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数日後
いつも通りの放課後が訪れるはずだった。
「水瀬、悪いんだけどこれ、天馬に届けてやってくれないか?」
ホームルームが終わった直後
担任の先生に呼び止められて、僕は思わずパチパチと瞬きを繰り返した。
差し出されたのは、今日の授業で配られた数枚のプリントの束。
角が少し折れたその紙の重みが、急に現実味を帯びて掌に伝わってくる。
「……え」
「天馬、風邪で休みだからな。お前、家近かっただろ?」
その言葉を聞いた瞬間、心臓がトクンと跳ねた。
胸の奥がざわついて、落ち着かない。
風邪。
あの、いつも太陽みたいに眩しくて、病気なんて無縁そうに笑っている天馬くんが。
昨日までは教室の真ん中で、いつも通り周囲を明るくしていたはずなのに。
「……っ、わ、わかりました」
僕は逃げるようにプリントを受け取り、小さく頷いた。
放課後の喧騒が、急に遠くの出来事のように感じられた。
◆◇◆◇
帰り道
僕は吸い寄せられるように駅前のコンビニへ立ち寄った。
自動ドアが開いた瞬間の冷気すら、今の僕にはひどく落ち着かない。
冷蔵コーナーの前で、僕は彫像のように固まってしばらく悩んでいた。
(風邪の時って…一体、何がいいんだろ)
陳列棚には色とりどりの商品が並んでいるが、どれが正解なのか分からない。
喉に優しいゼリー飲料。
失われた水分を補うスポーツドリンク。
それとも、栄養価が高くてツルンと食べられるプリンだろうか。
「……喉、痛いかもしれないし。固形物はキツいかな」
そんなことをぶつぶつと独り言ちながら、気づけば買い物カゴの中は自分でも驚くほど充実していた。
レジ袋から伝わるひんやりとした重みが、僕の不安の大きさを表しているようだった。
(……でも、いきなり行ったら迷惑じゃ、ないかな)
こんなに買い込んで押しかけるなんて。
けれど、心配だった。
天馬くんが元気なく伏せっている姿なんて
どうしても想像したくなくて、足は自然と彼の家へと向かっていた。
◆◇◆◇
天馬くんの家の前
インターホンを押す指が少し震える。
しばらくして、重たい扉がゆっくりと開いた。
「……水瀬?」
そこに立っていた天馬くんは、僕が知っている彼とは別人のようだった。
いつも整えられている髪は乱れ、寝癖がついている。
顔色は青白く、潤んだ瞳が少し熱っぽく揺れていた。
「っ、て、天馬くん…だ、大丈夫……?」
「ん……まあ、見ての通り。ちょっと寝込んでた」
掠れた声でそう言いながら、彼はコンコンと軽く咳き込んだ。
その小さな音だけで、僕の胸は締め付けられるように痛む。
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#シリアス