テラーノベル
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大分前からちょくちょく書いてたとても長い作品です✌️
昨日は2本投稿するとか言いながら出来なくてごめんよ🥲
⚠️注意⚠️
・nmmn注意
・キャラ崩壊注意
・吐血表現あり
・通報しないで欲しいです
・運営さん愛してます
夜明け前の街は、まだ静まり返っていた。倉庫街を抜ける路地に、六人分の足音だけが響く。
黒「いや〜、今回は割と楽やったな」
悠佑が伸びをしながら言うと、りうらが苦笑する。
赤「それ毎回言ってない?」
赤「油断してるとそのうち痛い目見るよ」
白「まあまあ、終わったもんは終わったやろ」
初兎が軽く手を振り、いふは端末を確認しながら歩いていた。
青「損害なし、弾薬消費も想定内。撤退タイミングも問題ないな」
青「……ただ」
そこで、いふの視線がないこに向く。
少し後ろを歩くないこは、いつも通りの表情だった。
だが、歩幅がわずかに狭い。服の下にある古傷が疼いているのは明らかだ。
赤「ないくん、傷痛くないの?」
りうらが声をかける。
桃「ん?全然。平気平気」
即答。
それ以上聞かせない、淡々としたリーダーの声。
拠点に戻り、簡易的なミーティングが始まる。
いふが壁に投影された情報を指し示した。
青「次の任務やけど、例の密売ルートや」
青「敵のボス、疑い深い上に暴力的。護衛も多い」
悠佑が腕を組む。
黒「正面突破は無理やな」
黒「人質取られたら最悪や」
水「内部から崩すしかない気がする」
いむが淡々と分析する。
その流れで、ないこが口を開いた。
桃「じゃあ、俺が入る」
桃「いつも通り、弱いフリで」
一気に空気が冷えた。
赤「……またそれ?」
りうらの声が低くなる。
赤「殴られるのも蹴られるのも、全部ないちゃんじゃん」
桃「効率いいでしょ」
桃「俺演技上手いし」
初兎が眉を寄せる。
白「前の傷、まだ治りきってへんやろ」
白「そろそろ限界ちゃう?」
ないこは笑った。
桃「大丈夫大丈夫!」
桃「おれリーダーだし!」
誰も、それ以上言えなかった。
任務当日。
薄暗いビルの一室。
ないこは一人で中に入った。
肩を落とし、視線を伏せ、怯えた演技。
呼吸の乱れも計算通り。
桃「……すみません、話を聞いてほしくて……」
敵は嗤い、距離を詰める。
モ「可愛い顔してるじゃねえか」
ここで仲間が突入する
はずだった。
腹部に、冷たい衝撃。
桃「……え……」
刃物が、深く突き刺さる。
床に崩れ落ちるないこ。
呼吸が乱れ、視界が揺れる。
モ「演技じゃなかったか」
モ「ほんとに弱いんだな」
足が、傷口を踏みつける。
ぐり、と抉られる感覚。
声を出したら終わりだ。
唇を噛み、ただ耐える。
みんなは離れた位置にいる。
まだ、気づいていない。
敵が背を向けた一瞬。
ないこは震える指で通信機を押した。
―危険信号。
数秒後。
白「なにしてくれてんねん……!!」
最初に飛び込んできたのは初兎だった。
続いて、いふ、悠佑、りうら、いむ。
青「ないこ!!」
いふが駆け寄る。
桃「…ごめッ、ゴホッ、、……」
桃「ヘマッ…ゴホッ、しちゃ”、て、…」
吐血しながら、やっと言葉を絞り出す。
青「喋らんでええ!!」
いふが抱きしめる。
青「もう十分やで、もう大丈夫やから…」
悠佑が周囲を警戒しながら叫ぶ。
黒「まだ敵おる!気ぃ抜くな!!」
だが、その瞬間。
敵が増援と共に戻ってきた。
数は、こちらの倍。
モ「逃がすな!!」
銃弾が床を叩く。
いむが歯を食いしばる。
水「数が多すぎるよ……!」
