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魔法少女パロです。バットエンド。
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「初めまして!僕ミコト!よろしくね!」
…何コレ。
私目覚めはいいはずなんだけどね。寝ぼけてるの?…目を擦ってみるが、まだ変なやつは私の視界にいる。
ついに私も精神異常者に なったのかしら?絶対に認めたくないけど。
「…ちょっとぉ……無視は良くないよ?僕悲しいよぉ……」
「なんなの貴方」
やたらとこっちをジロジロ見てくるので、睨み返してやったら泣き出した。
小さく丸っこい体に、ツートンカラーの髪。後ろに付けられた大きい水色のリボン、ふわふわした小さく白い羽。朝日に照らされた宝石のような涙が、クリクリしたグレーの丸い目からポロポロと絶えず出ている。可愛い…じゃなくて、なんで私の家にいるの?
「僕はコトちゃんのっ…魔法少女サポーターなんだよっ…」
「……魔法少女??サポーター???」
いやいや、私、魔法少女?になった記憶ないわよ?というか20歳よ?街に魔法少女がいるのは知っていたけど、私がなる必要は無くない??
「そーだよ?…コトちゃんは魔法少女に選ばれたんだよっ?それで開かれたドラフト会議で、僕がサポーターの座を勝ち取ったんだよ?」
選ばれた?この私が??…意味が分からない。
というか魔法少女連盟にドラフト会議なんてあるのね?というか、この…ミコト?ってやつは、ずっと私の膝の上に乗っているつもりなのかしら?邪魔なんだけど。
ミコトの小さな体を手で掴み、椅子から立ちあがる。そしてコイツの顔を、私の目の前に持ってくる。
「私、魔法少女になんかなってないから。出て行ってくれる?…出ていかないなら握り潰すわよ?」
「やだやだぁ!やめてよぉっ!!!コトちゃんは魔法少女なんだよ!僕はそのために生まれてきたのにぃっ!!」
また私の手の中でわんわん泣き出した。めんどくさいな、と思った瞬間、外から大きな音が聞こえた。
「なに?」
「わ、わ、怪獣だよ!こんな早くに来るものなの!?コトちゃん!早く変身して戦おうっ!!!」
「はぁっ!?何でよ!?」
ミコトが私の手からするりと抜けて、どこからか出したか分からないステッキを渡してきた。
「コトちゃんしか戦える人がいないんだよ!お願いだよぉっ!!!」
泣きそうな上目遣いで見つめてくる。…断れないわよこんなの。戦うしかないのね。椅子にかけておいた上着を取って、外に出る。
「そんなに言うならやってやるわよ!」
音がした方向へダッシュで向かう。敵はどれくらいのサイズなのかしら?人型ならテコンドーで倒せるけど、大きいならこの棒で殴るしかないか。
「違う違う違う!!コトちゃ〜ん!!!そのステッキは殴るやつじゃなくて、変身するのに使うんだよぉ〜!!」
ミコトが後ろから浮いて追いかけてくる。変身?どうやって?というか変身するより生身で戦った方が良くない??
「そのステッキの、上の部分を叩いて!タッチして!そしたら変身できる!!とにかく変身して!」
「はぁ?」
後ろからしつこく言ってくるので、仕方なくステッキの上の部分を叩く。すると、光に包まれたと思ったら服装がみるみる変わった。
ミコトとお揃い?な水色の大きなリボンとフリルが付けられた黒いワンピースに、厚底の靴。所謂ゴスロリってやつ?
「…動きづらい」
「仕方ないよ!それは!あっ、その角を曲がった先だよ!」
さっきより走る速さが早くなった気がする。変身した事による能力なのだろうか?
角を曲がってみると、人型の黒い怪物がいた。片手には私と似たような武器を持っている。
「これが怪物だよ!このままステッキで戦うんだ!」
「了解」
運良く、まだ相手はこっちに気づいていない。なら、隙を狙うのみ。走って相手の背中側に回り込み、脳天目掛けてステッキを振る。
ガシャン、と音がなり、敵は殴られた頭からどんどん崩れ落ちていった。
…意外と弱かった。
「これでいい?」
「わわ、コトちゃん凄いすごい!凄すぎるよ!!こんなに早く敵を倒せちゃうだなんて!」
空から見ていたミコトは、ふよふよこっちにやってきて、周りをくるくる回って喜んでいる。
「うんうん上出来!!それじゃ、改めて、これからよろしくね。魔法少女とサポーターのコトコトコンビでやっていこうね!」
…私なんかが魔法少女になっていいのか分からないけど、とりあえず人の命は救えたならそれでいい。そう自分言い聞かせて、ミコトに微笑む。ミコトも微笑み返す。
「よろしくね」
___
「…なんでいるの?」
「え〜、僕はコトちゃんのサポーターだからだよ?」
家に帰ってくると、平然とミコトも後ろに着いてきて、部屋に入っていた。家というより倉庫だけど。
別に来ても、部屋は物置だから寒いだろうし、椅子とパソコン以外何も無いから、楽しい事無いと思うんだけどね?
