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《東京都・深夜の住宅街》
パトカーのサイレンが、夜の街を裂くように響いた。
『速報:渋谷区で刺傷事件。犯人は逃走中』
『被害者は30代男性。犯人は“避難物資を奪うため”に襲撃か』
ニュース速報が次々と流れ、
スマホを握った人々は、
つい数日前までは考えられなかった“言葉”に固まる。
殺人。
ついに、その一線を越えてしまった。
《速報/テレビ各局 特別報道》
アナウンサー
「速報です。
今夜、渋谷区道玄坂の非常階段で、
30代男性が胸を刺され死亡しました。
犯行の動機について、警視庁は——
“被害者が持っていた備蓄食品バッグを奪うため”
とみて捜査を進めています。」
現場映像が映る。
コンビニ袋が路上に散乱し、
防護服姿の鑑識が血痕をライトで照らしている。
アナウンサー
「目撃者によりますと、犯人は “お前だけ助かると思うな!
” と叫びながら襲いかかったとのことです。
周辺ではオメガ隕石に関連したパニック行動が 相次いでおり——
警察は“社会不安型の連続事件”の可能性もあるとしています。」
SNSには即座に悲鳴があふれた。
「ついに殺人……もう日本終わりじゃん」
「これ避難物資争いってマジ?」
「#オメガ暴動」
スマホを握る人々は、
その“現実味のある恐怖”に凍りついた。
《地方都市・スーパー店内》
棚はスカスカになっていた。
従業員は三人。
客は二十人以上。
若い男性店員の背筋を、汗が伝う。
(こんなに人がいるのに……誰も並ばないんだ……)
突然、缶詰コーナーで怒鳴り声が上がる。
「ふざけんな!あと三つあるだろ!!取るな!!」
「うるせぇ、先に握ったのは俺だ!」
殴り合い。
商品の箱が床に散らばる。
泣き叫ぶ子ども。
店員
「や、やめてください!警察を——」
客
「警察は来ねぇよ!!今どこもパンクしてるんだよ!!」
強盗事件として処理されるはずだったそれは、
警察の到着まで“40分以上”かかり、
店内は事実上の無法地帯と化していた。
《地方の中学校・職員室》
壁掛けテレビには、渋谷の殺人事件の速報が繰り返し流れている。
カップ麺とペットボトルが山積みになった職員用の棚も、
少しずつ減っていた。
教頭
「……明日の授業、どうしますか。
“普通にやれ”と言われても、
子どもたちの頭の中はオメガでいっぱいですよ。」
担任の女性教師が、タブレット画面を見せる。
そこには、生徒たちのグループチャット。
「どうせ受験とか意味なくね?」
「うちの親、仕事やめて山に逃げようって言ってる」
「金持ちはもう安全なとこにいるんでしょ」
教師
「教室でも、“勉強してて意味あるの?”って顔をしてます。
かといって、全部やめればそれこそ“終わり”を認めるみたいで……。」
教頭は眼鏡を外し、目頭を押さえた。
教頭
「学校って、“明日もある”って信じる場所なんですよね……。
それを守れって言われても……
オメガのニュースを見たら、私だって怖い。」
廊下から、部活をやめた生徒たちの笑い声が聞こえる。
その笑いは、どこか上ずっていた。
《SNS上》
デマは止まらない。
「金持ちは政府から“落下地点マップ”もらってるらしい」
「大企業の家族だけ“特別避難”が始まってる」
「政治家の子どもは全員“安全圏の学校”へ逃がされた」
「#真実を隠すな #オメガ情報公開」
“敵”の姿は見えない。
だが、人々の頭の中では、
すでに「助かる側」と「見捨てられる側」が 勝手に描かれ始めていた。
誰もが敵を探している。 怒りの矛先を。
《黎明教団・集会所(東京近郊)》
白いローブが並ぶ。
壁には赤円と白点の教団マーク。
天城セラの配信が、大型モニターに映し出される。
セラ
「皆さん。
“混乱”は恐怖のせいではありません。
本当は、心が“古い世界”から解放されはじめた証です。」
信者たちから静かな息が漏れる。
セラ
「略奪も、暴力も……その奥には“苦しみ”があります。
私たちはその苦しみを受け止め、
新たな黎明へと導くのです。」
#黎明教団
#光の朝は近い
