学校が終わり、放課後となった僕は図書館に向かった。制服のまま学校指定の鞄を背負って図書館に向かうのは、何というか学生らしくて良いじゃん。と、僕は思っていた。
(……うーん)
そして、遂に図書館での勉強を開始した僕は心中で唸り声を上げた。
(なんか、違う)
折角なら綺麗目で大きい所に行こうと総合図書館と呼ばれる場所に向かった僕だが、そこで適当な椅子に座って良い感じに勉強をしようと考えていた自分の考えが甘いことを知った。
先ず、図書館での自習は専用のスペースでしか許されない。そして、入り口で座席券を取得して学習室と呼ばれる場所に向かい、そこで漸く勉強が許される。パソコンとか電卓は使っちゃダメらしい。
しかも、近くにはちょっとした軽食用のスペースがあり、食べ物と飲み物の自販機も並んでいた。何というか、現代って凄い。
でも、危なかったね。これを知らずに嘘を吐き通していれば直ぐにバレていたかも知れない。やはり、実践に勝るものは無いということだ。来てよかったね、図書館。折角だし、後でなんか食べようかな。
三十分ほど持参した教材に向かい合っていた僕だが、遂に限界を迎えた。集中力が切れ、飽きてしまったのである。呼吸を使えば、集中力を高めることも可能ではあるが……この公共の場でやるには、少しリスクがあるだろう。
よし、ご飯食べよう。何があるかな~?
自販機には軽食としておにぎりやパン類に加え、おやつなんかも結構入っていた。パスタとか食べたい気分だったけど、流石にそんなものは無かった。
仕方ないので僕はパンを何種類か買い、隣の自販機でカフェオレを購入した。そのまま軽食用のスペースに向かい、荷物を置いて机にパンとカフェオレを並べる。片手にスマホを握れば立派な現代高校生の完成である。
「うん」
僕はクリームパンをかじり、カフェオレで流し込んで頷いた。なるほど、図書館で勉強……悪くないぞ。実質、喫茶店で勉強しているようなものだろう。違うかな。やったこと無いから分かんないね。
僕はもぐもぐとパンを咀嚼しながらスマホを弄り、ツイックスを開いてネットのつまらない情報を流し見した。開く度にこの時間の無価値さに萎えるけど、気付いたら開いてしまっているのが現代人の性だ。
でも、今の僕は違う。これに頼らずとも面白いものが見れるのが……そう、全知全能である。
以前はゲームに熱中したせいで見れなかった魔術士の見学……行っちゃいますか!
僕はスマホを見ているフリをしながら、全知全能によって条件付けを済ませ、そこに接続した。
♢
白雲の立ち込める山中を駆け抜ける少女は、そこで足を止めた。白いおかっぱの短髪が急停止した体に追いつけず浮き上がり、ふわりと元の位置まで降りた。
「何者だ」
少女は目を細め、確かに僕の方を睨んだ。
♢
無し、無しだ! これ、無し! 明らかに僕の方見てたって今の人! 何で気付かれた!? 魔術士って凄いね!?
僕は跳ねる心臓を落ち着かせ、ひとしきり慌てた後に漸く呼吸を落ち着かせた。
まぁ、今回は条件が良くなかった。折角ならってことで日本でも上位の魔術士を見ようとしてしまった。何の対策もせずに。その結果がこれだ。そもそも気付かれるなんて思っても居なかったから対策もしてなかった。実体すら無く、僕の感覚だけがそこにあったのに、気付くなんて魔術士はおかしい。
今度は気付かれないという条件を付けて行こう。これなら、幾ら相手が凄い魔術士でも関係ない筈だ。
♢
霧と霞、白雲の満ちるその場所で、白髪の少女は胡坐をかいて目を閉じていた。しかし、少女は突然目を見開いた。
「……」
口を開くことはしない。だが、どうしようもない違和感に少女は周囲をただ睥睨している。
「『あらゆる行は裂かれ、無常を知る』」
今度は僕の位置は見つけられないようだった少女だが、静かに落ち着いた声色で何かを唱えだした。
「『果滅帰因《ヘツ・カットゥム》』」
黄金色の魔法陣が開き、そこから魔力の光が溢れ出す。
♢
気付けば、僕の意識は元の学習室に戻っていた。え、なにこれ。何されたの僕。僕は唖然として自分の体を確かめた。特に、異常はない。全知全能もそう言っているから、大丈夫だ。
でも、今のは何だ。僕は何をされて、何でここに戻ったんだ? 相手には、気付かれない筈じゃ……?
――――術によってこの場に戻されました。存在には気付かれていませんが、貴方が存在することによって齎された空間の変化に気付き、さっきの存在と同一であろうと察して術を使われました。
な、何それ……もしかして僕、危なかった? いや、命の危険は常に僕の全知全能が守っているから大丈夫か。でも、怖いから覗きに行くのは止めよう。正直、ちょっとトラウマになりそうかも。
「……良し、帰ろう」
今日の勉強は終わりだ。もう、十分にいい勉強になった。魔術士には手を出すな、だ。
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