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⚠嘔吐表現、ショッキングな描写があります。
幻覚
・・・・・・・・・・
この日、俺は水柱の冨岡義勇さんとの合同任務だった。水の呼吸を使う者同士、柱の剣技や動きから学べることをできるだけ多く吸収しようと張り切っていた。
「冨岡さん!今日一緒に任務にあたる時透有一郎です」
「ああ、倭のところの双子の片割れか」
「はい。よろしくお願いします!」
「こちらこそよろしく頼む」
軽く挨拶を交わし、俺たちは鬼の討伐命令が出された土地へと向かった。
鬼は全部で6匹。
「有一郎!焦らなくていい。1匹ずつ集中して確実に仕留めろ!」
「はい!」
“水の呼吸・壱ノ型 水面斬り”
“水の呼吸・陸ノ型 ねじれ渦”
“水の呼吸・捌ノ型 滝壷”
“水の呼吸・拾ノ型 生生流転”
“水の呼吸・漆ノ型 雫波紋突き”
2人で5体の鬼を倒したけれど、残りの1体が厄介だった。
〘ゆう…い…ちろ……〙
「えっ!?」
血の噴き出す首を押さえながら恨めしそうにこちらを見てくる、“父さん”。
なんで!?どうして父さんがここにいるの!?
〘ゆる…さない…!〙
「母さん!?」
どういうことだ。俺が刀で斬ったのは、最愛の両親だったのか!?…でも、2人は山で暮らしている時に亡くなった筈だ。なのになんで…!?
混乱する。俺は思わず2人のところへ駆け寄った。
「父さん、母さん、ごめんなさい!俺っ、俺…なんてことを!早く手当てしなくちゃ!」
心臓がバクバクと音を立てる。震える手で応急処置の道具を取り出そうとしたその時。
目の前の“父さん”と“母さん”がにやりと笑った。
「有一郎!!」
身体を勢いよく持ち上げられ、高く飛んだ。冨岡さんが俺を抱えて“両親”から強制的に距離を置かせたんだ。
「あれは幻覚だ!血鬼術だ!しっかりするんだ!あいつらはお前のご両親じゃない!」
「…!!」
冨岡さんの幻覚という言葉に、“両親”が顔を醜く歪めて舌打ちした。そして鬼の姿になる。
「…ンだよ、もう少しでこのガキ喰えたのによォ」
禍々しい姿の鬼。こんな気色の悪い奴が父さんと母さんの見た目になっていたなんて。
「この鬼は幻覚を使う上に、相手の記憶を読んで弱点となる人物の姿に変化(へんげ)するみたいだ」
冨岡さんが鬼を睨みつけたまま刀を構える。
「気を抜くな。もう惑わされるなよ」
「はい…!」
俺も刀をぎゅっと握り直し、鬼に向けて構える。
「殺れるもんなら殺ってみろ! いくら分身を斬っても本体を殺さないと死なねえからな!」
そう言って、挑発するように分身する鬼。
集中しろ。相手は鬼。人間の常識で物事を考えたって無駄だ。
また“両親”が姿を現した。
〘有一郎、おいで〙
〘よく頑張ったなあ〙
さっきの恨めしそうな目とは全然違う。優しい眼差しに優しい声。懐かしさについ気を許してしまいそうになる。
騙されるな。こいつらは父さんと母さんじゃない!
“水の呼吸・参ノ型 流流舞”
ザシュッ!
