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教室の空気がわずかに淀んでいた。

誰も言葉にしない。だが、視線だけは、確かにそこへ向かう。遥と日下部の机へ。


誰かが囁いたのだ。


「あの子、泣いてたよ。あの二人に、何かされたって」


根拠はない。ただ、そう“見える”空気があった。

小さな綻びのような違和感。声をかけようとしても、なぜかためらってしまうあの雰囲気。――蓮司が巧妙に仕込んだ、“空気”だった。


遥は何もしていない。ただ、無言だっただけ。

日下部は助けようとして、止められた。それだけ。

でも、その“沈黙”と“間”が、見事に「共犯」に見えた。


「ほら、あの子……逃げるとき、遥の方見てたよ?」


そんな台詞が、誰ともなく教室を漂う。

気づけば、クラスの輪から、遥と日下部がそっと外されている。

それでも彼らは、互いにそれを声に出して確認しない。

それがまた、「何か後ろめたいことがあるのかも」と思わせる。


そして、蓮司は何も言わない。ただ、少し遠くから――


「へえ……そうなんだ」


と、興味なさそうに笑ってみせる。それだけで、「やっぱり」という確信を周囲に植えつけていく。



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