#終わりではなく始まり
コメント欄には海外からの投稿が急増していた。
セラ
「世界が揺れる今こそ、
あなたの魂は“選ばれた者”として試されています。」
その声は落ち着いていた。
しかし、その静けさこそが人々の心の隙に深く入り込む。
《IAWN(国際小惑星警報ネットワーク)臨時連絡》
《SMPAG(宇宙ミッション計画アドバイザリーグループ)非公式調整》
画面が四分割される。
右上は NASA の PDCO。
背後にホワイトボードと緊急用の電話。
左上は JPL・CNEOS の解析室。黒背景に白い軌道線が重なり、
数字が流れている。
左下は JAXA/ISAS 相模原。
白鳥レイナの肩越しに、独自計算の結果が映る。
右下は ESA 側。地図と観測計画が並んでいる。
アンナ・ロウエル(NASA)
「結論から言う。今の軌道解は——
“当たる可能性がある”じゃない。
“外せない可能性がある”段階に入った。」
画面の隅に、太い赤字が出る。
impact probability。
白鳥が眉を寄せる。
「CNEOS の“モンテカルロ”は何通り回した?」
アンナ
「百万。観測誤差の共分散も含めて。
……問題は“確率”じゃない。
bプレーン上の散らばり方だ。」
アンナはレーザーポインタで、楕円を示す。
「ここ。キー・ホールに触れると、確率が跳ねる。
観測が一晩ずれるだけで。」
ESA側が、低い声で言う。
「つまり——“衝突点”が、国単位で動く可能性がある?」
沈黙が落ちる。
“どこに落ちるか”がぶれる。
それは、避難計画が成立しないという意味だ。
白鳥が言う。
「インパクターを打つなら、なおさらです。
衝突地点を誤れば、Δv(デルタ・ブイ—— 進路変更の“効き”が変わる。
最悪、分裂して“破片の散弾”になる。」
アンナが頷く。
「だから、ターゲティングが命。
衝突させる“点”が数十メートルずれただけで、
与える回転や噴出が変わる。……それが数か月後に、
地球側で何百キロの違いになるか。」
白鳥の背後で、若手職員が口を挟みかけて止める。
下っ端の立場で、国際会議に声を出すのは禁物。
でも、目が言っている。——黙っていられない。
白鳥が代わりに言う。
「JAXA/ISAS側でも、独立に衝突確率を計算できるようにしている。
JPL や ESA と矛盾しない値を出せる体制が必要です。」
PDCOの担当者が、ようやく口を開いた。
「SMPAGとしては、回避策の“選択肢”を今から並べる。
ただし、公式に言える段階じゃない。
情報が暴走すれば、地上が先に壊れる。」
「それでも」アンナが言った。
「“準備してない”は罪になる。DARTで“できる”ことは証明した。
問題は——実戦の時間があるかどうかだ。」
白鳥が画面越しに、ゆっくり息を吐く。
「……人類の希望が、たった一点の“当て方”に掛かってる、ってことですね。」
誰も否定しなかった。
宇宙の誤差は、地上の倫理を笑う。
《総理官邸》
藤原危機管理監
「総理。都内で強盗・暴行事件が急増しています。
殺人事件も……。」
鷹岡サクラ
「……もう“数字”だけでは人は動けない。
明日の会見で、国民に“心の支え”を示さなきゃいけないわ。」
藤原
「各省に協力を回します。
ただし、“恐怖を煽る表現”は避けるよう——」
サクラは首を横に振った。
「その縛りが国民を追い詰めてきた。
“危機は危機”として言う。
そのうえで、“一人じゃない”と伝えるの。」
彼女の表情は穏やかだったが、
その目の奥には、確かな疲労と恐れが宿っていた。
(……誰だって怖い。
でも、私が言わなきゃいけない。)
明日の会見が、
国の命運を左右する一手になる。
本作はフィクションであり、実在の団体・施設名は物語上の演出として登場します。実在の団体等が本作を推奨・保証するものではありません。
This is a work of fiction. Names of real organizations and facilities are used for realism only and do not imply endorsement.