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引き続きシャーリィ=アーキハクトです。簡単な会議で決断を下した私は、再び貴賓室にメッツさんを招いて結果を伝えました。
「折角の好意ですので、受け取らせていただきます」
「それは英断ですな、ミス・シャーリィ」
「何をすれば良いのですか?前回は奪いましたが、今回は持ち主が存在しない」
「方法はいくつかあるが、実効支配が一番効果的だな。もちろん、それに納得しない連中と派手にドンパチすることになるだろうがね」
「『海狼の牙』はどの程度肩入れするつもりですか?」
「基本的には静観するつもりさ。ただし、巻き込まれた場合は相応の対処をする。だからミス・シャーリィ。ボスから、くれぐれも巻き込むなと言付かっているよ」
「それはそれは。サリアさんには、御期待通りの活躍をして見せますと返答してください」
私は会心の笑顔で返答しました。するとメッツさんは苦笑いをしました。
「やれやれ、それだと忙しくなりそうだ。最近は平和だったから、若い奴らには良い刺激になるだろうがね」
「それで、対価はどうします?こんな情報を提供してきたんです。何を要求されるか、ちょっと怖いんですが」
「それについては、ボスが言ってたよ。ミス・シャーリィ個人にあとでたっぷりと請求するんだとさ」
……えっ!?
「ああ、聞きたくなかった……」
「はははっ!まあ、諦めてくれ。君達が勢力を伸ばすのはうちとしても助かるのだからね!」
頭を抱える私は、メッツさんの豪快な笑い声を聴きながら頭を痛めるのでした。
さて、動くと決めたからには連携の確認を行わないといけません。私はその日の夜に水晶を使ってレイミと連絡を取りました。
『分かりました。お姉さまが必要と判断されるなら私も否やはありません。リースさんにもお伝えしておきます』
「ありがとう、レイミ。『オータムリゾート』には最低でも静観以上の対応を求めたいのですが」
『残念ながら『オータムリゾート』は十六番街再開発に注力しているので、組織として助力することは出来ません』
やはり。確かに十六番街の再開発は急ピッチで進んでいます。それ故に『オータムリゾート』には抗争へ積極的に介入する余裕はありませんか。
「事情は理解しています。ご助力を乞うつもりはありませんから、その旨お伝えください」
『はい、お姉さま。私個人としてはいつでも助太刀するつもりですよ』
『暁』が動きを見せている頃、帝都にある『聖光教会』大聖堂でも動きがあった。
「聖女様、まさか本当にシェルドハーフェンへ向かわれるおつもりですか!」
若い聖職者が駆け寄りながら少女に声をかける。声をかけられた少女はゆっくりと振り向き、微笑んだ。
「今帝国で最も弱者の多い場所ですから、私が向かわねばなりません」
その少女は蒼い修道服に身を包んみ、美しい銀の髪を腰まで伸ばし、整った目鼻立ちと透き通るような白い肌を持つ美少女であった。
足元は寒さの残る季節でありながら清貧を示すため素足に質素なサンダルを履いている。そして右手には天秤を象った装飾を施した杖を持っていた。
彼女の名前はマリア=フロウベル。『聖光教会』の『聖女』と呼ばれる少女であり、『弱者救済』を掲げて日夜精力的に活動している善人である。そして奇しくもシャーリィと同じ十八歳であった。
「ですが、シェルドハーフェンの治安の悪さは御存知の筈です。なにも聖女様自らが赴かずとも……」
一見心配しているような言動ではあるが、その実『聖女』を手元に置くことで権威を高めようとしている教皇の意向であり、それを察しているマリアは内心ため息を吐きつつ笑顔を張り付ける。
「ご心配に感謝します。ですが、だからこそ私は赴かなければなりません。治安が最悪であると言うことは、それだけ救いを求める弱者が溢れていると言うことを意味するのですから」
「聖女様!」
「少し散策して参ります。昼には戻りますので、それでは」
マリアは笑みを浮かべたまま会釈してその場を立ち去り、大聖堂付近にある森へと向かう。冷たい風が吹く中、林道をしばらく進むと彼女はおもむろに立ち止まる。
すると、草むらから首の無い西洋甲冑が現れて跪く。
『魔王様』
「ゼピス、魔王様は止めなさい。私は『彼』のように偉大な存在ではありません」
『申し訳ございません、お嬢様』
『魔物』の中で高い知性を持つ存在は『魔族』と呼ばれ、この首無し騎士は『デュラハン』と呼ばれる『魔族』であり、マリアからゼピスという名を授けられていた。
「それで、首尾は?」
『はっ、ご命令通りシェルドハーフェンなる街へ手の者を放ちました。すると、複数の魔力反応を関知しました』
報告にマリアは怪訝そうに眉を潜める。
「複数?」
『御意。念のため我自身で探索しましたところ、エルフ、魔女、ドワーフを確認しております』
「それらの種族が人間の街に?」
『はっ、非常に稀な事でございます。こやつらの存在により、お嬢様がお探しの人間の捜索には時を有するかと』
「仕方ありませんね。まさか彼らを排除するわけにもいきません。やはり現地で地道に情報を集めるしかありませんね」
『ですが、人間共の殺気で溢れております。お嬢様が危険な場所に赴かれることには反対したく』
「『彼』は安全な場所で指図だけしていたのですか?」
マリアの言葉にデュラハンは言葉を詰まらせる。
「私の意思は変わりません。賛同者の皆さんと一緒にシェルドハーフェンへ向かいます。ゼピス、もし反対するなら影ながら私を護ってくださいね」
『御意。それでは見た目が人間に近い者達を集めますので、お嬢様の護衛に加えていただきたく』
「許可します。連れてきてくれれば、私が護衛として雇用します」
『有り難き幸せ。では、我は先にシェルドハーフェンへ向かいお嬢様の進出をお待ちします』
「くれぐれも目立たないように。悲しいことですが、人間は魔族を敵視していますから」
『お嬢様の御信任を頂けるだけでも望外の事にございます。では、道中お気をつけて』
静かにデュラハンがその場を立ち去る。
「……。ラインハルト、居ますね?」
マリアの声に答えるように、蒼い騎士服に身を包んだ黒髪の青年が現れて膝を付く。
「ここに、聖女様」
「今の話、聞いていましたか?」
「さて、聖女様の聖なるお言葉以外は耳に入りませんので」
大真面目に答える青年に、マリアは笑みを浮かべる。
「それなら良いのです、ラインハルト。半月以内にシェルドハーフェンへ向かいたく思います。|蒼光騎士団《そうこうきしだん》も……そうですね、全員連れていきます。全ての近代装備を持っていきますよ」
「御意のままに、『聖女』様」
マリアの言葉に疑問を持つこと無く騎士の礼をする従者を見ながら、マリアはシェルドハーフェンへ想いを馳せる。
運命の時は迫りつつあった。