〘ゔっ!〙
〘あなた!〙
“父さん”が“母さん”を庇って死んだ。“母さん”が凄い目つきで俺を睨みつける。
〘有一郎、酷いわ!親を斬り殺すなんて!そんな子に育てた覚えはない!〙
「…っ…!」
すると、さっきの攻撃で既に事切れた筈の“父さん”が、首をぐりんと有り得ない角度で持ち上げ、俺のほうを見た。眼球があちこち向いて、だらだらと血を流している。思わず目を背けたくなる、変わり果てた姿。
〘オ前なんカ、生まれテ来なけれバよかっタノニ…〙
「…!」
“水の呼吸・弐ノ型・改 水車”
れもんてぃ🍋
2人同時に頸を斬る。ごとごとん、と鈍い音を立てて生首が地面に落ちた。
「はぁっ、はぁっ…!……ゔっ、おえっ…!」
耐えられなくなって吐いた。胃がひっくり返りそうだ。
「げほげほっ!…おぇっ…うっ…げほっ」
お腹が痙攣して、背中が波打って。吐き気が止まらない。
〘…有一郎くん、大丈夫?〙
「えっ!?」
誰かにそっと背中をさすられ、よく知った優しい声に驚いて振り向くと、そこには“柊依さん”がいた。
〘頑張ったね。もう大丈夫よ。あとは私に任せて〙
口調も声も姿も、俺の大好きな柊依さんだ。ひどい安心感に涙が滲んでくる。
“柊依さん”が刀を構える。日輪刀も、あの特徴的な綺麗な色をしている。
「…?」
なんで柊依さんがここに?しかも俺に向けて刀を向けている。
…ああ、違う。こいつは“柊依さん”じゃない。鬼だ。柊依さんの姿に変身した鬼だ。
俺も刀を構える。ほぼ同時に斬りかかった。
ズシャッ!
ザクッ!
「うっ…!」
脚に攻撃を食らってしまった。でも、俺の刀も“柊依さん”の頸を斬っていた。
〘アンたなんか、大ッ嫌イ…。さっさト死んじャエ 〙
そう言いながら、さっきの優しい声や姿とは一転、恐ろしい表情で憎らしそうに俺を睨みながら、“柊依さん”が斬り落としきれなかった頸を繋げた。
「お前は柊依さんじゃない!俺の大好きな柊依さんはそんなこと絶対言わない!」
それに。
「柊依さんは強いから俺の攻撃なんて喰らわない!こんな弱くない!お前はニセモノだ!!」
“水の呼吸・壱ノ型 水面斬り”
スパァン!
今度こそ頸を斬り落とした。さっきの“両親”と同じように、ごとん、と重い音を立てて生首が地に落ちた。
「うっ…、はぁっ、はぁっ……。……ゔっ…、おえっ!」
また吐き気に襲われてその場にしゃがみ込んだ。 さっき出し切れなかったものが勢いよく口から飛び出していく。
何度も嘔吐して、とうとう胃液まで吐き出すようになった。苦しい。酸っぱい。涙が零れる。
「有一郎、大丈夫か?しっかりしろ!」
「…ぁ…、とみおかさん……」
「本体は斬った。…頑張ったな…」
冨岡さんが手拭いで涙と鼻水と唾液でべちょべちょになった俺の顔をそっと拭いてくれた。
「うう…っ…、冨岡さんどうしよう…!俺、両親も柊依さんも殺しちゃった…!この手で殺しちゃったんだ!俺、なんてことをっ…!」
身体が震える。指先がキンキンに冷えていく。
「落ち着け!お前が殺したのは鬼だ。ご両親はお前たちが鬼殺隊に入るずっと前に亡くなったんだろう?倭だって生きてる。大丈夫だ!」
そう。あれは幻だ。鬼が作り出した幻。俺のところにも両親や蔦子姉さんが出てきたさ。師匠も、錆兎も。やっとの思いで最愛の人たちを斬った。これ以上、自分の大事な人を汚されたくなかった。
場数を踏んだ自分と違って、有一郎はまだたったの11歳。幻覚とはいえ、自らの手で大好きな人を斬り殺してしまったのだから混乱したって仕方ない。
「…帰るぞ」
