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頭が真っ白になる。
なんで・・・なんで⁉︎
びっくりして私は固まってしまった。
コウの唇が私の唇を軽く広げる。私の舌がコウに吸い出される。優しく噛まれる。
腰から砕けたように力が抜けた。
なに、これ・・・。
骨が抜けた様に体が崩れて行く。そんな私の体を、コウは支えて自分の広い胸の中に抱き留めた。
コウの唇がまた開いて、私の舌を離す。続けて今度は下唇を捕まえて優しく噛む。続けて上唇、また舌。ひと通り優しく噛み尽くすと、今度はコウの舌が私の口内に入って来る。私の舌に絡み付き、離れて歯を舐めて、私を舐め尽くしていく。
胸が熱い。心臓が壊れそうな程速く動いている。動脈が裂けて死んでしまいそう。
持っていたホフのナイフが落ちる。もう持っていられない。空いた両手ですがる様にコウの胸元を掴んだ。
ジェイともキスをした事はあった。何度も何度も。その度に幸せな気分に包まれた。けれども・・・。
これは何?私は何をされているの?
息が続かなくなって一度唇が離れた。閉じていたコウの目が細く開く。恐らく赤くなっているだろう私の顔を見て、嬉しそうに笑うコウの顔。それを見た途端、私の胸は音がしそうな程キュッと締まった。その締まりが胸から下へ、上へと広がって行く。ますます体から力が抜ける。
もう一度重なりそうになる唇を、私は顔を背けて避けた。
「もう少し・・・」
コウがそう言って私の顎に手を掛けて、自分の方に向かせる。
「やめてよ・・・」
力の入らないなりの全力でコウの胸を押し返す。
再び顔を背けると、コウの唇が私の耳を襲う。
「ひゃっ」
変な声が出た。
くすぐったい感触と同時にコウの舌が私の耳を舐める。コウの舌と唇が立てる音が、私を覆う世界の全てになる。
背筋を走るゾクゾクとした感覚。
もう、許して。
すがる両手の指に力が入った。
感情が追いつかない。涙が出そうになった。
その時、横から声が掛けられる。
「あの・・・」
事務員のものだ。
「・・・なんだよ・・・」
コウが耳を舐めながら、面倒そうに答える。
「じ、条件に反する、行為になりますので、その、リタイア扱いになりますが・・・」
「分かっててやってんだよ。消える前にキスくらい良いだろ?ずっと我慢してたんだから」
そう言って、今度は私の首筋に唇を押し付ける。
「やっ・・・」
体が震えた。唇と舌の温かさと、柔らかくザラリとした感触で頭がいっぱいになった。
暑い・・・。
急に、首筋にチクリとした感覚。私は、ビクっと体を硬くした。
「あっ・・・」
その刺激が何度か続く。
「なに、してるの?痛い・・・」
「ゴメン、痛い?俺の印付けてる」
私の目を見て優しく答える。甘い声。事務員相手のとは明らかな温度差のある声。
「あの、コウさん、リタイアです。先に譲渡された『目』と前金をご返却下さい」
コウに出された条件がどう言う物だったのかハッキリは分からない。ただ、このままではリタイアで、リセットされてしまうという事は理解出来た。そして恐らくジェイは・・・。
「ねえ、事務員さん」
私は聞いた。聞きたくは無い事。だけど確認しなければならない事を。
「ジェイは、助からない、の?」
二人の話を聞いていたら分かる。ジェイと私か、ジェイとコウか。どちらかのペアを欲しがっていると言う事が。どちらにしてもジェイは入る。
「はい、ジェイさんはまもなくコウさんの手で償われます。それは変わりません」
溜息と共に吐き出された言葉。ハンカチで汗を拭いながら、目のやり場に困りながら、投げやりに言い捨てる。もう、どうでも良いと顔に書いてある。
「特殊なカプセルの毒を飲ませた。ボタン押せばすぐに、押さなくても4週間で死ぬ。もう、4週間になるからどっちにしてもだ」
コウは私を強く抱き締めて、頬や髪にキスを落としながらそう言った。
そうか、と私は思った。ジェイは、もう帰って来ない。とっくに失われていたのだ。私の前から。
大好きなジェイ、誰よりも、大切な人。大きな喪失感。でも・・・。
私は、自分を捕まえて離さないでいる温かい腕を感じた。ジェイが消えた4週間、訳も分からずずっと側に居てくれた人。見た目は完璧。でも中身の残念な、格好悪くて私より弱い人。
彼まで居なくなってしまったら、私は、一人だ。ホフももう居ない。戻る所は無い。
「居なくならないで・・・」
私にキスを落とし続けるコウが一瞬止まる。
「コウ、私の前から居なくならないで。一緒に居て、お願い・・・」
一筋涙が流れた。コウがそれを優しく舐めとる。
「カナデ・・・」
私の名を呼ぶ。コウの声で。
「カナデ」
そう呼ぶジェイの声を思い出す。
「ずっと一緒?」
「ずっと一緒」
約束したその言葉を思い出す。ジェイの柔らかい声。
ジェイ、ゴメンなさい・・・。
「事務員さん、私の所有資産の10割をコウに譲渡」
「‼︎」
事務員さんの顔に驚きが張り付く。
ジェイ、愛していました。誰よりも。