その時、ないこがふらつきながら立ち上がった。
桃「……俺ッ、、の”…」
血に濡れた声。
肺に血が入って肺からゴロゴロと音が鳴っている。
桃「俺”ッ、の”大切なッ…、仲間”ッ、なんッ、、だょ”ッ、」
両腕を広げ、前に出る。
桃「指一本”ッ…触らせなぃ”ッ、、から、な”…!」
モ「負け犬が騒いだってただの騒音にすぎないんだよ。」
直後、また傷口を蹴られる。
りうらが叫ぶ。
赤「やめろ!!」
次の瞬間、五人が一斉に動いた。
銃声、悲鳴、倒れる音。
静寂が戻った時、
ないこはもう、ほとんど意識がなかった。
水「救急車呼ぶ!!」
白「いや、こっちの世界の奴が病院行っても門前払いされるだけや」
赤「アジトに戻ろう。アジトには医者が居る。」
いふがないこを抱き上げる。
青「なんでそんな無理するんよ馬鹿…」
薄れる意識の中で、
ないこはその声を聞きながら、ほんの少しだけ笑った。
アジトの地下にある医務室は、いつもより静かだった。
照明は落とされ、機械音だけが一定のリズムで鳴っている。
ストレッチャーに寝かされたないこは、意識はあるものの朦朧としていた。
服は腹部を中心に切られ、血で濡れている。
モ「……深いね」
アジト専属の医師が淡々と告げる。
モ「刃が斜めに入ってる。臓器までは達してないけど、筋層は完全に裂けてる」
モ「縫合が必要だ。麻酔入れるけど、途中で効きが浅くなるかもしれない」
桃「…平ッ…気…」
ないこが掠れた声で言う。
その一言で、空気が張り詰めた。
青「平気ちゃうやろ。」
いふが即座に返す。
声は低く、怒りを必死に抑えている。
医師が準備を始め、消毒液の匂いが広がる。
針と糸が並べられるのを見て、りうらが視線を逸らした。
赤「……何針くらい?」
モ「最低でも十数針。傷の状態次第ではもっと」
いふが眼鏡越しに傷を確認しながら言う。
青「痛覚反応が強い。出血量も多いな…」
モ「しばらくは前線復帰無理だよ」
黒「前線って……」
悠佑が低く息を吐く。
黒「そもそも、もうあの作戦自体見直すべきや」
縫合が始まる。
元々昔から荒れた世界で孤児として過ごしてたないこは大人達に無理やりやられた研究のせいで薬が効きずらくて、今回も麻酔が効ききらないのか、ないこの指先が僅かに震えた。
それを見て、初兎が視線を落とす。
白「……作戦会議しよ」
医師に一礼し、五人は医務室の端、ガラス越しに見える位置に集まった。
ないこの姿が視界に入る距離だ。
黒「まず前提な」
悠佑が口を開く。
黒「“ないこが囮になる”は無しや」
黒「もうそれ前提で組むのは限界」
水「でも、成功率は一番高かったよね?」
いむが事実を述べる。
黒「だからこそ、依存しすぎた」
りうらの声は震えていた。
赤「りうらたち、ないくんが傷つく前提で動いてたよね」
赤「それで“怪我しても仕方ない”って思ってた」
沈黙。
ガラスの向こうで、針が皮膚を通る。
ないこが小さく息を詰めるのが見えた。
いふが拳を握る。
青「次からは役割分散しよう。」
青「ハニトラ役も囮も、ローテーション」
青「そもそも一人で前に出さへん」
黒「敵を油断させるなら、環境を使おうや。」
悠佑が端末を操作する。
黒「照明、音、通信妨害。人を使わへんくても方法はある」
白「俺が前出る」
初兎が言った。
白「俺が殴られる役でもええ」
黒「それは違う」
悠佑が即座に否定する。
黒「“誰かが犠牲になる”って発想自体、もう終わりにせなあかん」
再び、静かになる。
その時、医師の声が聞こえた。
モ「……よし、縫合終了」
モ「出血も落ち着いた」
五人が一斉に医務室へ戻る。
