少し前上司に呼び出された
最近領土が急に増えて来てるから体が上手く動かないんだけどな、
「失礼する、急に呼び出してなんだ?」
「領土広がった所為で体が上手く動かないんだ、早くしてくれ」
「…我々からしたら充分過ぎる時間だがな」
「まぁ良いさ…祖国、親愛なる上司の願い聞いてくれないか?」
要件は、東の果てにある日本と言う国の開国を手伝って欲しい。
北太平洋の捕鯨業にとって日本と言う国の港を確保したい、
正直不安だ、俺は独立してからここを出たことがない。
「祖国、手が震えているぞ」
「心配するな、海軍軍人が出航には同行する」
「大丈夫だ祖国、お前のやり方で日本を開国させれば良い」
本当にコレで良かったのだろうか、
日本語で交渉してみたが舐められているような態度だ。
「…なぁ、海軍軍人よ、俺のやり方は間違っているだろうか?」
何か渋っているようだ、
まだ首と胴は仲良くしていたいのだろう
「祖国だからと言って遠慮するな、 もとはお前がするはずだった事だろう?」
重い口を開けながら答えてくれた。
「…やはり、日本語で交渉など無理があります。」
「まるでこちら側が日本に合わせている様に捉えられかねません」
「祖国のお心は立派ですが、ここは外交の場」
「優しさなど持っていたら、喰われてしまいます…」
「…参考にさせてもらう、明日も交渉に向かう。」
「今日は体を休めて明日に備えろ。」
指示出しをした後、
俺は今日も1人、船の暗闇の中で日本語の書物を開いた。
亜米利加と言う国からの国書、
江戸の夜は闇一色だ、掻き消すために今日も蝋に灯りを付ける。
無礼な餓鬼かと思ったらそうでもないみたいだ
国書を渡す、それは相手の国に対して最大限の敬意を示す事だ。
「…ほう、中々面白いことを要求するでないか」
我はここ200年ずっとこの地に縛られて続けている。
和蘭の話を聞くたびに心が躍ったものじゃ、
「…確か和蘭に貰った英語の書物が…」
偉いには内緒だぞ、と秘密裏に貰った書物
我はこの地から出ることが許されない、
だから…
亜米利加からこちらに来てくれるなんて絶好機会じゃろう?
「もう独りは疲れたんじゃ…」
「独りは寂しくて仕方がない…もうしまいにしてくれ…」
意味のない独り事が蝋の灯りを揺らした。
江戸に京都藩から聞いた交渉の内容を報告しようと思って
襖に手を掛けた、
「…もう…独り……ん…じゃ…」
思わず襖に掛けた手が離れた、
ところどころ聞き取れ無かったが、言いたい事は分かった。
「独りは寂しい…そんなん思っとたんや…」
申し訳なさといっぺんに自分勝手なアイツに無償に腹がたった
幕府に選ばれたくせに、どうして我が国を裏切るような考えを…
「…やっぱりあかんわ、他所の知識を身に付けや。」
あの亜米利加言う奴が帰るまで、江戸を外には出せんな。
どうせ良い様に利用されるだけ、
「お偉いさんだけじゃ足りひんな…陛下にも伝えな…」
「明日の交渉は俺がしよう…江戸…」
「お前さんを裏切り者にはさせたくないんや…」
六つの鐘がなる前から邸内の使用人は起きる、
江戸に使える使用人は愛国心が高い奴か、幕府を滅ぼすために送られて来た工作員か、
それとも、江戸に売られて来た可哀想な稚児か。
「そこの坊や、少しええかな?」
「は、はい…大阪藩様…何の御用でしょうか?」
酷く怯えてる…江戸は売られた子を雇っているのを知っているのか…?
いや、家令が雇っていそうだな…浮いたお金は懐にってことか…
「少しやって欲しいことがあるんやけど…」
同様しとったなぁ、でもどんなに幼い子供でも欲求には勝てない。
ここで働いてたとしてもまともなご飯も貰えてないみたいやから、
「失礼ですが…わ、私…には出来ません…」
「…せやんなぁ…もし応じてくれたら…」
「自分んとこでの一緒の暮らしを約束してあげよう、」
「君が望むなら金もそれなりに弾んだるわ」
「もちろん両親も一緒にな」
あの稚児は応じてくれたで、そろそろ朝餉の時間や
配膳係と毒味役を連れて襖を叩く。
「江戸!朝餉の時間やで、起きな…」
襖が開いた、江戸の顔がひょこりと出ている
「朝から大声は止めてくれ…邸内の使用人もびっくりする…」
「もう、朝って言う程朝じゃないんやけど…」
配膳係の侍女が毒味様の小皿に食事を盛り付ける。
毒味役の侍女が江戸の目の前に座る。
「…すまないな、我のせいで…」
「いえ、これがお仕事ですから…邸内で働くのが夢でしたので…」
「ほう…ならば仕事を変えるか?…庭を手入れする者が邸内を去ってしまってな…」
「お話中、失礼致します…そろそろ毒味の方を…」
「嗚呼…申し訳ない…」
「いえ、こちらもです…まずは…こちらから…」
江戸の目は毒味役から少し外れている、
江戸幕府が開かれ始めの頃…料理に毒が入ってたんやっけな?
毒味役の喉が膨らむ、
「…それらしい毒はございません」
数ヶ月ぶりに毒味役の仕事を頼まれた。
邸内での仕事が毒味役だった、子供心もあっただろうが最初は怖くてたまらなかった。
飲み込んでしまったら、もう明日はないかもしれない。
だけど…
「…お前のおかげで安心して食事が出来る」
「ありがとうな…また頼むぞ」
嬉しかった、邸内では家令に言いがかりの折檻を受ける事もあった。
このとき私は初めて認めてもらえた、 同時に報われない恋をした。
そこから数年、背丈も少しは伸び、顔つきも大人の顔になった。
女としては結婚も考える年だろう、実際みんなにも言われる
でも、私は好きでもない人に尽くすなんて出来ない。
「報われない恋なんてそこらじゅうにあるのに…」
何気なく厨房を除いてみた、そろそろ朝餉の時間だし
何より今日は毒味を頼まれている。
「どんな朝餉なのか…」
言葉を失った、
小さな男の子が小鉢に何か入れている、厨房は子供は出入り出来ない筈。
「…私は運は悪いなぁ…笑」
今家令に報告したとしてもサボりたいだけだと一蹴される
それに、侍女の価値は低い、毒味役なら尚更のこと…
部屋に戻っても心臓の動悸は止まらなかった。
配膳係の子が迎えに来たみたいだ、
江戸様の部屋の前についた、冷や汗が止まれと願う。
席の着いた、あの光景が幻覚である事を願う。
箸で料理を掴んだ、手の震えが止まらない。
料理を飲み込んだ。
何も起こらない…?
混乱したが、毒味の仕事をしなければ… いつもの様に
「…それらしい毒はございません」
江戸様も配膳係の子も私も安堵したと言うのに、
またいつもの労いの言葉を頂けると思ったのに、
私の視界は暗転した。
自分でも聞いた事ない音が脳にガンガン響く、
「…さん!…い…じょ…か!?」
「は……を連れ……い!」
上手く声が聞き取れない、 指先の感覚がもう無い、
視界が白くぼやけて来る、自分でも死がすぐそこまで迫ってると分かる。
最後に思う事は意外な事だった、自分でも可笑しいと思う
好きな人の為に死ねて幸せだな…
数秒後私の意識は途切れた。
コメント
7件
やば!続きが気になる!🥺
あーー!!もう天才!好きです!大好きです!愛してます!