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早朝のO森海岸駅。
結局、あれから一睡もできないまま、K急線に飛び乗った。
窓の外を流れていく雑多な街並みを眺めながら、ここまでの出来事を、ぼんやりと思い返す。
渋谷の帰り道。
もし私が、リコの出世の邪魔になっているのなら——
また一人に戻ればいいだけだ、そう思って落ち込んでいた。
でも、その夜。
猫田さんから一本、LINEが届いた。
『朝一番、リコが相談に来るよ』
……私には関係ない。
そう思ったし、そう思おうとした。
邪魔はできない。
だから行くつもりもなかった。
少し早めに事務所へ行って、発声練習でもしよう。
ただ、それだけのつもりだった。
事務所に着くと、会議室の扉が少しだけ開いていた。
中から、リコの声が聞こえる。
泣いている。
立ち聞きするつもりなんて、なかった。
ただ、靴紐を結び直していただけだ。
でも——
「寿司子と一緒に売れたい」
その言葉だけは、はっきり耳に残った。
それからどうやって帰ったのか、よく覚えていない。
頭の中は、アイドルコントのネタ探しでいっぱいだった。
手に持った、付箋だらけのノートを見る。
これが、私の覚悟。
ただのそっくりさんにはならない。
私は芸人だ。
出るからには、自分のネタで笑わせる。
——
宇津久芸能事務所の稽古場。
リコは、マイクスタンドや椅子を並べて、レッスンの準備をしていた。
スマホを開く。
昨日送ったメッセージは、既読のまま、返事はない。
「無言が一番、こたえるっちゅうねん……」
思わず、椅子を置く音が荒くなる。
『あかん、物に当たっても、寿司子は来ん』
心のなかで、おとなげない自分を戒める。
そのとき、稽古場の扉が開いた。
見慣れた顔。
たった一日なのに、どうしようもなく会いたかった顔が、そこに立っていた。
「……リコ、おはよ」
「おはようさん。なんや、昨日はサボりか?」
思わず冷ややかな口調で返事する。
短い沈黙。
「……私も、やるよ」
先に口を開いたのは、寿司子だった。
「え?」
戸惑うリコに、ノートが差し出される。
「アイドル物真似の仕事。でも、わがまま言いたい」
一拍おいて、はっきり言う。
「——ネタは、あたしたちで作る」
「……ほんまに、それでええん?」
「うん。イナリズシとして、二人でやる」
リコは、目を潤ませて笑った。
「……アホ。初めっから腹、括れや」
──続く