ないこはぐったりしていたが、目は開いていた。
桃「……ごめん……」
その一言に、いふが一歩前に出る。
青「謝らんで。」
青「もうそれ聞き飽きた」
優しい声だった。
でも、確かに怒っていた。
青「次同じことしたら、俺止めるからな?」
ないこは何も言えず、視線を逸らした。
悠佑がぽつりと付け足す。
黒「お前がおらん作戦なんか、意味ないんや」
黒「守る側に回る時もあるって、覚えとけ」
ないこはゆっくり瞬きをして、
ようやく小さく頷いた。
縫われた傷の痛みより、
その言葉の重さの方が、きっとずっと深く残っていた。
医務室の灯りが落とされたあと、
ないこは一人、簡易ベッドの上で天井を見つめていた。
腹部に走る鈍い痛みは、一定じゃない。
呼吸のたび、少しずつ位置を変えて主張してくる。
……ちゃんと、縫われてる。
それは分かってる。
桃「……役に立ててないな」
ぽつりと、誰もいない部屋に落ちた声。
これまでの任務が頭の中で反芻される。
自分が前に出て、殴られて、蹴られて、刺されて、
その間に仲間が動いて、敵が倒れる。
それが一番早くて、確実で。
だから選んできた。
選ばれてきた。
桃「……俺が痛い思いするのが、一番マシなんだよな」
そうじゃなかったら、何が残る?
自分に、何の価値がある?
指先が無意識に腹部へ伸びる。
包帯の上から、そっと、擦る。
ひり、とした痛みが走って、
それが逆に安心を連れてくる。
声を殺して、布団に顔を埋める。
嗚咽が喉まで来るのを、必死で押し殺す。
役に立てない恐怖。
何もしない自分が、ここに居る意味がなくなる恐怖。
桃「……俺が弱いからッ、、ダメッ、なん、だ、泣」
安静にしとけと医師にも、いふにも、きつく言われていた。傷が開くから。
分かってる。
分かってるけど。
深夜、アジトの廊下は静まり返っている。
見回りの足音を避けるように、ないこは地下へ降りた。
練習場。
コンクリートの床、無機質な照明、壁に掛けられた武器。
ないこはジャケットを脱ぎ、包帯を気にしながら軽く構える。
桃「……動けないわけじゃない」
最初はゆっくり。
フォーム確認だけのつもりだった。
でも、鏡に映る自分の顔が目に入った瞬間、
胸の奥で何かが弾けた。
桃「……こんなんで、リーダー名乗ってたのかよ」
一歩踏み込み、空を殴る。
次の瞬間、腹部に鋭い痛みが走って、息が詰まる。
それでも止まらない。
蹴り、突き、回避。
傷を庇って歪む動きに、苛立ちが募る。
桃「まだ、…弱い…」
声が荒くなる。
呼吸が乱れる。
ふと、壁に手をついた瞬間、
包帯の下でじわりと熱が広がった。
桃「……っ」
血だ。
分かっていても、止めない。
止まれない。
桃「…俺が壊れてでも……」
仲間が無事なら、それでいい。
それしか、価値がないなら。
膝が床に落ちる。
呼吸が追いつかない。
それでも、ないこは拳を握った。
桃「……まだ…足りない…」
地下室に響く、荒い息と、
誰にも届かない独り言。
その背中は、
“守られること”を選ぶには、あまりにも追い込まれていた。
地下室に、金属音が落ちた。
乾いたその音は、広い空間で何度も反響して、異様なほど大きく響いた。
その瞬間、ないこの指から力が抜けた。
握っていた武器が床を転がり、視界が一気に揺れる。
桃「…っ、ぁ……」
膝が、崩れた。
床に落ちる直前、腹部を押さえた手のひらに、ぬるりとした感触が広がる。
包帯の隙間から、血が溢れていた。
呼吸をしようとすると、痛みが追いかけてくる。
息を止めても、やっぱり痛い。
桃「…あ、やばッ…」
そこまで言って、声が震えた。
やりすぎた。
分かってたのに。