「…はい…っ…」
冨岡さんに軽く背中を叩かれて顔を上げる。立ち上がろうとするけれど脚に力が入らない。
それに気付いた冨岡さんが、ピュイッと指笛を吹いた。そして、バサバサという羽音と共に、1羽の鴉が冨岡さんの頭に留まった。
《義勇。終ワッタノカノウ?》
冨岡さんの鴉だ。結構なおじいちゃんなんだな。
「ああ、終わった。寛三郎は任務完了の報告に行ってくれ。…有一郎の鴉は?」
《ココニイマス、水柱様》
いつの間にか幸陽も俺の肩に留まっていた。
「お前は先に花柱邸に戻って、有一郎が無事なことを伝えてくれ。……あと、もし倭が在宅なら、できれば彼女に有一郎を出迎えて欲しい、と。俺は有一郎を連れて花柱邸に伺う」
《承知シマシタ。有一郎、マタ後デナ》
「うん…」
2羽の鴉を見送り、冨岡さんは俺をおぶって歩き出した。
「すみません…、ご迷惑をお掛けして……」
「いや、気にするな。よく頑張った」
「俺なんて全然……。結局、自分が斬ったのは本体じゃなかったし、幻覚にかなり惑わされました…」
「相手は自分の弱点となる人物に化けるんだ。惑わされて当然だ。それなのによく戦ったな」
「…ぅ……」
冨岡さんの背中に顔を押し当てる。涙が零れて、左右で半分ずつ色や柄の違う羽織に吸い込まれていく。
花柱邸。
ちょうど任務から戻った柊依のところに、有一郎の鴉が大急ぎで飛んできた。主無しで帰ってきた幸陽に、一瞬、柊依の胸がドクンと大きく脈打つ。
『幸陽、おかえりなさい。お疲れ様』
《オ疲レ様デゴザイマス、柊依様》
『…有一郎くんはどうしたの?』
《有一郎ハ、水柱様ガ連レテ帰ッテキテクレテマス。デキレバ、柊依様ニ出迎エテ欲シイトノ伝言デス》
『そう。彼は無事なのね?』
《ハイ、チョット怪我モシテイマスガ、命ニ別状ハナイデス》
『そう、よかった。伝言ありがとう』
幸陽からの報告に、柊依がほっと表情を緩める。そして肩に留まった幸陽をそっと撫でた。
幸陽の帰宅から1時間と少し経った頃、有一郎が義勇に背負われて帰ってきた。ぐったりと義勇の背中に身体を預けている。
『有一郎くん!』
柊依の声に、有一郎がはっと顔を上げた。
柊依が2人のほうへ駆け寄る。
『冨岡さん、お世話になりました。有一郎くんを連れて帰ってきてくれてありがとう』
「いや、こちらこそ。…それより有一郎を」
『うん』
義勇がそっと有一郎を地面に降ろした。有一郎がよろよろしながら柊依にぎゅっと抱きつく。
『おかえり、有一郎くん』
「…柊依さんっ…柊依さん……!」
柊依の隊服を力いっぱい握り締めて身体を震わせる有一郎。
『…何があったんですか?』
「実はな…」
義勇は今回有一郎との合同任務で戦った鬼のことを話した。そして、鬼の血鬼術による幻覚が、有一郎の両親や柊依の姿をしていたこと、それを自らの手で殺したことも。
義勇が事情を説明している間、それを聞いて戦闘時のことを思い出したのか、有一郎が大粒の涙を流しながら嗚咽を漏らした。時々えずくので、柊依は義勇の話を聞きながら弟子の背中を優しくさすった。
『…分かりました。ありがとうございます。冨岡さんが一緒にいてくれてよかった』
「……そうか。…なら、俺はこれで失礼する」
『わざわざここまで連れてきてくださったんだから、お茶でも飲んで行かれたら?予備の着替えもあるから湯浴みもできますよ』
「気持ちはありがたいが、早く寛三郎のとこに戻ってやらないといけないから」
『そうですか。そしたら、また改めてお礼させてくださいね。お気を付けて』
「ああ」
