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ゆうき あきや
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#心理描写重視
第88話:春の山菜採り。行者ニンニクの香りと大地〜神獣のダウジングと、大地の錬金術〜
北海道十勝地方。
俺がMeTubeの収益を全額叩き込んで買い上げた限界集落の山林にも、力強い生命の息吹が満ち溢れていた。
雪解け水を含んだ黒く湿った大地からは、ツンとした土の匂いと、青々とした植物の香りが立ち上っている。
木々の間から差し込む春の陽光が、森全体をキラキラと黄金色に輝かせていた。
「よし。今日は我が家の裏山で、春の味覚の王様『行者ニンニク』の調達任務を決行する」
俺——アキヤは、首にタオルを巻き、腰に熊よけの鈴と山菜採り用のナイフを装備して、ジンバルのカメラに向かって宣言した。
「わぁーい! 山菜採りですね! 私、行者ニンニク大好きです!」
隣では、大きな竹籠を背負った小春ちゃんが、遠足に来た子供のようにピョンピョンと跳ねている。
足元では、キタキツネの兄弟であるコン吉とコン次郎が「早く行こうぜ!」とばかりに、尻尾を振って俺たちを急かしていた。
画面の向こうでは、今日も三百万人のリスナーたちが、限界集落の春のレジャーをのんびりと見守っている。
『主の山菜採り配信キタ━(゚∀゚)━!』
『行者ニンニク! アイヌネギとも言うんだっけ? 最高に美味いよな!』
『でも行者ニンニクって、斜面の急なところに生えてるから見つけるの難しいんだよね』
『Y旧ツイッタラーの間でも、遭難注意って毎年話題になるやつだ』
『シロ様も行くのかな?』
「あぁ、行者ニンニクは成長が遅く、収穫できるサイズになるまで数年かかる。乱獲もあって、今では幻の山菜とも呼ばれている代物だ。だが、現地での自活能力を高め、食料の現地調達ルートを確立するのは、元・陸上自衛隊需品科としてのロジスティクスの基本だからな」
俺が理屈っぽい解説をしながら裏山へと足を踏み入れようとした、その時だった。
『ミャウ』
縁側の定位置で丸くなっていた神獣シロが、ゆったりと立ち上がり、俺たちの前へと進み出た。
その純白の毛並みは、森の緑の中で発光しているかのように美しい。
「おっ、シロちゃんも一緒に行ってくれるの? 山の中は土で汚れちゃうよ?」
小春ちゃんが心配そうに声をかけるが、シロは全く気にする素振りも見せず、ピンと尻尾を立てて森の奥へと続く獣道を歩き始めた。
シロが、ふわり、ふわりと、肉球で柔らかな土を踏みしめる。
その瞬間。
ポンッ。ポンポンッ。
「……えっ?」
俺と小春ちゃんは、同時に足を止めて目をこすった。
シロが歩いた直後の、雪解けの黒い土の中から。
まるで早送りの映像を見ているかのように、色鮮やかなエメラルドグリーンの新芽が、次々と顔を出したのだ。
それは、まさしく俺たちが探し求めていた幻の山菜、『行者ニンニク』だった。
しかも、通常なら数年かかるはずの極太サイズで、葉の表面には朝露がキラキラと光り、強烈なニンニクとニラの食欲をそそる香りを森中に放っている。
シロは数歩進んでは立ち止まり、前足で「ポンッ」と地面を叩いた。
『ミャウ(ここを掘りなさい)』
「な、なんだこれ……!?」
俺が指示された場所の土をナイフで軽く掘り返すと、見たこともないほど立派で、生命力に満ち溢れた最高級の行者ニンニクが、根元からズルッと簡単に抜け出してきた。
『コンッ!』
『キュゥ!』
コン吉とコン次郎も、シロが前足で叩いた場所を器用に前足でホリホリと掘り起こし、立派な行者ニンニクを咥えては、小春ちゃんの背負った竹籠の中へとポイポイと放り込んでいく。
「お、お兄さん! これ、宝探しっていうか、シロちゃんが歩いたところから行者ニンニクが錬成されてますよ!!」
小春ちゃんが、次々と竹籠に放り込まれる極太の山菜を前にパニックに陥っている。
画面の向こうのチャット欄は、すでに限界突破の狂乱状態だった。
『うおおおおおおおお!!!!』
『大地の錬金術師シロ様!!』
『歩いた跡に命が芽吹くとか、完全に神話の神獣のソレだろww』
『ダウジングどころか、強制成長させてるwww』
『キツネたちが自動収穫マシーンになってるの草』
この圧倒的な奇跡の光景に、世界中のVIPたちの財布がまたしても吹き飛んだ。
『(ドバイの石油王からの¥50,000MeTubeギフト)=”A miracle of the earth! Master, I will buy that glowing mountain vegetable for $10,000 a piece!“(大地の奇跡だ! 主よ、その光り輝く山菜を一つ1万ドルで買い取ろう!)』
