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ゆうき あきや
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#心理描写重視
第89話:旬の味覚で春の宴会〜最強の捕食者と、神獣の絶対的階級〜
北海道の春は、雪解けと共に爆発的なエネルギーを大地に解き放つ。
俺——アキヤがまるごと買い上げた限界集落の古民家では、縁側を開け放ち、ジンバルに固定されたiPhone miniのカメラの前で、盛大な『春の宴会』の準備が進められていた。
「わぁっ……! すっごくいい匂い! お兄さん、天才です!」
小春ちゃんが、目を輝かせてテーブルの上を見つめている。
本日のメインディッシュは、昼間にシロの『ダウジング(物理的強制成長)』によって収穫された最高級の行者ニンニクだ。
俺はそれを薄衣でサクッと揚げた天ぷらと、スーパーの特売で買ってきた安い豚肉を特製のタレに漬け込んだ『豚ジンギスカン』を用意した。
「北海道のジンギスカンといえば羊肉(マトンやラム)が定番だが、地域や家庭によっては豚肉を使うことも多い。需品科のロジスティクスにおいて、安価でカロリーの高い豚肉は最強の兵站物資だからな」
俺はカセットコンロの上にドーム型のジンギスカン鍋を置き、脂を引いてから、豚肉と行者ニンニクを豪快に焼き始めた。
ジュウウウウゥゥゥッ……!
タレの焦げる香ばしい匂いと、行者ニンニクの強烈で食欲をそそる香りが、春の風に乗って庭いっぱいに広がっていく。
俺の膝の上ではシロが『ミャウ(早く食べたいわ)』と喉を鳴らし、コン吉とコン次郎は「お肉! お肉!」と尻尾を振って鍋の周りを飛び跳ねていた。
三百万人が見守る配信のチャット欄も、この飯テロ映像に完全に胃袋を掴まれていた。
『うおおおお!! 音と匂いが画面から伝わってくる!!』
『豚ジンギスカンと行者ニンニクの組み合わせは犯罪的だろww』
『ご飯3杯はいける』
『主は相変わらずブレずに玄米と大豆パティ食ってて草』
俺の手元には、いつもの玄米と大豆パティが置かれているが、行者ニンニクの特製醤油漬けをトッピングすることで、ミニマリストなりの春の贅沢を楽しんでいた。
「よし、焼けたぞ。小春ちゃん、熱いうちに食ってみな」
「はいっ! いただきます!」
小春ちゃんがフーフーと息を吹きかけながら、行者ニンニクと一緒に焼いた豚肉を口に運ぶ。
その瞬間、彼女の目がまん丸に見開かれた。
「んんっ!? な、なんですかこれ!! 特売の豚肉って言ってましたよね!? 全然臭みがなくて、ものすごく柔らかくて……まるで、最高級のサフォーク羊みたいに深い旨味がします!!」
「……何?」
俺も大豆パティを口に入れて驚いた。
確かに、安い大豆パティが、高級料亭の精進料理を凌駕する深い味わいに変化している。
俺の膝の上で、シロが『ゴロゴロ……』と喉を鳴らし、淡いオーラを放っていた。
『出た! シロ様のオーラによる食材の超絶バフww』
『特売豚肉をサフォーク羊に変える神獣の錬金術』
『シロ様、マジで一家に一台(一匹)欲しい』
「……いや、これは行者ニンニクに含まれる『アリシン』という成分が、豚肉のビタミンB1と結合してアリチアミンに変化し、疲労回復効果と強烈な旨味を引き出しただけだ。さらに香りの錯覚(プラセボ効果)によって羊肉のような風味を感じているに過ぎない」
俺がいつものように理屈っぽい言い訳を並べていた、その時だった。
ザザザッ……!!
