テラーノベル
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トラゾーがらっだぁさんと付き合うようになったと聞いた時、一番に思ったことはどうすれば取り返せるだろうかということだけだった。
俺のモノだと言わんばかりにつけられている赤い痕を見た時にはそれを消すことだけが頭にあった。
嬉しそうな顔のトラゾーは可愛いけど、それをさせてるのが俺じゃないことは許せなかった。
上辺ではおめでとうと言ったけど、内心ではそんなこと微塵も思ってない。
元々、俺たちと少し引いたようなところにいたトラゾーに俺はたくさん話をかけたし、いろんなことを教えてあげた。
そのことに関して感謝された時はホントに嬉しかったし、選んでもらえたと喜ばしかった。
それでも時折、距離を取るトラゾーに詰めるわけにもいかず適度な距離感を保っていた。
そんな中、らっだぁさんにそのまま引いたままでいたら?と言われた。
この人の考えてることは手に取るように分かる。
だって、俺と同じ感情を抱いているのを知っていたから。
らっだぁさん自身が俺がトラゾーに対して抱く感情に気付いているように、俺もらっだぁさんの抱く感情を知っている。
だからこそ、敢えてあの人のいう策に嵌ってあげた。
そのことに気付いているのかまでは分からないけれど。
今はさぞかし、有頂天になってることだろう。
「……」
らっだぁさんのことを信じ切っているトラゾーに今は何を言ったところで信じてもらえないだろうから。
俺は俺の”できること”をするまでだ。
「…トラゾー」
ぺいんとは諦めたように見えるけど、隠しきれてない。
自分のところに戻ってこないだろうかと思ってることが。
「そんなんじゃ、ダメだよ。ぺいんと」
欲しいと思うなら、ちゃんと手を伸ばさなきゃ。
他人からよく優しいとか穏やかだとか言われるけど、その理由はいい人だとトラゾーに思わせる為だ。
「……」
深い底のある一線を引くトラゾーのそれを埋める為にはその線ごと、まず外堀からしていかないと。
「俺から逃げたトラゾーを捕まえないといけないからね」
そして穴に落とすなら、もっと深い穴に落とさないと。
二度と這い上がれないように、俺だけが手を伸ばせるように。
「トラゾー」
「?クロノアさん、どうしたんですか?」
「これから一緒に配信しない?」
「急ですね。………俺、ホラーはやですよ」
トラゾーの家に遊びに行った時、”また”機材がトラブルを起こして、”たまたま”色々とできなくなった。
どうしようと焦るトラゾーに、なら俺の家でする?と言うと迷惑じゃなければと返答してくれた。
そして今に至るのだけど。
じとりと俺を見る緑は、いつも通りだ。
あんなに身を引いていたのに、らっだぁさんという逃げ場ができたから普通通りになってる。
何もかも。
それはそれで腹立たしい。
「操作は俺がするよ?トラゾーは俺を見てるだけでいいから」
「あなたあんま怖がんないじゃないですか…。操作してないのに俺ばっか驚いてるし」
「可愛いからいいんじゃない?」
「は…っ⁈」
実況者の鑑だ。
あんなにも驚いてくれたらゲーム製作者も冥利に尽きるだろう。
「コメントにも驚くトラゾーさん可愛い〜、とかあるよ」
思い当たることがあったのか、眉をハの字にして俺を少し見上げる。
「…可愛くないです、」
「弟みたいで可愛いよ。…それとも俺とゲーム一緒にしたくない?…らっだぁさんにダメって言われてる…?」
寂しげに声のトーンを落とせば、両手を振って慌て出すトラゾー。
きみはホントに騙されやすいね。
