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それから丸十日、美紅は寝たきり状態だった。死んだ様に眠り続け、時々苦しそうにうめきながら布団の中でもがき、たまに意識が戻った時に最低限の食事を俺たちがさせた。幸いあれからすぐに夏休みに入ったから母ちゃんが出勤中は俺が美紅の側について看病し、時々絹子も手伝いに来てくれた。美紅の体を拭いたり、シャワーを浴びるのを手伝ったり、これはさすがに俺がやるわけにはいかないからな。いくら血のつながった妹と言っても。
十一日目にやっと起き上がれるようになり、久しぶりに三人そろって夕食を取っている時、美紅が突然こう言い出した。
「お母さん、ニーニ。一緒に沖縄に行こう」
「へ?」
俺は箸でつまんでいたおかずの焼き肉を思わずポロリと皿に落っことしてしまった。
「まあ、俺は夏休みだから別にいいけどさ。母さんは仕事があるだろ?」
その母ちゃんは別に驚いた様子もなく、黙々とご飯を口に運びながら美紅に訊き返す。
「久高島?」
美紅がこくんとうなずく。
「そうね。大学も夏休みに入っているし、有給休暇もたまりまくっているのよね。それに今後こっちがどう出るとしても、美紅を回復させるのが先決かもね」
「美紅。まだ体きついのか?」
俺の問いに美紅は小さく首を横に振る。
「ニーニと絹子さんのおかげで体はだいぶ良くなった。でもあたしは琉球神女だから、沖縄から遠く離れた場所では霊力の回復が遅い。それにあの女の人がまた襲って来たら今のあたしでは勝てない。久高島ならしばらく隠れるには都合がいい。あそこは田舎の離れ小島だから」
俺は一瞬背筋がぞくっとした。そうだ、美紅の看病に夢中で忘れていたが、正体は分からないが、あの殺人鬼は必ず俺をまた襲いに来る。母ちゃんが食べ終わってお茶をすすりながら言った。
「いいかもしれないわね。あたしの見立てが正しければ、あの殺人鬼はあと十日ぐらいは動かないはず。いいわ、明日すぐに有休の申請出せば一週間後には出発できるわね。雄二も美紅も用意しときなさい」
沖縄か。俺は行くのは生まれて初めてだ。夏休みの楽しみの旅行というわけにはいかないが、このまま東京で何もできないでじっとしているよりはいいか!
すると突然母ちゃんが立ち上がって窓のカーテンを開けた。ガラッとガラス戸を開けながら俺たちに向かって言った。
「忘れてたわ。今日はペルセウス座流星群が最初のピークじゃなかった? ほら、見てみなさいよ」
俺も美紅も言われるままにベランダに出て夜空を見上げた。すると、確かにいくつもの流れ星が夜空を横切っていた。街の灯りであまりはっきりとは見えないが、へえ、東京の夜空でも結構きれいに見えるもんだな。
「そうだ。あたし、小夜子ちゃんに電話しよ」
そう言って美紅は自分の部屋から携帯電話を持って来た。俺と母ちゃんはサッシの窓枠にもたれて、美紅はベランダの手すりに前かがみにもたれて、流星群を見つめていた。
やがて電話が美紅の友達、小夜子ちゃんとか言う子につながって美紅が話し始めた。じきに沖縄へ行くという事、いや美紅の場合は帰る、かな? 俺と母ちゃんが一緒だという事、最近東京でどうしていたか、とか。その年頃の女の子らしい会話をしている様子が美紅から見てとれた。どうやら相手の小夜子ちゃんというのは、久高島で美紅が幼い頃から仲良しだった子らしい。
「うん、今なんとか流星群、ていうのを見てる。東京の空って夜でも灯りがきついから、あんまりよく見えないけど」