…………ぁー
朝。
昨夜閉めたカーテンの隙間から、朝日が差し込んでいる。
ベッドからのそりと起き上がり、フランスは眠そうにあくびをした。
朝は弱い。早起きは苦手だし、寝起きの気分はいつも最悪だ。
朝は常に頭の中に霧がかかっている。思考がぼんやりとしていて、オンボロのエンジンを蒸そうとしている気分だ。
まるでロンドン。
その単語を思い浮かべて頭の中に火花が咲いたのと同時に、ガチャンという音が聞こえた。
音の正体は恐らく、バスルームの扉を閉める音。
10秒も立たずに、事後処理をしていたのだろうイギリスが顔を覗かせた。
「おや、起きましたか?おはようございます」
「おはよー…」
バスローブ姿の恋人を眺めて、昨夜の出来事を思い出す。
久々に聞いた彼の鳴き声はそれはそれは可愛らしいものだった。
「」
outな方向に行きそうになった思考をシャットダウンし、目を瞑る。
流石の僕でも朝っぱらから大人の行為について妄想する趣味はない。
朝は弱いのだ。
「僕もシャワー浴びてくるよ…」
気だるげ雰囲気を纏った言葉を聞いたイギリスは、くすりと笑った。
「相変わらず朝は苦手なんですね、フランス。
どうぞ、行ってらっしゃい」
イギリスが投げてよこした新しいバスローブとタオルをつかみ、フランスはふらふらとバスルームへ向かっていった。
びしゃびしゃと、シャワーから出た熱いお湯が自分の体と床に跳ね返る音を聞きながら、今日の予定について考える。
実を言うと、今日丸一日イギリスといることはできない。
午後に別の人と会う予定が入っているからだ。
ドイツが、EU関連で話したいことがあるらしい。
ドイツを恨めば良いのかEUを恨めば良いのかわからないが、念のため二人とも恨んでおこう。
僕から愛人と過ごす時間を奪った罪は重い。
それはともかく、午前はホテルをチェックアウトした後、どこかで朝食を食べて、イギリスが行きたいと言っている紅茶の店に行く。そのあとは気ままに街を巡ればいい。
体を洗い、予定も整理したところで、シャワーのお湯を止めた。
バスルームの扉をあけ、脱衣所に入る。
体を拭いて、国歌を歌いながら、足取り軽くイギリスのもとへ歩くフランス。
彼も、イギリスも、まだ、何も知らない。
『_これ、お菓子に合うの?』
『もちろん。基本的に紅茶は洋菓子に合う飲み物ですが、この紅茶は甘さが控えめですっきりした風味なので口直しにもなりますし、茶葉の良さが最大限引き出されればひときわお菓子に合う紅茶になります』
『ふーん。相変わらずよく知ってるね』
『もちろん。紅茶の国ですから』
『自国で茶葉ほとんど生産してないくせに』
『黙りなさい』
__なんの変哲もない、恋人同士の会話が、スピーカーから聞こえてくる。
デスクに置かれている、スピーカーがつながったパソコンに表示された、声に合わせて揺れるオーディオスペクトラムを眺めながらドイツは心を躍らせていた。
流れてくる平和で幸せそうな会話。それを今日、ぶち壊すことができる。これ以上嬉しいことがあるだろうか?
フランスが自分のものに。
心も体もドイツ一色に染まるのだ。
一体どんな声で喘ぐのか。どんな瞳で自分を見つめてくるのか。どんな風に愛情表現してくれるのか。
ペットショップに行く子供に負けないくらい、心を跳ねさせるドイツ。
歪んだ愛情を燻らせて、長年培養したフランスへの感情は、地獄の大釜のようにどろどろ底が見えない。
「あは…ははははは!!!」
狂気に笑うドイツの後ろ姿は、彼の父親の姿に酷似していた。
「ドイツ〜来たよー」
ドイツの家の扉をノックをしたフランスは、気だるげに右足に体重をかけた。
5秒ほどで、ガチャリとドアが開けられる。
「グーデンターク、フランス。すまない、休日に呼び出してしまって」
妙に明るい声で話すドイツに、フランスは眉間に皺を寄せた。
「本当だよ。イギリスとの時間を返せ、このソーセージ野郎」
ぶつくさと文句を言うフランスに笑顔を向け、ドイツはフランスを少々強引に家の中に引き摺り込んだ。
にこにこと笑うドイツ。
不穏な雰囲気を感じたフランスは、恐る恐るドイツに問いかけた。
「ねぇ…ずっと笑ってるのは結構なんだけどさ、…ど、何かあったの…?」
ドイツは基本的に、笑わない。よっぽど嬉しいことか、楽しいか、面白くないと笑顔を見せないのだ。
その滅多に笑わないドイツが、口が裂けるんじゃないかと言うほどにニコニコ笑っている。
笑みの裏に潜む影に、フランスは気づかない。
フランスは眉を上げ、そんな事もあるか、と勝手に納得して話を進めようとした。なんだって良いが早く帰りたい。
「EUの件?何、経済格差の問題?それならもう僕の国民は移民にブチギ「フランス」
今まで一回も喧嘩の時以外に割り込みをしたことのなかったドイツが初めて話を遮った。
驚きと戸惑いで固まるフランスに、ドイツはゆっくりと言葉を続ける。
「お前は誰かに抱かれたことはあるのか?」
予想外の行動、予想外の発言、予想外の質問。
「は?」
ドイツはさらに微笑み、小さい子供に言い聞かせるようにして言葉を発した。
「抱いたことはあるよな。イギリス、イタリア、スペイン…」
フランスの自体青筋が浮かぶと同時に顔色が引き、冷や汗が浮かぶ。
「何を言って「一昨年の8月からずっとお前のことを見ていたよ」
流石にフランスも気づいたらしい。
これはマズいと思い、逃げようとした。
きっと国際連合に言えばこの狂ったストーカーをどうにかしてくれる。
さっさとドイツをでなければ。
ドイツに背を向け、脱兎の如く扉へ向かう____
矢先、ぐら、と視界が揺れた。
首筋に無理矢理肉を掻き分けられる痛み。
「あ゛…?なに、が…!?」
「世界とばいばいしような、フランス」
フランスの首に刺した注射器のピストンを押す力にさらに力が入る。
意識が遠のいていくフランスの視界の中で、ドイツは狂気に染まった天使の優しさで微笑んだ。
手に入った。
ようやく、ようやく…
フランスの心が、
コメント
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