「いや、そうじゃなくて!…クロノアさんとするゲーム実況は落ち着いてできますし、楽しいです。…それにらっだぁさんには特にそういうのはダメとか言われてはないです」
「そっか。嬉しいよ」
にっこりと人好きするような笑みを返す。
戸惑いながらも笑い返してくれるトラゾー。
「(ホント、可愛いな。…可哀想で)」
「らっだぁさんはあんま束縛とかしないタイプなんだ。しそうなのに」
「基本、俺の自由にさせてくれてます、ね…。交友関係までは口を出してこないと言いますか」
「へぇ?優しいね」
「っっ、はい、優しいです。らっだぁさん」
照れて微笑む顔は可愛いけど、やっぱりそれを引き出してるのが自分じゃないことはムカつく。
物理的というよりも精神的に縛ってるっぽいな。
「(まぁ、トラゾーマジで騙されやすいもんな)」
物理的に縛ったとしても、嫌われるだけだろうし。
そうなれば、トラゾーを精神的に縛った方がリスクは減る。
「(やること似てて嫌だわ)」
きっと、同族嫌悪というやつだ。
俺とらっだぁさんは。
よく似てる。
似てるからこそ、何をしようとするかが手に取るように分かる。
だから俺のしようとすることは決して悟られちゃいけない。
「ね、トラゾー」
「はい?」
「どれにしようか?」
パソコンを開いて、購入したホラゲを見せる。
「俺いいなんて言ってないのに……ゔぅ、どれも怖そうなやつじゃないですか。あんた、メンタルどうなってるんすか…」
2人で画面を見る。
「俺とするの楽しんでしょ?落ち着いてできるって言ったのトラゾーじゃん。…それに、俺はトラゾーと一緒にするから大丈夫なんだよ」
「またまた…1人でも平気なくせに…」
「ははっ、まぁ、トラゾーよりかはね?あ、これとかは?そんなに怖くなさそう」
「えぇ…なんか、もう既に画面になんか写ってますけど…」
薄暗いそれには、ザ・幽霊、のようなものがぼんやり写っている。
「説明文にもあなたは追われてます、てありますけど。…こいつじゃん、絶対」
「まぁまぁ。ものは試しだよ。意外と怖くないかもしれないし」
「肝据わってるなぁ…」
「どうする?ホントに嫌ならやめるよ。トラゾーが嫌がることしたくないし」
「、…いえ、します。俺の我儘でクロノアさんのリスナーさんに迷惑かけちゃダメですし」
そう言ってるくせに、緑の目はもう潤んでいる。
「ホント?」
「はい」
「怖かったら俺にしがみついてもいいよ?」
「またあなたそういうことをナチュラルに言う…」
なんで俺にそういうこと言うんだ、という表情だ。
鈍感で騙されやすいから仕方ないけど。
「じゃあ、これに決定ね。ちょっと準備するから待っててくれる?」
「はい」
色々準備してる間、トラゾーは手持ち無沙汰になったのかその辺に置いてた雑誌を捲っていた。
そんな様子を見て、小さく笑った。
「(ホントに、可哀想なトラゾー)」
他の2人より、信頼は寄せられてるのかなと自負はしてる。
真面目な性格だし、1個だとしても年上の俺のことを敬う(必要はないけど)ところもある。
大事にしてたトラゾーを盗っていったらっだぁさんは許せないけど、気持ちはすごく分かる。
誰のモノにもならなさそうなトラゾーを自分のモノにできた、となれば。
「…ふっ」
「⁇クロノアさん?…何笑って……!、あ、もしかして俺がビビるの想像して…」
「え?うん。隣でびくつくトラゾー見るの面白そうだなぁって」
「絶ッ対に、ビビらねぇし驚かないですから…!」
「さてどうかな?はい、準備できたよ」
「ぅ……」
「俺の腕でも持つかい?」
左腕をあげると、首を振って自分の手を握り締めていた。
「クロノアさんの腕が取れちゃいますよ…」
真面目な顔して言うことがそれだ。
