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「全額あげる。借金返せるでしょ?」

「は、はい。ですが、えーと・・・そんな」

汗を拭きながらしどろもどろの事務員。コウも流石に驚いたのか、キスを止めて目を丸くしている。

「私への償い者への条件は無し。『目』は誰にもあげない。死んだら返却。以上」

言い切った私に、コウは小さな声で言った。

「俺、返さないよ?」

断言しないでよ。相変わらず最低。でも、許す。

「いいよ。でも、一人にしないで」

言って、今度は自分からコウの唇にキスをした。コウの体がビクッと震える。私はコウの首に両腕を回した。

「か、かしこまりました」

事務員は、私の右目の下瞼をめくってコードを読み込む。続けてコウの右目の下瞼をめくってコードを読み込んだ。

「以上で各種登録は終了です。ミナトさんの全所有資産はコウさんに譲渡されました。ジェイさんの条件付き償いはリタイアです。事前譲渡された『目』と前金は全額回収されました。ミナトさんの償い者への条件は無し。償い終了後、ミナトさんの『目』は返却されます」

事務員は早口で言った。汗を拭いながら。

「では、失礼致します」

目を合わせずに言い捨てて一礼すると、事務員はスッと消えた。まさにドロン。

終わった・・・。

「カナデ・・・」

コウが言った。私を支えていた腕の片方を解いて口元を覆っている。顔が真っ赤になっている。

「何?」

何で今更赤くなっているんだろうか。終わって気が抜けたのか。

「ちょっと・・・」

そこまで言って口籠る。そして、私に聞こえない声でブツブツと呟いている。

「あのタイミングでカナデからキスとか・・・しかも一人にしないでとか、涙目で・・・」

何か気に入らない事でもあったのだろうか。私はだんだん腹が立ってきた。

「文句があるなら・・・」

そこまで言った私を、コウは急に横抱きにした。

「カナデが悪い、理性の限界」

何事か、と戸惑う私を、コウは運び始める。

ここはホフの家。二階には寝室がある。コウはその二階へと向かって階段を登り始めた。

待って待って、何勝手にそういう感じに持って行こうとしているの。しかもホフのベッドでとかあり得ない。

慌てる私に構わず、コウはあっという間に部屋に入りドアを閉める。私をベッドに下ろすとまたあのキスを落としてきた。重なる唇と唇・・・。

ダメだ、逃げられない。

体から力が抜けてた。そんな私を見詰めながらコウは言う。

「カナデ、大切にするよ。約束する」

手を握り、その手にキスを落とす。壊れやすい物を扱う様に、そっと私の服を脱がせて行く。

ああ、もうどうにも出来ない。

「コウ、私初めてなの」

私は言った。

コウは、少し驚いて私を見詰める。

「・・・ジェイとは?」

ジェイとは無かった。何度か挑戦してみたが、ジェイは勃たなかったのだ。

私は首を振る。そんな私を見て、コウはなんとも言えない表情をする。喜びを抑える様な、戸惑いを隠す様な。

「分かった・・・」

言って私の上半身を露わにする。目の前に現れる蝶の羽。

ジェイは、痛くないか心配してくれた。コウは、何と言うのだろう。少し怖い。

「あ、コレ知ってる」

コウはそう言って、私の左右の胸を外側から内側に寄せる。そして、ゆっくり優しく動かして、蝶を羽ばたかせた。

優しい刺激で体が震えた。羞恥で頬が熱くなる。

「知ってる・・・?」

「スワロウテイルだろ?映画のシーンであったよな」

言いながら先端に音を立てて口付けた。私の口から声が漏れる。

喘ぎながら思い出す母の言葉。『映画みたいにしてやるよ』その意味。今知る事ができた。コウのお陰で。私の知らない映画のシーン・・・。

「綺麗だよ、カナデ。でもコレは、綺麗だけど、許されない事だよ」

やんわりと攻める。それは母に対して。

分かっている。あの頃は認められなかったけれども、今ならば分かる。


私は母が大好きだった。タバコで焼かれ、何度も痛い思いをさせられた。でも、それだけでは無かった。

「上手に描けたね!」

お絵描きをしていた時、良く褒めてくれた。機嫌の悪い時以外は優しかった。

「何色にするの?ピンクかな?」

「お母さんはピンク好き?」

「大好きよ。ミナトと同じくらい好き」

「なら、ピンクにする!お母さんも一緒に塗って」

優しい笑顔で、一緒に塗ってくれた。

「あー、てって汚れちゃった」

カバーの無いクレヨンでピンクに染まった手。横では母も同じ色の手を見詰めていた。

「一緒だね」

汚れた手を合わせて一緒に笑った。父親の居ない2人だけの親子。2人だけの絆は、確かにあった。

その母が描いた私の胸の絵を、上から汚そうとした同級生が許せなかった。私と母の大事な思い出。汚い傷だけど、私にとっては何よりも美しい思い出。

分かってる。度を越えた仕返しだったって事くらい。でも認めたく無かった。


「ゴメンなさい・・・」

喘ぎながら、私はコウに謝っていた。

「うん」

コウは頷きながら聞いてくれた。私の懺悔を。力強い腕で私を抱き締めながら。とても優しく。

地獄と常世の狭間にて

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