義勇を見送り、柊依はまだ自分にしがみついたままの弟子の頭をそっと撫でる。
『…有一郎くん、立てそう?』
「ぅっ…ううっ…」
『とりあえず、家の中に入ろうか』
「ひっく…、うぅっ…」
まだまともに会話ができない有一郎の身体を支えながら屋敷の中に入る。そしてそのまま柊依の部屋へ。
『……頑張ったね…』
「うっ……、柊依さんっ…!」
堰を切ったように有一郎の目から今までより大量の涙が溢れ出した。
「柊依さん…、どうしよ…!父さんと母さん殺しちゃった…!俺がっ…、この手で…!」
『大丈夫。それは鬼の血鬼術による幻覚なんだから。ご両親は、あなたたちが10歳の時に事故と病気で亡くなったんでしょ?有一郎くんが殺めたわけじゃない』
「でも…!でもっ…!刀で斬った感覚とか…、ものすごく生々しく手に残ってて…っ…!…ほんとは自分が殺しちゃったんじゃないかって…」
『ううん、違う。有一郎くんのせいじゃないの。大丈夫。大丈夫よ』
泣きじゃくる有一郎を柊依がぎゅっと強く抱き締めた。
可愛い弟子を、家族を、頸を斬られても尚ここまで苦しめる鬼への怒りで腸が煮えくり返る。
柊依は静かに深呼吸をして心を鎮める。
『…本当にあなたが殺したなら、私だって今ここにいない。大丈夫。有一郎くんは何も悪くない 』
「ひっく…、ふえぇ……」
有一郎の頬をそっと両手で挟んで持ち上げ、自分のほうを向かせると、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった彼の顔。柊依はハンカチやちり紙でそれを拭ってやる。
『……でも…、怖かったね…』
「…!…うんっ、うん…!怖かったよぉ…っ!」
有一郎の目から再び大粒の涙がぼろぼろと零れ落ちて頬を濡らしていった。それを柊依がまた拭ってやるけれど、拭いたそばからまた涙が流れてくるのでキリがない。
柊依はもう一度、有一郎を抱き締めた。有一郎も泣きながら柊依の胸に顔をうずめる。
『今日の任務はかなりの負担になっただろうから。ゆっくり休んで。ごはんを食べて、お風呂で温まって、お布団でしっかり身体を休めるのよ』
柊依の言葉に、有一郎が小さく頷いた。
「……柊依さん、ありがとう。…ごめんなさい、ずっと泣いて…」
ようやく涙が止まって、ゆっくりと身体を離す。
『ううん、謝ることなんて何もないの。大丈夫よ』
「…ありがとう。……無一郎はまだ帰ってない?」
『うん。ちょっと遠くの任務に出てるからね、明日には帰ってくると思うわ』
「そっか…」
無一郎のことはもちろん心配だけれど、鏡を見なくても腫れているのが分かるくらいには熱を持った瞼を見られなくて済むと思うと、少しだけほっとする。
「柊依さん、ごめんね。服…、びしゃびしゃにしちゃった」
『いいのよ。私も任務の後で着替える前だったし。有一郎くんもお風呂入っておいで』
「えっ、柊依さん先にいいよ。俺は後で入るから」
『お先にどうぞ。…それとも、一緒に入る?お背中流しましょうか? 』
冗談っぽく笑う柊依さん。顔が一気に熱くなる。
「いや、いい!1人で入れるから!お先します!」
慌てて風呂場へ向かった。鏡を覗くと、やっぱりすごい顔をしていた。
身体を洗い、髪を洗い、湯舟に浸かる。気持ちいい。
今日の戦闘のことが脳内に蘇る。ニセモノとはいえ、最愛の両親や大好きな柊依さんをこの手で斬った感覚がまだ生々しく残っていて消えない。でも、帰ってきてから俺を強く抱き締めてくれた柊依さんの腕の温もりもちゃんと覚えているから。そのおかげで心を乱さずにいられる。
