いつかは結婚もしたい。
もちろんそのことも考えている。
俺は恭香と結婚して、2人で暮らして、2人でもっともっといろんな世界を見てみたいと思っている。
そうできればどんなに幸せだろうか。
支え合い、励まし合えれば、きっと俺は人間的にも成長できる。カメラマンとしても、経営者としても、もう一段階上にあがれる気がする。
恭香は、最高に魅力的だ。
人間としても、そして、女性としても――
こんな素晴らしい女性に出会えたことに感謝したい。これから先も、俺には恭香以外の女性は考えられない。
ずっと……彼女と一緒にいたい。
支度を済ませて、俺は部屋を出ようとした。
その時、恭香が俺に言った。
「朋也さん。昨日は本当にありがとうございました。あなたが居なかったら、私……」
その切ない表情に、たまらず俺はまた恭香を抱きしめた。
もう二度とあんな思いはさせないと心に誓った。
「これから先も、つらい時、何でもいいから俺に言ってくれ。一緒に悩むし、考える。俺は、恭香の笑顔を毎日見ていたいから。いいな」
「……はい。本当に……ありがとうございます。朋也さんには感謝しかありません」
「俺には感謝する必要ない。男として……いや、同僚として当たり前のことだ。気にするな」
本当に……
俺は、お前の笑顔が好きだ。
「……ありがとうございます。そうですよね、同僚として……私を助けてくれて、本当に嬉しいです。これからは、毎日笑っていたいです。仕事、頑張りますね。プロジェクト、朋也さんやチームのみんなで一緒に成功させたいです」
「ああ。必ず成功させよう」
「はい」
俺は、恭香とマンションを出た。
会社に到着して、一番に社長室に向かう。
昨夜のことを全て報告するために。
「そうか、わかった。森咲さんには申し訳ないことをしたな。石川の処分は私に一任してくれないか」
「はい、そのつもりです。よろしくお願いします」
「あと、石川の代わりだが……」
「そのことなんですが、ぜひ俺にディレクターをさせていただけませんか?」
「お前が?」
「はい。まだまだ勉強中ですが、今のプロジェクトにおいては、相手企業も俺のことを良く知ってくれてますし、話を進めやすいと思っています」
「なるほど。勝算はあるのか?」
「もちろんです。必ずチーム一丸となってプロジェクトを成功させてみませます」
「いいだろう。……まあ、最初から朋也に任せるつもりだった。今回のプロジェクトはお前にとって、とてもプラスになる仕事だ。しっかり学んで、成功を掴み取ってくれ。……失敗は許されないぞ」
「はい。肝に銘じます。……ありがとうございます」
「それから、たまには帰ってこいよ。みんな、お前がいないと寂しいみたいだからな。私だけだとつまらないそうだ」
「そうだな。たまには帰らないとな」
「特にお手伝い歴25年の梅子さんが、『朋也様に会いたいです。朋也様は私が育てたようなものですからね。自分の子どものような人に会えないのはつらいです』などと嘆いていたよ。確かにあの人には頭が上がらないからな」
「確かに、父さんにいろいろ小言を言えるのは梅子さんだけだな。もういくつになったんだろう?」
「75歳だ。まだまだ若いし、元気だから75歳には見えないけどな」
「75歳か……。あの人にも親孝行しなければいけないな。本当に……お世話になったから」
「そうだな。梅子さんに対する1番の親孝行は……お前がお嫁さんを連れてくることだ」
「……ああ。近いうちに必ず実現させる。梅子さんに大切な人を紹介できるように」
「……私も、楽しみにしてるよ」
母がいない分、確かに寂しい時もあったが、それでも小さな頃から家には運転手、お手伝いさん、いろいろな人間が出入りしていて、俺はみんなに守ってもらっていた。
ただ、身内としては、ずっと父さんと2人で支え合って生きてきた。だから、俺の気持ちは言わなくてもちゃんと理解してもらえてる。
それが有難くて、お互いの信頼はとても厚い。
「父さんにもいろいろ心配かけたけど、その分、彼女と一緒に成長する。父さんをがっかりさせないよう、頑張るよ。いつか必ず、会社に相応しい人間になるから」
「……まあ、焦らず待ってるよ」
「じゃあ、行くね。夜は冷えるから、体に気をつけて。父さんもあんまり若くないんだから」
「何? 私はまだまだ若い。お前にも負けないからな」
「その気合いがあれば大丈夫だな」
「……まあ、でも、心配してくれてありがとう。お前も気をつけて、プロジェクト、頼んだよ」
「任せて」
俺は頭を下げ、部屋を出た。
恩人の梅子さんに、いつか必ず恭香を紹介したい。
その思いが今の自分のモチベーションにもなった。
ミーティングルームに入ると、もう、みんなは集まっていた。
絶対にこの仕事を成功させる――
恭香のために、父さんのために、チームのために、そして……自分自身のために。
そこには恭香の笑顔があった。
それだけで、気持ちが温かくなり、嬉しくて、安心できた。
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