テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
#1x1x1x1
ゆ(旧「ゆゆゆゆ」)
902
ゆ(旧「ゆゆゆゆ」)
3,116
薄暗い路地裏は、排気口から吐き出される熱気と、饐えた雨の匂いに満ちていた。
エリオットの腰には、まだピザ屋の白いエプロンが巻き付いたままだ。
その粗末な布地ごと、マフィオソの大きな掌が容赦なく肉を掴み、壁へと押し付ける。
「ん、……ふ、あ」
深く、抉るような口づけだった。
唇が合わさるたび、脳の裏側に冷たい泥のようなマフィオソの気配が流れ込んでくる。
それはエリオットの知っている「チャンス」の輪郭を持ちながら、決定的に違う悪意に満ちていた。
違うのに、脳が、身体が、その侵食を異常な速さで受け入れていく。
「……ひどい、顔だ。誰を、見ている?」
耳元で囁くマフィオソの低い声が、鼓膜を震わせて熱に変わる。
スラックスの合間にねじ込まれたマフィオソの指先が、容赦なくエリオットの質量を掌握した。
「あ、熱、いや、は、……ッ」
布越しではない、生々しい皮膚の摩擦。
締め上げるような、それでいてどこか慈しむような愛撫は、かつてチャンスが自分に施したもののようで、しかし圧倒的に支配的だった。
エリオットはマフィオソの仕立ての良い上着の肩口に爪を立て、のけぞる。
頭の芯が、白く、濁っていく。
自分が今、マフィオソに抱かれているのか、それとも彼の中にある「チャンスの残滓」に抱かれているのか、もう判別がつかない。
「いい。そのまま、私を混ぜろ」
強引に舌を突き入れられ、同時に、男の指が鋭く、最も敏感な一点を跳ね上げた。
「あ、んぅ……ッッ!」
声にならない悲鳴が、マフィオソの喉の奥に吸い込まれていく。
エリオットの身体が大きく跳ね、エプロンの紐が悲鳴を上げるようにきつく擦れた。
指先を汚す熱い愛液が、衣服を濡らし、壁を伝って滴り落ちる。
立つこともできず、マフィオソの身体にすがりついて痙攣するエリオットの視界は、涙で完全にぼやけていた。
限界まで開いた瞳に、路地の闇から現れた、もう一つの人影が映るまでは。
「……エリオット」
押し殺した、地を這うような声。
チャンスが、そこに立っていた。
彼の瞳は、マフィオソの手によって果て、未だに微震を繰り返している恋人の哀れな姿を、じっと見つめている。
マフィオソは満足げに唇を離すと、エリオットの髪を優しく撫で、そのまま闇の向こうへと音もなく消え去った。
残されたのは、激しい呼吸の音と、異常なほど純粋な、チャンスの殺気だけだった。
「チャンス、おれ、は……」
言い訳よりも先に、チャンスの身体がエリオットを組み伏せていた。
コンクリートの冷たさがエプロン越しに背中に染みる。
「黙れ。……何も言うな」
チャンスの指が、エリオットの顎を壊れそうなほど強く掴み、強引に唇を奪った。
マフィオソの味が残る唇を、削り取るような、狂おしい口づけ。
チャンスのキスは、どこまでも純粋で、狂暴だった。
混ざらない。マフィオソのノイズ を、自分の色だけで強引に塗り潰そうとする、必死の拒絶。
「お前は俺のだ。あいつの触れた場所を、 全部、俺で上書きしてやる」
エプロンの布地が乱暴に引き裂かれ、ボタンが地面に弾け飛ぶ。
チャンスの剥き出しの重圧が、まだマフィオソの余韻で震えているエリオットの秘肉へと、躊躇なく突き立てられた。
「ひ、あ、熱い、チャンス、痛い、あ……ッ!」
容赦のない衝撃に、エリオットは再び涙を溢れさせる。
さっき絶頂を迎えたばかりの身体は、引き絞られた弦のように敏感で、チャンスの質量を恐ろしいほど鮮明に感知してしまう。
激しく、泥臭く、ただ「お前を守る」ためだけに突き上げられる質量。
それは間違いなくチャンスのものなのに、エリオットの脳内では、どうしてもマフィオソの冷たい微笑が消え去ってくれない。
チャンスに抱かれながら、エリオットは、その激しさの中に「マフィオソへの焦燥」を読み取ってしまう。
(違うのに……足りない……ッ)
チャンスが自分を愛せば愛すほど、その背後にいるマフィオソの存在が、より色濃く浮き上がってくる。
「見ろ…エリオット、俺を見ろ!お前を抱いているのは誰だ」
チャンスが髪を掻き揚げ、無理やり目を合わせる。
その悲痛なほどに美しい恋人の顔を見つめながら、エリオットの腰は、無自覚にチャンスを締め付けていた。
「あ、チ、チャンス……、チャンス、あッ!」
肉と肉がぶつかり合う、卑猥で、あまりにも切実な音が路地裏に響き渡る。
エリオットはチャンスの首に腕を絡め、その背中に爪を立てた。
混ざり合わないはずのチャンスの愛撫が、エリオットの内部に残るマフィオソの毒と混ざり合い、奇妙な化学反応を起こしていく。
二人の男の気配が、エリオットという器の中で、ぐちゃぐちゃにかき混ぜられていく感覚。
「……っ、エリオット……!」
チャンスの動きが速くなり、限界を迎えた彼の身体が大きく強張る。
熱い、生々しい情液が、エリオットの奥深くへと容赦なく注ぎ込まれた。
「あ、ああ、う、あ……ッッ」
二度目の絶頂が、エリオットの意識を完全に、彼方へと消し飛ばす。
注ぎ込まれた熱量に満たされながら、エリオットは、もう自分が誰を愛し、誰に侵されているのか、その境界線を完全に失っていた。