地下室の入口に一番近い部屋。
そこで休んでいたいむと初兎が、同時に顔を上げた。
水「今の音……なに?」
白「金属音や。地下から聞こえた」
初兎が立ち上がり、いむが壁際の懐中電灯を掴む。
嫌な予感が、二人の間で言葉にならずに共有された。
階段を降りるにつれ、空気が変わる。
鉄の匂い。
微かに、血の匂い。
水「……ないちゃん?」
懐中電灯の光が、床を照らす。
そこにいたのは――
膝をつき、前屈みになったまま動かない、ないこだった。
床には血。
包帯は赤く染まり、滴がぽたぽたと落ちている。
白「……っ、ないちゃん!?」
初兎が駆け寄る。
いむは一瞬、言葉を失った。
白「お前ッ、何してん…!?」
返事はない。
ないこは、震える指で床を掴みながら、必死に呼吸を整えようとしていた。
桃「…ッ大丈夫…動けるッ……」
その声は、誰が聞いても大丈夫じゃなかった。
初兎は即座に状況を判断し、踵を返す。
白「いむくん、ベル」
水「……っ、ああ!」
いむが走り、非常用のベルを叩く。
アジト全体に響く、緊急音。
カン、カン、カン。
それは“最悪の事態”を知らせる合図だった。
白「医務室だ!急げ!」
初兎がないこの身体を支え、いむが反対側から肩を抱く。
桃「……ごめ”ッ、…」
ないこが、かすれた声で呟く。
白「喋らんでええって、!」
水「意識を保って、ないちゃん、今はそれだけでいいから」
階段を上がる途中、次々と足音が合流する。
りうら、悠佑、いふ。
赤「…嘘ッ、だろ」
青「また…無理したんか…」
誰も責める言葉を口にしない。
ただ、その顔は青ざめていた。
医務室に運び込まれ、ベッドに横たえられるないこ。
医者が呼ばれ、照明が強くなり、血の匂いがさらに濃くなる。
ないこの視界は、ぼんやりと滲んでいく。
天井の白。
慌ただしく動く影。
自分を囲む、仲間の気配。
桃「…役にッ、、立てなッ、ぃ、……」
その言葉を最後まで言わせなかったのは、
誰かの、震えるほど強い声だった。
黒「それ以上言うな」
誰の声か、ないこにはもう分からなかった。
ただ、
自分が思っていたよりもずっと多くの手が、
必死に自分を守ろうとしていることだけは、
薄れゆく意識の中でも、はっきりと伝わっていた。
意識が、ゆっくり浮上していく。
消毒液の匂い。
規則的な機械音。
腹部に走る、鈍くて重たい痛み。
桃「…っ」
小さく息を吸った拍子に、縫われた場所がじくりと主張する。
桃「みんな…?」
掠れた声だった。
その一言で、医務室の空気が一変した。
赤「起きた!?」
青「まだ喋らんでええよ」
水「気分悪くない?眩しくない?」
一気にベッドの周りに人影が集まる。
りうら、いむ、初兎、悠佑、いふ。
どの顔も、心配でいっぱいだった。
桃「…だいじょ…ぶ。ちょっと、痛いけど……」
そう答えると、いふがほっと息をつき、悠佑がベッドの横に腰を下ろす。
黒「体調どう?めまいとかない?」
優しい声。
触れ方も、視線も、全部が気遣いで満ちている。
ないこは、ちゃんと答えようと頷いていた。
その時だった。
白「……じゃ、こっからは真面目な話な」
初兎の声が、少し低くなる。
その一言で、空気が変わった。
全員の表情から、柔らかさが消える。
怒りというより、抑え込んだ不安と恐怖。
青「ないこ、お前な」
青「自分の体、何やと思っとるんや」
青「傷、開くって言われとったやろ」
責める口調じゃない。
でも、逃がさない声音。
ないこは、黙って頷いた。
桃「…ごめん」
それを聞いて、悠佑が一度深く息を吸う。
黒「無理しすぎや。だから俺らで話し合って決めたんよ」
