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それから数ヶ月、ロザリア帝国では新年が訪れた。誰もが新しい年を祝い、そして成功を祈る日。
十八歳となったシャーリィ=アーキハクトもまた、新たなる門出を迎えようとしていた。
それは、これまで順風満帆であった彼女の前に大きな壁が立ち塞がる一年でもあった。
はっぴーにゅーいやー。シャーリィ=アーキハクトです。新年を迎えるに辺り、最初の三日間はゆっくり過ごすものだとレイミが言うので、我が『暁』も三日間をのんびりと過ごすことにしました。
初日は姉妹水入らずで過ごし、二日目はシスター達とのんびりしながらアスカを愛でて、三日目はルイと恋人らしい一日を過ごしました。
心身ともに充実した三日間を過ごした私達は、早速活動を再開させました。『黄昏』の発展と更なる収入増加による組織の強化を図ります。
リナさん達『猟兵』が加入したことで『ラドン平原』で毎日のように魔物討伐を行い、そこで得られた戦利品は『暁』に新たな利益を生み出すことに成功しました。
エレノアさん達も再び貿易に出発。前回以上の利益を求めて大量の薬草を運びます。もちろん『ライデン社』への石油販売も忘れてはいません。これは陸路海路限らずほぼ毎月行われていますが。
『黄昏』の拡大に合わせてマーサさん率いる『黄昏商会』も商売を拡大。古巣である『ターラン商会』と熾烈な商戦を繰り広げています。
まあ、農作物を初めとしたうちの商品は買い手が山ほど居ますからね。マーサさん曰く圧倒的に優勢なんだとか。
更に『オータムリゾート』が管理する十六番街も一年で目覚ましい発展を続けており、支援する傍ら商売については『黄昏商会』がほぼ独占しています。
もちろん多額のアガリをお義姉様に納めているのは言うまでもありません。
更なる商売拡大を目指して模索していると、『海狼の牙』から連絡が来ました。来てくれたのはサリアさんの腹心でありスキンヘッドの厳つい紳士メッツさん。
「ミス・シャーリィ。ボスから提案なんだが」
相変わらず厳つい外見に似合わない素敵な笑顔です。
「伺いましょう」
私は館の貴賓室へメッツさんを招いて、対面のソファーに座って用件を伺います。
「桟橋と周辺のエリアをもう一つ手に入れないか?」
「ほう?」
現在我が『暁』はシェルドハーフェン港湾エリアで桟橋一つと倉庫を二つほど保有しています。
シェルドハーフェンは交易の街ですから、交易船の出入りが多く桟橋や倉庫の使用料だけでも莫大な利益を生みます。
だからこそ様々な勢力がその利権を巡って水面下で激しい抗争を繰り返していますし、私達も『蒼き怪鳥』と抗争を行って勝利することで今の利権を獲得した経緯があります。
「興味深い話ですが、何故それを私達に?」
「桟橋の一つを経営してた組織が壊滅してな。ほら、君達の隣の桟橋の組織だよ」
「ああ、なるほど」
三日ほど前、新聞である『帝国日報』で、ある組織が壊滅したことが報じられたのです。事務所には急所を一撃で斬られた死体が散乱しており、生存者は居なかったのだとか。
……ちなみに、シェルドハーフェン発行分限定ですが『帝国日報』の使用する紙は『暁』が生産している植物紙です。熱心に売り込んだ甲斐がありました。お陰で質が上がりながらも値段は安くなりました。羊皮紙より安く作れますからね。
「それで『空き』が生まれたわけなんだが、うちとしては協定を結んでる『暁』が手に入れたほうが何かと楽でね。どうだろう?」
「更なる利益となるなら吝かではありませんが、それはつまり私達に争奪戦に加われと言っているようなものですよ?」
当然誰もが狙うでしょう。特に『本来の持ち主を潰した連中』はね。
「『暁』なら出来るとボスは確信してる。どうだい?」
「少し考えさせてください」
私は一旦保留にすることにして、幹部を招集しました。私一人で決めるには話が大きすぎます。
メッツさんを客室へ案内したあと、私は幹部連と会議室へ集まりました。
集まったのは私、シスター、ベル、セレスティン、マーサさんです。
ロウは農園の収穫を優先して、マクベスさんはリナさん達『猟兵』と共同で『ラドン平原』で訓練を指揮するために不在。エーリカも制服製作を優先して、エレノアさんは不在。
ロメオ君は『回復薬』作成のためルイ、アスカを護衛としてダンジョンへと潜っています。
私は集まった皆に経緯を伝えて意見を募りました。
「確かに利益を拡大することが出来るでしょう。しかし、それは新しい火種を呼び込むことになります」
先ずシスターが意見してくれました。
「お嬢様の御心のままに。しかしながら、今以上のご用心を」
セレスティンは肯定しつつ注意を促して。
「例の事件がきっかけなんだろ?先ずは情報を集める方が先だろうな。相手が分からないんじゃ、受け身になる」
ベルモンドは前向きな意見を。
「桟橋と倉庫が増えれば、今の倍以上の利益を確保できるわ。交易は益々活発になってるからね」
マーサさんの言うとおり、この一年でどんどん蒸気船が建造されて海洋交易は活発化しつつあります。蒸気船は従来の帆船より高速であり、魔物の襲撃を受ける可能性を下げたのです。その結果海路の安全性が飛躍的に向上したことが背景となっています。
「では、反対者は居ないと言うことで善後策を協議したいと思います。皆さんの意見を聞くに、やはり新たな戦いへの備えが必要になると考えますが」
「その通りです、シャーリィ。この一年は平和でしたが、また戦いの日々に身を投じることになります」
「シスターの懸念は尤もですが、戦わねばこれ以上の組織拡大は望めません。ただ、先ずは情報収集と不測の事態に対する備えが必要ですね」
「それで良いだろう。始めたらお嬢は『黄昏』から出るなよ?身辺警護をやり易いからな」
「善処します」
「それ護るつもり無いじゃない。まあ、こっちも情報を集めてみるわ」
「シャーリィ、貴女は戦いを望んでいるのですか?」
シスターがじっと私を見つめます。
「ご安心を、シスター。私にとって戦いとは手段にすぎません。目的が変わることはありませんので、心配は無用ですよ」
「……それなら良いのです」
「ならば流民の管理と審査を厳格化しましょう。破壊工作などの危険は極力避けたく思います」
「許可します、セレスティン。それでは、更なる利益確保のため『海狼の牙』の提案に乗ります。各自の奮励努力に期待します」
この決断が大きな抗争への引き金となる。私は、なんとなくそれを予測しながらも組織拡大のため一歩を踏み出すのでした。