裏山に続く木々の奥から、尋常ではない葉擦れの音が響いた。
コン吉とコン次郎が、全身の毛を逆立てて「ギャンッ!」と悲鳴を上げ、縁側の床下へと転がり込むように隠れた。
「……えっ?」
小春ちゃんが箸を止めた。
俺も、ジンギスカン鍋から手を離し、ゆっくりと音のした方へと視線を向ける。
春の木漏れ日を完全に遮るほどの、巨大な黒い影。
「……嘘だろ」
俺の口から、乾いた声が漏れた。
庭先の茂みを掻き分けて姿を現したのは、体長3メートルはあろうかという、規格外の巨大な『ヒグマ』だった。
冬眠明けで腹を空かせているのか、その落ち窪んだ目はギラギラと血走り、鋭い牙の間からは生唾が滴り落ちている。
圧倒的な暴の化身。
北海道の食物連鎖の頂点に君臨する、最強の捕食者(プレデター)。
ジンギスカンと行者ニンニクの強烈な匂いに誘われて、ついに『山の主』が限界集落の古民家まで降りてきてしまったのだ。
「ひっ……ぁ……」
小春ちゃんが腰を抜かし、顔面を蒼白にして震え上がった。
俺の脳内で、需品科時代に叩き込まれた熊遭遇時の対処マニュアルがフラッシュバックするが、この距離とこのサイズでは、どんな戦術も無意味だった。
配信のチャット欄は、一瞬の静寂の後、大パニックに陥った。
『ヒグマあああああああ!!!!』
『デカすぎだろ!! 終わった!! 完全に終わった!!』
『逃げろ主! 小春ちゃんを連れて家に入れ!!』
『自衛隊呼べ!! いや、需品科じゃ無理だろ!!』
『誰か! 警察に、猟友会に連絡しろ!!』
『放送事故すぎる!! 画面見れない!!』
世界中が一千万の悲鳴を上げる中、巨大ヒグマが「グルォォォォォッ!!」と咆哮を上げ、ジンギスカン鍋に向かって巨大な前足を振り上げようとした。
絶体絶命。
誰もが最悪の結末を覚悟した、その瞬間。
『――――ミャウ』
透き通るような、それでいて大気を震わせるほど凛とした鳴き声が響いた。
俺の膝の上から降りたシロが、俺たちを庇うように一歩前へと進み出たのだ。
体長3メートルの巨大ヒグマと、真っ白な小さな猫。
その体格差は、大人と小石ほどもある。
だが。
シロが、サファイアブルーの瞳でヒグマを真っ直ぐに見据え、威嚇することもなく、ただ静かに見上げた。
ピタッ。
振り下ろされようとしていたヒグマの巨大な前足が、空中で完全に静止した。
「……え?」
次の瞬間。
ヒグマの血走っていた瞳から、スゥッと獰猛な光が消え去った。
代わりに浮かんだのは、圧倒的な『畏怖』と、絶対的な『服従』の色。
ドスゥゥゥゥンッ!!!
巨大ヒグマは、まるで雷に打たれたようにその場に崩れ落ちると、コロンッと仰向けになり、無防備な大きなお腹を天に向けて見せたのだ。
『クゥゥゥ〜ン……』
最強の猛獣が、まるで飼い主に甘える子犬のような、情けない声を漏らしながら、前足をモジモジと動かしている。
「……は?」
俺も小春ちゃんも、床下に隠れていたコン吉たちも、完全に思考が停止した。
シロがゆっくりと歩み寄り、仰向けになったヒグマの巨大な鼻先に『チョン』と肉球でタッチする。
するとヒグマは嬉しそうに目を細め、完全に野生を捨て去った『デカい犬(もふもふ)』へと変貌を遂げた。
『はあああああああああ!?!?』
『ヒグマが……腹見せて服従したぞ!?』
『シロ様の一鳴きで、山の主が堕ちたwwww』
『覇王色の覇気かよ!!』
『体格差をガン無視した絶対的な「格」の違い』
『猛獣すらも平伏させる神獣、恐るべし……』
チャット欄の恐怖は一瞬にして狂乱へと変わり、世界中のVIPたちの財布の紐が再び盛大に弾け飛んだ。
『(ドバイの石油王からの¥50,000MeTubeギフト)=”A miracle! The absolute ruler of nature! Shiro is the true king of the forest!“(奇跡だ! 大自然の絶対的支配者! シロこそが森の真の王だ!)』