いふが続ける。
青「しばらく謹慎期間な。」
青「また同じこと起きたら、正直…俺らが耐えられへん」
青「謹慎中は、部屋から出るの禁止」
青「ないこはすぐさっきみたいな馬鹿なことするから外側から鍵付ける」
桃「……え!?」
思わず声が出た瞬間、腹部に鋭い痛みが走る。
桃「――っ、う”……」
すぐに初兎の手が背中に回る。
白「あぁもう、そんな興奮せんの」
白「深呼吸。ほら、ゆっくり」
背中をさすられ、痛みが少し引く。
でも、ないこの顔は納得していなかった。
桃「…いや、でも!!」
桃「それはおかしい!」
声は弱いのに、必死だった。
桃「俺だって戦える」
桃「前線貼れるし、囮だってできる!!」
呼吸が荒くなる。
桃「怪我してたら油断させやすいし…」
桃「むしろ、役に――」
赤「もうやめてよッ!!!泣」
りうらの声が、医務室に響いた。
誰も予想していなかった。
一番感情を抑えるはずの彼が、泣きながら怒鳴った。
赤「それ以上言わないでッ!!泣」
赤「自分が囮になれば役に立つとか馬鹿なこと言わないでよッ!!泣」
涙が止まらず、言葉が詰まる。
赤「…毎回そうじゃん、泣」
赤「怪我してッ、血だらけでッ、それでも笑って…泣」
赤「それで『役に立てた』って顔するの、もう見たくないんだよッ…!泣」
ないこは、完全に言葉を失った。
りうらは止まらない。
赤「俺らがどんな気持ちで運んでると思ってるのッ、、?泣」
赤「死ぬかもしれないって思いながら運ぶの苦しいんだよッ…泣」
嗚咽混じりの声。
医務室は、静まり返った。
桃「……ごめん…」
やっと出た声は、震えていた。
桃「休む…ちゃんと休むから…」
桃「…謹慎する」
桃「完治するまで、外出ない……」
その言葉に、りうらが顔を覆い、いむがそっとりうらの肩に手を置く。
初兎が小さく頷いた。
白「分かってくれたなら、それでええよ」
いふが、ないこの手を握る。
青「完治するまでや」
青「それまでは俺らが前線立つ」
悠佑が、静かに言った。
黒「お前は、戻ってくる場所を守っといてくれ」
黒「それも、リーダーの仕事や」
ないこは、ゆっくり目を閉じた。
胸の奥が、じんわりと痛い。
でもそれは、
傷の痛みとは違う。
守られていることを、初めて真正面から突きつけられた痛みだった。
その夜からないこは、完治するまで謹慎。
鍵の付いた部屋で、
“戦わずに生きる時間”を、強制的に与えられることになった。
謹慎期間と言っても、部屋が完全に静まり返ることはなかったんだけど。
任務がない日は、誰かしらが顔を出す。
差し入れを持ってきたり、くだらない話をしたり、カードを広げたり。
医務室代わりのベッドの周りは、案外にぎやかだった。
それでも。
夜になると、ふと考えてしまう。
――みんなは今も戦ってる。
――俺だけ、ここで寝てる。
天井を見つめながら、腹の奥に残る鈍い痛みとは別の、重たい感覚が胸に溜まっていく。
桃「……俺、何してんだろ」
独り言は、誰にも届かない。
その日、いふと悠佑が遊びに来た。
ノックもそこそこに入ってきて、いつもの調子で椅子を引き寄せる。
青「よー、生きとる?」
黒「ただいまー」
ないこは、曖昧に笑った。
少し沈黙が流れる。
いつもならここで、どうでもいい話を振る。
でもその日は、言葉が喉に引っかかって出てこなかった。
桃「…ねぇ」
ぽつりと、ないこが口を開く。
青「ん?」
桃「疲れてるとこ申し訳ないんだけど、俺の相談聞いてくれる?」
黒「おう。ええで」
桃「俺さ…惨めなんだよ」
いふと悠佑が、同時に視線を向ける。
桃「みんなはちゃんと戦ってるのに」