とりあえず、朝食を食べなきゃ。…ミコトも何か食べるのかしら?なら作った方がいいか。確か卵があったはず…?
そう思い、コンロに火をつける。作ると言っても、ミコト用の卵焼きだけど。
「…邪魔しないでね」
「しないよぉ!え、コトちゃんが作ったご飯美味しそう〜♡食べた〜い!」
邪魔するなと言っているのに、火をつかっている私の周りに寄ってくる。危ないじゃない、と追い払う。
「はい、食べな」
「わ〜い!いただきます〜!」
ミコトは、お皿に乗せた卵焼きを頬張る。言葉の通り、頬っぺたが膨らむほどかき込んでいる。
「詰まらせないでね」
ミコトが飲めるように、ペッドボトルキャップをコップ替わりにして水を置く。私の言葉にコクコクと頷き、水を飲む。可愛い。いきなり現れた変なやつだったけど、なんだか愛着が湧いてくる。
「ごちそうさまでした!」
満足したのか、私が皿を洗っている間に眠っていた。仰向けで寝ていたので、冷えないように、と使っていない上着をかけてあげる。
魔法少女?の仕事が大変になりそうだけど、ミコトと一緒にいるのは悪くは無い。私の前で、すやすやと眠っているミコトの頭を撫でた。
___
それからの毎日は、前に比べれば充実して行った。
基本的にミコトは日中寝ているので、起こさないようにタオルに包み、手提げに入れて大学に連れて行った。
魔法少女としての仕事は、数日に1回戦った。中には強い敵もいたが、なんとか倒せていた。
「えへへ、コトちゃんが僕の魔法少女で良かったぁ〜!大好きだよ!愛してる!」
「はいはい」
ミコトは小さい体で私の手の平にちょこんと座り、背中の羽をパタパタさせながら喜んでいる。何気ない、幸せな日が続くといいんだけどね。
___
「コトちゃんっ!出動だよ!」
「わかった。」
2人で大学から帰っている途中、怪物が現れた。ミコトからステッキを受け取り、変身する。この姿にもだいぶ慣れた。まだリボンは邪魔だけどね。
敵のいる場所に向かう。そこにいたのは、今までの姿とは一回り大きい敵だった。怖がる必要は無い。逆に、怖がってしまうと本領を発揮することが出来ない。
敵の攻撃を避けて、回り込んで攻撃する。大きいため一撃が重いが、こちらの攻撃が当たる範囲を大きくなる。…このままなら倒せそう。
─そう思った瞬間、敵が私ではなく、私の近くにいたミコト目掛けて武器を振り下ろした。
咄嗟にミコトを庇う。ザシュ、と音がなり、目の前が赤く染まる。どうやら、ざっくり斜めに切られたらしい。片側が真っ暗になり見えなくなる。上手く立てなくて地面に倒れる。
「コトちゃんっ!?コトちゃん゛っ!!死なないで!」
後ろにいたミコトが、顔周りにやってくる。視界が暗い中で、微かに見える顔は、涙でぐちゃぐちゃになっている。…嫌ね。泣かせるつもりはなかったのに。
いつの間にか、戦いには応援が来ていたらしい。ほかの魔法少女が戦っている。
「…良かった……ミコトを守れて…」
力を振り絞って、私の上で泣いているミコトの頭を撫でる。
「なんでっ、なんでっ!、死なないでよぉ…こんなの知らない、怪我するなんて聞いてないよぉっ、!」
けれどミコトは泣き止まない。だんだんと、体に力が入らなくなってくる。寒い。…どうか泣かないで欲しい。私のせいで、辛く悩まないで欲しい。
「ミ…コト…泣かないで…愛してる、よ…」
「コトちゃぁん…ぼくも、あいしてる」
ミコトが笑う。良かった。私は、最後に、大切な人を守れたんだ。もう悔いはない。
「ふふ、なら…よかっ……た」
撫でていた手が落ちる。大切な人を守るためにコトコは、敵の攻撃を広範囲に受け、大量出血で約20年という短い一生涯を終えた。
___
コトちゃんが死んでから、1週間たった。
……何もしていない。何も考えたくない。
ニュースには、今までと変わらない他愛のないものが流れていて、1人の女性が世界を守るために死亡しただなんて、ひとつも流れていない。
──1人が死んだって誰も気にしない。魔法少女が死んだって、民衆のための栄光とだけ思われて、結局は忘れられる。
「コトちゃんがいない世界なんて、僕には必要ないんだよ。」
君が僕のために死んでくれたのなら。
僕は君のために人を殺せるよ。
人の姿に変わり、コトちゃんが使っていたステッキを握りしめる。
今日も僕は魔法少女狩りをする。魔法少女が1人死んだって、誰も気にしない。
僕はただ、コトちゃんの敵への、悲しみも感謝もしない民衆への、無念を晴らすために。
「愛してる、コトちゃん」
そう呟いて、外に出る。
今日も、誰にも知られずに、魔法少女がこの街から消える。
─ただ1人の…いいや。ふたりの「愛」という魔法によって。