『(スイスの銀行家からの¥50,000MeTubeギフト)=”Risk zero! The ultimate security system has been established!“(リスクゼロ! 究極のセキュリティシステムが確立されたぞ!)』
『(ハリウッド女優シャーロットからの$500MeTubeギフト×10連発)=”Oh my God! I want to pet that giant fluffy bear too!“(なんてこと! 私もその巨大なフワフワのクマさんを撫でたいわ!)』
世界中が、ヒグマすらも手懐けるシロの奇跡に歓喜の涙を流している。
「お、お兄さん……。シロちゃん、ヒグマさんを、座らせちゃいました……」
小春ちゃんが、腰を抜かしたまま震える指で巨大なもふもふを指差す。
世界中のリスナーが、画面越しに俺の次の言葉を待ち構えている。
だが、俺はジンギスカン鍋の火を少し弱め、元・社畜としての『どんな理不尽にも屈しない鋼のポーカーフェイス』でカメラに向き直った。
「……世界中の皆さま。パニックに陥っているところ申し訳ありませんが、冷静になってください」
『出たァァァァァ!!!』
『ヒグマが目の前で寝転がってるのに、ブレない男!!』
『主の限界言い訳タイム・野生の王降臨編ww』
『さあ、この食物連鎖の崩壊をどうやって言い訳する気だww』
俺は、キリッとした真顔で、淀みない口調で言い放った。
「これは野生のヒグマなどではありません。非常に精巧に作られた『着ぐるみ(アニマトロニクス)』です。最近、限界集落の過疎化を食い止めるために、地元の観光協会が導入した最新型のマスコットキャラクターですね。中に人が入っており、ジンギスカンの匂いに釣られて挨拶に来てくれただけです。ええ、これは奇跡でも魔法でもなく、地方創生のための『高度なVTuber活動(物理)』の一環です」
「あるわけないじゃないですかぁぁぁ!!!」
小春ちゃんが、我に返って俺の背中に渾身のツッコミを見舞った。
「地方の観光協会に、こんな3メートルのリアルすぎるアニマトロニクスを作る予算があるわけないでしょ!! 中に人が入ってるなら、なんで今シロちゃんに鼻先を舐められて『グルルル……』って野生の猛獣の音を出してとろけてるんですか!! どう見たってシロちゃんの絶対的なオーラに服従した山の主でしょうが!! 自分の命が助かった奇跡を素直に認めなさいよ!!」
『小春ちゃんのキレキレ命懸けツッコミ炸裂www』
『着ぐるみ(リアルなよだれ付き)』
『地方創生のVTuber(物理)』
『適応力バグおじさん、ついにヒグマをゆるキャラに認定するww』
『言い訳のスケールがバグりすぎてて腹痛いww』
俺の理不尽極まりない地方創生的な言い訳と、小春ちゃんの鋭すぎる正論パンチに、三百万人の視聴者たちは恐怖を忘れ、大爆笑の渦へと叩き落とされた。
『ミャウ(一緒に食べる?)』
シロが鳴くと、巨大なヒグマはのそりと起き上がり、縁側の前にちょこんと「お座り」をした。
「……まぁ、理由はどうあれ。客が増えたなら、肉を焼くだけだ」
俺は苦笑いしながら、冷蔵庫から追加の豚肉を取り出し、鍋の上に豪快に乗せた。
春の陽光が降り注ぐ、限界集落の古民家。
シマエナガの空の護衛、キタキツネの地上警戒に加え、新たに『体長3メートルのヒグマ』という規格外の門番(もふもふ仲間)を手に入れた俺たちの聖域は、今日もバグった平和の中で、美味しいジンギスカンの匂いを漂わせ続けるのだった。
コメント
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うわあ第89話めっちゃアツかった…!!🔥 ジンギスカンと行者ニンニクの飯テロから始まって、まさかヒグマ襲来→シロちゃんの一鳴きで腹見せ降伏って最高すぎるでしょww アキヤさんの「着ぐるみです(地方創生)」って言い訳、もう芸術レベル🤣 小春ちゃんのツッコミもキレキレで笑った〜 もふもふ軍団がまた増えたの胸熱すぎる!続きが待ち遠しいです💕