柊依さんの部屋に戻ると、隊服の上着を脱いでシャツに袴姿の彼女。
「柊依さん、お先しました。お風呂ありがとう」
『いいえ。ちゃんと温まってきた?』
「うん」
『よかった』
にっこり笑って、柊依さんが俺の頭を優しく撫でた。
『じゃあ、私もお風呂入ってくるね』
「うん。……柊依さん」
『ん?』
「まだここにいてもいい?」
『いいよ。ゆっくり寛いでて』
「ありがとう」
柊依さんが部屋を出て行った。
俺は窓際の机の椅子に座り、上半身を机に預ける。窓から夕陽が射し込んで暖かい。
ふと、机の上の写真立てに目が留まった。3連の写真立てに入れられていたのは、1枚は幼い女の子(多分柊依さんだ)とその家族との写真。その隣に今より少し若く見える柊依さんと、胡蝶さんと、そのお姉さんのカナエさんかな?…の写真。そして、俺と無一郎が初めて鬼殺隊の制服に袖を通したあの日の記念写真。家族や親友との写真と同じくらい、俺たちと一緒に撮った写真も大事にしてくれているのが伝わってきて胸が温かくなつた。
ガララ
『戻ったよ。有一郎くん、お夕飯、一緒に作らない?』
「うん!一緒に作りたい! 」
2人で台所へ行った。柊依さんが次の日非番の時は、夕ごはんの仕度は隠の人に頼まず自分でしているらしい。
『何にしよっか。有一郎くん、何食べたい?』
「えっと…、豚の生姜焼きが食べたいな。作り方教えてくれる?」
『もちろん』
柊依さんに教わりながら今日の夕ごはんのおかずを作る。俺はこの時間がとても好きだった。
「そういえば、無一郎は柊依さんに何か料理教わったの?」
『うん。お味噌汁の作り方を教えたよ。ちゃんと美味しくできてた』
「へえ」
『僕も兄さんみたいに料理上手になりたいんだ、って言ってたよ』
「えっ、そうなんだ…」
少し照れくさい。
今日の夕ごはんが完成した。隠の人たちの賄いの分は別で盛り付けてから、柊依さんと一緒に食卓を囲む。
「美味しい!」
『うん、美味しい。上手にできたね』
「柊依さんが教えてくれたから」
『よかった』
顔を見合わせて笑った。温かくて幸せな気持ちになる。
「…ねえ、柊依さん」
『どうしたの?』
「…今夜、一緒に寝てもいいかな……?」
思い切って言ってみたはいいけれど、その直後に恥ずかしくなってしまった。
『いいよ。枕持っておいでね』
「…!うん、ありがとう!」
嬉しくて顔が綻ぶ。
一緒に食器を片付けて、寝る準備をする為、一旦自室に戻る。髪に櫛を通して、寝間着に着替えて、歯を磨いて。
そして枕を持って柊依さんの部屋へ。
「柊依さん」
『はーい。いらっしゃい』
襖を開けて中に入ると、柊依さんも寝間着姿で布団を敷いてくれていた。
『おいで 』
「うん!」
捲ってくれた布団に潜り込み、ぎゅっと柊依さんに抱きつくと、柊依さんも俺を抱き締め返してくれた 。
『有一郎くん、大好きよ』
「……っ…」
柊依さんの言葉に、また涙が出てしまった。
『!?…嫌だった?』
「ううん、違う。嬉しい…!俺も柊依さん大好き…っ」
任務で柊依さんのニセモノから言われた言葉。“あんたなんて、大っ嫌い”。あれがかなりしんどくて。ニセモノだって、幻だって分かっているのに、胸を抉り取られるような感覚だった。
だから今の本物の柊依さんが言ってくれた“大好き”が何より嬉しくて。温かくて。
『…よかった』
柊依さんが安心したように微笑んで、俺の頬に零れた涙をそっと指で拭ってくれた。
俺はまた柊依さんにぴったりくっついて、ゆっくりと意識を手放した。
続く