桃「俺だけ、ベッドの上で休んでるだけでさ」
指先が、無意識にシーツを掴む。
桃「リーダーなのに」
桃「守られる側になって……」
声が少し、震えた。
桃「…ほんと、何してんだろって」
桃「なんて、二人に言っても意味ないよね…ごめん」
いふはすぐに何も言わなかった。
悠佑も、急かさない。
少し間を置いてから、悠佑が口を開く。
黒「惨めに感じるくらい、ちゃんと前走ってきた証拠やろ。」
静かな声だった。
黒「走ってへんやつは休んでも惨めとか思わへんし」
黒「お前は、ずっと前線におったから」
いふが頷く。
青「今まで頑張りすぎてんの、ないこは」
ベッドの縁に肘をつき、真っ直ぐないこを見る。
青「一気に頑張ったんやから」
青「一気に休まな、身体も心も追いつかへんやろ?」
桃「……でも」
ないこが言いかけると、いふは被せるように続けた。
青「分かっとるで」
青「置いていかれてる気がするんやろ」
図星だった。
青「戦えへん自分が、価値なく感じるんやろ」
ないこは、ゆっくり頷いた。
悠佑が、少しだけ強い口調になる。
黒「お前が今ここにおることで、前線が保たれてる」
黒「リーダーが生きとるって事実が、俺らの背中押しとるねんて。」
桃「…そんな大げさな」
黒「大げさちゃうよ」
悠佑は即答した。
黒「もし今日、俺らが帰ってきて」
黒「この部屋空っぽやったらどうする?」
ないこは、答えられなかった。
黒「間違いなく子供組は取り乱すやろ。俺らも取り乱すし。」
黒「俺らの中でないこはいちばん大切な人やしさ。」
いふが、少しだけ笑う。
青「お前が休んでるのは、逃げちゃうよ。」
青「戻るための、準備期間やで。」
ないこは、唇を噛んだ。
胸の奥が、じんと熱くなる。
桃「…俺さ」
桃「役に立てないの、怖いんだよ」
小さな声だった。
桃「必要とされなくなるのが…」
いふは、即座に首を振った。
青「ならんよ」
青「断言する」
悠佑も続く。
黒「お前は、俺らの戻る場所やし」
黒「戻ってくる理由や。」
黒「それが分からんくなるくらい、疲れとるだけ」
いふが、ぽん、と軽くないこの肩を叩く。
青「今はね、戦場に出るんやなくて」
青「生き延びてくれりゃなんでもええの。」
青「それ出来るん、ないこだけやで」
ないこは、ゆっくり息を吐いた。
惨めさが、完全に消えたわけじゃない。
でも、胸を圧迫していた重さが、少しだけ緩んだ気がした。
桃「…ありがとう」
そう言うと、悠佑が笑った。
黒「礼言われるほどのことちゃうよ、w」
黒「仲間やろ」
いふも頷く。
青「休め」
青「ちゃんと休んで前線戻ってこい」
その言葉に、ないこは目を閉じる。
――今は、休むことが仕事。
そう思えるまで、
もう少しだけ、時間をもらってもいい気がした。
ある日の昼前。
医務室のドアが軽くノックされて、ほぼ同時に開いた。
水「やっほー」
白「生きとるかー?」
いむと初兎が、いつもより少し明るすぎる声で入ってくる。
ベッドに腰掛けていたないこは、顔を上げて少し驚いたあと、すぐに笑った。
桃「お!おかえりー」
桃「任務終わったの?」
水「さっきね」
白「問題なし」
二人は椅子を引き寄せて座り、任務の話やどうでもいい雑談を始める。
ないこも普通に笑って、相槌を打っていた。今日は自分でも不思議なくらい、心が落ち着いていた。
しばらくして、いむが立ち上がる。
水「じゃあ、そろそろ行こっか」
水「夜の巡回あるし」
白「せやな」
二人がドアに向かいかけた、その時。
ないこは一瞬迷ってから、ベッドから立ち上がり、二人の裾をきゅっと引いた。
桃「……待って」
