テラーノベル
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それから数日が経った。
俺はベッドの上で、ただぼーっと白い壁を見つめていた。
すると突然、病室の扉がノックされた。
コンコン、と控えめな音。
「……どうぞ」
静かに扉が開く音が聞こえた。
足音が、ゆっくり近づいてくる。
「あの、佐久間大介さんですか」
知らない人の声だった。
柔らかくて、落ち着いたトーン。
「…はい」
少し警戒しながら答える。
「あの……」
一瞬、言葉を選ぶような間が空く。
「おれ、深澤辰哉っていいます。阿部亮平の…友人です」
その名前を聞いただけで心臓が跳ねた。
「阿部さんの、?」
思わず、声が強くなる。
「はい」
「あいつから、伝言があって」
「阿部さんは……!」
言葉を遮るように、口が動いていた。
「今どういう状態なんですか?生きてるんですか?元気なんですか!?」
止まらない。
本当はすごく怖い。
自分が知るべきではないことを知ってしまう気がして。
それでも聞かなきゃいけない。
彼の全てを知りたい。
「意識不明って聞いて、ずっと心配で…阿部さんは無事ですか??」
「落ち着いてください」
静かな声で制される。
「あいつは、意識が戻って……今は拘置所にいます」
「……こう、ち、しょ、、?」
その言葉が、うまく飲み込めない。
頭の中で、何度も反響する。
拘置所。
阿部さんが?
なんで……
彼は何もしていない。
ただ、俺を守ってくれただけだ……………
「っ、阿部さんは、なんにも悪くないっ、ただ……ただ俺を………」
声が揺れる。
息が乱れる。
「佐久間さん。……落ち着いて」
深澤さん、と名乗るその人の静かな声が降ってくる。
「……わかってます。あいつは意味もなく人を傷つけたりしません。」
深澤さんの声が、少しだけ低くなる。
そして、静かに言った。
「あいつが、佐久間さんに伝えたいことがある、って。俺に、頼んできて。だから俺は、それを伝えに来ました。」
「伝えたい…こと、?」
深澤さんは、カバンからスマホを取り出して俺の前に置いた。そしてボイスメッセージを再生した。
佐久間さん。
今まで佐久間さんといた時間は、とても幸せでかけがえのないものでした。
初めて出会ったとき、何故かすごい“助けたい”って思って。あんなに誰かを助けたいと思ったのは初めてでした。あの日、目が見えない中で必死に歩こうとしていた佐久間さんを見て、俺は「この人を守りたい」と強く思いました。
日々、少しずつ慣れていって成長していく佐久間さんを見ていて、すごく安心しました。それと同時に、俺は怖かったんです。佐久間さんが俺といたら、こちらの世界に巻き込んでしまうんじゃないかって。
いままでずっと黙っていてごめんなさい。俺は、佐久間さんが生きていた世界より暗くて汚い場所で生きていました。人を傷つけても何も感じないような奴らがうじゃうじゃいる、汚れた場所にいました。でも佐久間さんには、そんなところに来てほしくなかった。巻き込みたくなかった。だから、ずっと誤魔化していました。それでも、ずっと一緒にいたら佐久間さんまでいつか汚れた世界に巻き込んでしまうって。薄々わかってて、それが怖くて。でも佐久間さんと離れたくなかったんです。そんなの自己中だって自分でもわかってました。それでも、ずっと一緒にいたかった。そう思ったのは初めてでした。だから、佐久間さんのことを絶対に守るって決めてた。でもやっぱり俺は最後まで守りきれなかった。佐久間さんを傷つけた。
俺は最低な人間です。
佐久間さん、前に俺のことを「たった一つの光」だって言ってくれましたよね。俺あのとき嬉しくて、でもすっごい苦しくて。俺はもっと穢れたゴミみたいな人間です。でもそれを信じて、頼ってくれた。俺にとって、佐久間さんは太陽のような存在でした。目が見えなくて、不安で押しつぶされてしまいそうなはずなのにずっとにこにこ笑ってて。ずっと明るい未来に突き進んでいく貴方をずっと見ていました。そんな貴方を俺の手で汚したくない。だから俺は貴方のそばにいるべきじゃない。
貴方と過ごした日々は、すごく輝いていました。俺の大事な宝物です。本当に感謝しています。
これから、佐久間さんの身にいろいろな困難が降りかかるかもしれない。それでも、俺がいなくても佐久間さんは絶対にやっていける。だから、俺のことなんか忘れて、自分に自信を持って生きてください。
佐久間さんは、絶対に幸せになってください。
いままでありがとう。
さようなら。
ボイスメッセージが終わった。
涙がぼろぼろと頬を伝って服を濡らしていた。
「やだ……」
声が震える。
息ができない。苦しい。
「やだやだやだっ……………」
否定するみたいに、首を振る。
見えないのに、それでも。
「そんなの……」
受け入れられるわけがない。
「忘れろって何だよっ………」
「幸せになってくださいって何だよ!!」
声を荒げて泣き叫ぶ。
「勝手に……そんな……」
苦しい。
喉が痛い。
でも止まらない。
「…俺はっ…………!」
言葉が詰まる。
涙が溢れて、ぐちゃぐちゃになる。
「……」
深澤さんは、何も言わなかった。
ただ、そこに立っている気配だけ。
何もできないみたいに。
ただ、見守ることしかできないみたいに。
「…っ、やだよ………」
ベッドの上で、拳を握る。
何も掴めない手。
あの人の手を、もう握ることはない。
静かな病室に、嗚咽だけが響いていた。
それから数日。
手術の日は、すぐに来た。
「大丈夫ですからね」
医師の声。
「……はい」
かすれた声で答える。
怖い。
でも、それ以上に。
(………見たい)
事故に遭う前みたいに目が見えるようになって、
あの人がいた世界を。
あの人が触れていたものを。
そして―――
(………もし、もう一度会えたら)
ちゃんと、この目で。
そして、俺の意識がゆっくりと沈んでいった。
どれくらい時間が経ったのだろうか。
「……佐久間さん」
遠くで、声がする。
ゆっくりと、目を開ける。
「……」
まぶしい。
思わず、目を細める。
ぼやけた光が、滲む。
白い天井。
輪郭が、少しずつはっきりしていく。
「っ……見える……」
かすれた声で、呟く。
ぼんやりと、世界が形を持ち始める。
「おめでとうございます。手術は成功しましたよ」
横から医師の声がする。
そうか。
やっと、視力を取り戻せたんだ。
「…阿部さん………」
無意識ににその名前を呼んでいた。
でも、いくら呼んでもそこに彼の姿は無い。
俺が一番この目で見たかった人は、此処にはいない。
光は戻った。
色も、形も、全部。
でも―――
一番見たかった人だけが、いない。
「……っ」
視界が滲む。
今度は、ちゃんとわかる。
涙だと。
世界は、こんなにも明るいのに。
こんなにも、色があるのに。
どうしてこんなに―――
暗く感じるんだろう。
まくら
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コメント
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……っ、もう読んでて胸がぎゅうぎゅう締め付けられました😭💔 阿部さんからのボイスメッセージ、あれ全部本心なんだろうなって思うと苦しすぎる…「さようなら」って締めくくるところとか、読んでるこっちまで涙腺崩壊しました。 そして手術成功しておめでとう…なのに、一番見たい人がいないって、その切なさやばいです。最後の「どうしてこんなに暗く感じるんだろう」って一文、心臓えぐられました。 ふみさん、本当にエモすぎます…次どうなるんですか!?続きが気になりすぎて夜しか眠れません😭🌸