も職業も住む場所も違う。
共通しているのは、自ら命を絶ったと判断されていることだけだった。
「全部、自殺……ねぇ。」
隣のベテラン刑事、岩田がコーヒーを飲みながら言う。
「最近は”転生ブーム”らしいぞ。」
「転生?」
「知らないのか。SNSじゃ有名だ。」
岩田はスマホを差し出した。
画面には匿名掲示板の投稿が並んでいる。
『この世界は失敗作。』
『死は終わりじゃない。始まりだ。』
『転生できた。向こうは最高。』
どの投稿にも同じ印が添えられていた。
円の中に、翼のような模様。
「……気味が悪いですね。」
「若い連中は信じるんだよ。」
神崎は苦笑した。
都市伝説。
ただのネットのデマ。
そう思っていた。
⸻
午後一時。
神崎は昨夜亡くなった少女の部屋を訪れていた。
部屋はきれいだった。
荒らされた形跡もない。
机には受験参考書。
壁には友人との写真。
どこにでもある高校生の部屋だった。
「遺書は?」
「ありません。」
鑑識が首を振る。
「スマホは?」
「ロック解除できました。」
神崎は履歴を確認する。
検索履歴。
『転生 本当』
『死後 世界』
『来世 方法』
『選ばれた人だけ』
そして最後に開かれていたサイト。
NEXT WORLD
真っ黒な画面。
中央に白い文字。
あなたは、生まれ変わりますか?
その下にはボタンが一つだけ。
YES
神崎が押そうとした瞬間。
画面が真っ暗になった。
そして赤い文字が浮かび上がる。
「あなたはまだ選ばれていません。」
「……なんだ、これ。」
次の瞬間。
サイトは消えた。
アクセス履歴からも。
存在そのものが消えたように。
「刑事さん!」
鑑識の声が飛ぶ。
「これを。」
机の引き出しの奥。
一冊のノート。
最後のページだけが切り取られていた。
しかし、その裏ページに筆圧だけが残っている。
神崎は鉛筆で軽くなぞる。
浮かび上がった文字は、一文だけ。
『七日後、門が開く。』
その瞬間だった。
神崎のスマートフォンが震える。
知らない番号。
出ると、男とも女ともつかない声が聞こえた。
「……見つけてしまいましたね。」
「誰だ?」
「もう戻れません。」
プツッ。
通話は切れた。
神崎はすぐに発信元を調べようとした。
だが履歴には何も残っていない。
番号も。
通話時間も。
まるで最初から電話などかかってこなかったかのように。
窓の外では、雨がまた降り始めていた。
その頃、街のどこか。
薄暗い部屋で、一人の男がモニターを見つめていた。
画面には神崎の姿。
男は静かに笑う。
「予定より早いですが……刑事さんも、候補者になりましたね。」
机の上には、例の翼の紋章が刻まれたカードが一枚。
そして壁には、大きくこう書かれていた。
『転生者 第十三号』
神崎はまだ知らない。
自分が追っているのは、ただの連続自殺事件ではないことを。
そして、自分自身もまた、この事件の中心へ引きずり込まれていくことを。
コメント
1件
リユさん、第1話読ませていただきました! 女子高生の飛び込み♡♡♡から始まる冒頭、雨の夜の静けさとブレーキ音の対比が印象的でした。そして「転生ブーム」というネットの風潮、神崎刑事が辿る「NEXT WORLD」サイトの不気味さ…「あなたはまだ選ばれていません」の赤文字、ゾッとしました。 最後の「転生者 第十三号」で、神崎刑事自身も事件に飲み込まれていくのが予感されて、続きが気になります! この世界観、すごく好みです🌷