振り返った二人の視線が、同時にないこに集まる。
白「どうしたん?」
水「具合悪くなった?」
ないこは首を振って、少しだけ視線を落とした。
桃「その……」
桃「抱きしめてほしい」
間を置いて、照れたように続ける。
桃「今日、お医者さんに聞いたらさ」
桃「ぎゅーするくらいなら大丈夫って」
その言い方があまりにも素直で、少し幼くて。
いむは一瞬目を丸くしてから、ふっと微笑んだ。
水「…もちろんだよ」
初兎も小さく息を吐いて、歩み寄る。
白「そんなん言われて断れるわけないやろ」
二人は左右から、そっと距離を詰めた。
いむが前から腕を回して、背中に手を当てる。
初兎は後ろから、包むように腕を伸ばす。
ぎゅー。
強すぎない、でも確かに逃がさない力。
ないこは一瞬息を詰めてから、安心したように二人の服を掴んだ。
桃「…ふふ、w」
水「無理してない?」
水「お腹、痛くない?」
桃「うん、大丈夫」
初兎が、ないこの背中をゆっくり撫でる。
しばらくして、名残惜しそうに腕がほどかれる。
桃「ありがとう」
桃「ほんとに」
水「どういたしまして」
水「また来るから」
白「無理すんなよー」
二人が出ていったあと。
ないこはベッドに座り直して、胸の奥に残った温もりを確かめるように、そっと息を吐いた。
数日後。
アジトの廊下に、いつもより重たい足音が響いた。
長期の単身任務から戻ってきた、りうらだった。
装備は最低限、肩は落ちていて、目の下にははっきりとした隈。誰が見ても「限界まで使い切った」帰還だった。
上部にも報告を済ませ、他のメンバーにも一通り無事を伝えたあと。
りうらはほとんど無意識のまま、足をないこの部屋へ向けていた。
ノックは、いつもより弱い。
赤「……入っていい?」
桃「どうぞー」
ドアを開けると、ベッドに座っていたないこが顔を上げる。
その瞬間、りうらの肩から力が抜けたのが、はっきり分かった。
桃「おかえり」
桃「随分お疲れだね」
桃「お疲れ様。」
その一言だけで、張り詰めていた何かが切れたらしい。
りうらは返事も曖昧なまま、ベッドの横に座り込んだ。
赤「……しんどかった」
声が低く、かすれている。
ないこは少しだけ迷ってから、ベッドの上で足を伸ばした。
桃「……膝、使う?」
その言葉に、りうらは一瞬目を瞬かせてから、ほとんど反射みたいに頷いた。
赤「…ん…使う」
ゆっくりと体を預けると、ないこの太ももに後頭部が乗る。
ないこは慣れた手つきで、りうらの髪に指を通した。
桃「無事でよかった」
桃「ちゃんと戻ってきてくれて嬉しい」
赤「……ここ来たら、やっと帰ってきた気がするよ」
りうらはそう呟いて、目を閉じた。
しばらくは、時計の秒針の音だけが部屋に落ちる。
ないこは何も言わず、ただ一定のリズムで髪を撫で続けた。
赤「ないくんの部屋ってさ」
ぽつりと、りうらが言う。
赤「不思議だよね」
赤「ここ来ると、身体が先に休もうとする」
ないこは小さく笑った。
桃「そんな大した部屋じゃないけど」
赤「違う」
赤「場所じゃない」
りうらは目を閉じたまま、続ける。
赤「帰ってきたときに」
赤「『大丈夫だった?』って顔があるのが、でかい」
その言葉に、ないこは一瞬だけ手を止めてから、また撫でた。
桃「…それなら、いくらでもおいで。いくらでも大丈夫か聞いてあげるから」
その日を境に、少しずつ変わっていった。
任務帰りのいふが、報告の前に一度立ち寄るようになり。
悠佑は夜遅く、何も言わず椅子を借りて座っていくことが増えた。
いむと初兎も、気づけば雑談の場所を自然とここに選ぶ。
誰かが戦って帰ってきて、
誰かが疲れ果てて、