『(スイスの銀行家からの¥50,000MeTubeギフト)=”Infinite regeneration of resources! Shiro is the ultimate sustainable asset!“(資源の無限再生! シロこそ究極の持続可能な資産だ!)』
『(ハリウッド女優シャーロットからの$500MeTubeギフト×5連発)=”Is that a magical detox herb!? Send it to me right now!“(それは魔法のデトックスハーブ!? 今すぐ私に送ってちょうだい!)』
極彩色のMeTubeギフトの嵐が、春の森の緑を覆い隠すように画面を埋め尽くしていく。
開始からわずか十分で、小春ちゃんの竹籠は、最高級の行者ニンニクで山盛りになってしまった。
「シロちゃん、すごすぎる……。これ、市場に出したらとんでもない値段になりますよ……!」
小春ちゃんが、芳醇な香りのする竹籠を抱えながら震える声で言う。
だが。
俺は収穫用のナイフをしまい、元・社畜としての『どんな神の奇跡にも屈しない鋼のポーカーフェイス』でカメラに向き直った。
「……世界中の皆さま。大地の神秘に酔いしれているところ大変申し訳ありませんが、冷静になってください」
『出たァァァァァ!!!』
『三百万人が神話の目撃者になってるのに、一人だけブレない男!!』
『主の限界言い訳タイム・春の山菜採り編ww』
『さあ、この植物の異常成長をどうやって論破する気だww』
俺は、キリッとした真顔で、行者ニンニクの香りが充満する森の中で淀みない口調で言い放った。
「これは錬金術でも奇跡でもありません。猫は本来、硫黄化合物に敏感な嗅覚を持っています。シロは行者ニンニク特有のアリシン成分の匂いを嗅ぎ分け、地中に埋まった株をピンポイントで見つけ出しただけです(ダウジング)。そして、雪解けで緩んだ土壌に対して、シロが前足で的確な『表面張力の破壊』を行った結果、土の中に隠れていた葉がスプリング効果で勢いよく地上に飛び出してきたのです。ええ、ただの嗅覚による探知と、物理学的な土壌力学の応用ですね」
「あるわけないじゃないですかぁぁぁ!!!」
小春ちゃんが、採れたての極太行者ニンニクの束で、俺の頭をスパーン!と引っ叩いた。
「表面張力の破壊で、山菜がバネみたいに土から飛び出してくるわけないでしょ!! しかもどう見たって、シロちゃんが歩く前は影も形もなかったのに、リアルタイムで成長して芽吹いてたでしょうが!! 植物学と物理学を同時にねじ曲げるんじゃないわよ!!」
『小春ちゃんの行者ニンニクスラッシュ炸裂www』
『スプリング効果(強制成長)』
『土壌力学(錬金術)』
『適応力バグおじさん、ついに植物の成長速度まで独自の理論で全否定ww』
『今日も言い訳のキレが最高だぜww』
俺の理不尽極まりない科学的(?)な言い訳と、小春ちゃんの鋭すぎる物理ツッコミに、三百万人の視聴者たちは大爆笑の渦へと叩き落とされた。
『ミャウ(今日の晩ご飯、楽しみね)』
俺たちの足元で、シロが誇らしげに喉を鳴らし、コン吉とコン次郎が「もっと掘る?」と尻尾を振っている。
「……まぁ、理由はどうあれ。最高の兵站(食材)が確保できたのは事実だ」
俺は苦笑いしながら、シロの純白の頭を撫でた。
「よし、今日の夕食は豪華にいくぞ。俺は玄米と大豆パティの付け合わせに、この行者ニンニクをたっぷり刻んでスタミナ醤油漬けにする。小春ちゃんには、採れたての天ぷらを揚げてやるよ」
「わぁっ! ありがとうございます、お兄さん!」
『主、そこは豚肉でジンギスカンとかじゃないのかww』
『億万長者なのに、ごちそうのベースが【玄米と大豆パティ】から絶対ブレない男ww』
『質素なんだか豪華なんだかわからん食卓ww』
春の陽光が降り注ぐ、俺だけの聖域。
神獣がもたらした奇跡の山の恵みと、世界一バグった理屈をこねる元社畜のスローライフは、今日も強烈で食欲をそそる春の香りと共に、平和に更けていくのだった。
コメント
1件
みぅ🤍🥀です。第88話、読ませてもらいました〜。 シロが歩いただけで行者ニンニクが芽吹くシーン、神秘的でめちゃくちゃ好き…。大地の錬金術って表現がぴったりだよね。でもその後にアキヤさんが「表面張力の破壊」とか真顔で言い出すから笑っちゃった(笑)小春ちゃんのツッコミもキレキレで、バランスが絶妙だなって思いました。春の香りとぬくもりが伝わってくる、ほっこりする回でした🌱