誰かが何も話したくなくなったとき。
「とりあえず、ないこのとこ行こ」
その一言で、流れが決まる。
ないこ自身は、まだ前線に戻れていない。
それを惨めに思う夜も正直あった。
でも。
誰かの頭を膝に乗せて、
誰かの背中をさすって、
誰かが「ここに来てよかった」と息を吐くのを感じるたび。
役に立てていない、なんてことはないと思えるようになった
この部屋は、いつの間にか
“一番最初に帰る場所”になっていた。
りうらは眠りに落ちる直前、ぼそっと言った。
赤「……ねぇ、ないくん」
赤「ここ、りうら達の安全地帯だよ」
ないこは答えず、ただ静かに微笑んで、髪を撫で続けた。
医務室の白いカーテンが、静かに揺れた。
モ「……よし」
医者がカルテを閉じる。
モ「傷は完全に塞がってる。筋力も問題なし」
モ「もう前線に戻っていいよ」
一瞬、ないこはきょとんとしたまま固まって――
次の瞬間、ぱっと顔が明るくなった。
桃「……ほんと!?」
桃「やったー!!」
思わず立ち上がりかけて、医者に「急に跳ねるな」って軽く注意されるくらいには、嬉しさが抑えきれてなかった。
部屋に戻ると、ないこはすぐクローゼットを開けた。
しばらく触れていなかった、いつもの任務用の装備。
ベスト、ホルスター、手袋。
一つずつ身につけるたびに、身体が思い出していく感覚があった。
鏡の前に立つと、そこにはちゃんと“リーダーのないこ”が映っていた。
桃「……行ける」
小さく呟いて、部屋を出る。
作戦室では、ちょうどメンバー全員が集まっていた。
次の任務の確認中だったらしく、ホログラムの地図が宙に浮いている。
ドアが開く音に、全員の視線が一斉に向いた。
桃「おーい!」
ないこが、いつもの軽い調子で手を上げる。
桃「報告!」
桃「医者から許可出たよ!!」
一拍の間。
次の瞬間。
青「……は?」
いふが素で声を裏返した。
青「え、ほんまに!?」
青「もう大丈夫なん!?」
桃「嘘つく意味ある?」
桃「ほら」
そう言って、ないこは軽く腕を振ってみせる。
傷を庇う様子は、もうどこにもない。
悠佑がじっと見てから、ふっと笑った。
黒「その格好」
黒「久々に見たな」
初兎は腕を組んだまま、じっとないこを見ていたが
次の瞬間、いつもの調子で口角を上げた。
黒「おかえり、ないこ」
黒「待たせすぎやで」
いむは一歩近づいて、腹のあたりを気遣うように視線を落としてから、
水「無理したら、次は僕が怒るからね!」
水「それだけ覚えといて!」
りうらは少しだけ目を潤ませて、でも笑った。
赤「…ほんとに、よかった」
赤「戻ってきてくれて」
ないこは一瞬だけ、照れたように視線を逸らしてから、いつもの笑顔に戻る。
桃「心配かけましたー、w」
桃「というわけで」
一歩前に出て、作戦室の中央に立つ。
桃「次の任務」
桃「俺も入る!」
一瞬、空気が引き締まったあと
全員が、自然と頷いた。
“休憩場所”だった部屋を出て、
“前線”へ戻るその背中を。
誰も、もう止めなかった。
とっても書くの頑張ったので沢山いいねください🍣👍
1万は欲しいな(最低)
コメント
5件
あーーさいこう マフィアパロとか萌えるよね 自己犠牲4️⃣大好きなんだよ本当に つまり僕はこの流れでぜろばんのやつ出せばいいってことですかね
まてまてまてくださいやばいすきすぎる!!!!😭😭😭😭 語彙力無くなってしまう😭😭😭 えほんとすきすぎるえどうしてくれますかるーさんえやばいっす好きすぎます感謝しかないやばい えあありがとうございます
1万任せろくださいまじで。いつも最高な作品ありがとうございます…っ ̫ ‹ ෆ