「ふはっ!そんな簡単に取れないよ。多少引っ張られれば痛いかもだけど」
「……ホントにダメになったら袖、掴ませてください」
「うん、いつでもどうぞ」
袖持たせてとか可愛いすぎか。
「じゃあ、始めてくねー」
「は、はぃ…っ」
配信に繋げて、ゲームを開始した。
「ゔわっ⁈」
「おーそんなとこからも出てくんのか。捕まっちゃったね」
「今ので驚かないとか、あなたどうなってるんすか…」
幽霊に捕まった操作キャラはセーブしたところに戻ってきた。
「所詮は作り物だしね?子供騙しみたいなもんだよ」
「クロノアさん冷静、カッコいい!ってコメント。あ、スパチャきましたよ」
「ありがとうございます」
「クロノアさんいなきゃ俺絶対に無理ですね」
「ビビらないんじゃなかったっけ?」
「うぐ…」
「驚いてなかった?さっきも」
「……クロノアさん、意地悪だ」
「トラゾーさん拗ねてる、可愛いですねぇ、だって」
「拗ねてないし可愛k……ほぁあ゛⁈ま、たお前ぇえ!」
今度はベタに背後から捕まえにきたけど、うまく回避する。
「今のは俺もちょっと驚いたな」
「は?嘘つきなさんな。驚いてる人の顔じゃねぇですよ」
「え?トラゾーが今度は操作するって?」
「ケッコウデス!!」
「あはははっ」
ゲームを進めていき、何度か捕まったり逃げたり、トラゾーの悲鳴を聞きながらもクリアした。
「楽しかったし面白かったね」
「そうですけど。…心臓が…心臓がもちません…」
机に突っ伏すトラゾーを横目に挨拶で締めて配信を終わらせた。
ついでにパソコンも落とす。
「……」
暗い画面に映し出される俺と隣で突っ伏すトラゾー。
「何か飲み物持ってこようか?今日、誰もいないからあんまもてなせないけど」
「へ?いえ!お構いなく」
トラゾーは顔を上げて首を振る。
「いちをお客さんだし。ね?無理してホラゲさせちゃったし。そのお詫びとお礼も兼ねて。…迷惑だった?それとも嫌?」
首を傾げて、同じように寂しい顔を作った。
「そ、そんな!迷惑なんかじゃ…嫌でもないです。……えっと、じゃあお言葉に甘えて…」
「ふふっ、じゃあ待ってて」
自室を出て、キッチンの方に向かう。
「……あー、マジで」
らっだぁさんに対しての絶対的信頼と俺に対して全く疑いを持たないトラゾーが可哀想なくらい可愛い。
あの人は俺が策に嵌った馬鹿な人間に見えたままだろうから。
ノアと?行って来なよ、くらいのノリだろう。
人のモノに手を出さない、諦めのつく人間だとさぞ思ってるのだろうけど。
生憎、諦めてもいないしそもそもトラゾーがあの人のモノになったなんて考えてもいない。
俺は俺のモノを取り返すだけで。
飲み物を2つお盆に乗せて自室に戻る。
「ただいま」
「おかえりなさい。…って、部屋に戻って来ただけでしょうが」
トラゾーの隣に座り直して、”氷の入った”飲み物を渡す。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
「心臓治った?」
「え?あ、はい。なんとか…夢に見そうで嫌ですけど」
「大丈夫だよ。夢になんて出てこねぇって」
半分ほど飲んだトラゾーはガラスコップを握っている。
「クロノアさん」
「うん?」
「俺、クロノアさんたちと、一緒にいてもいいんですか?」
「どうした、いきなり」
自分の”何も入れてない”飲み物を一口飲む。
「3人だけの方が、俺楽しそうに見えるから…」
多分、後ろに下がって見てた時に考えていたことだ。
思ったより、”早い”。
「そんなことないよ。トラゾーいなきゃ俺らの暴走誰が止めんの?」
「けど、俺って…い、…いらないんじゃ…」
結露でコップに伝う水滴が机に小さな水溜りを作る。
それと同時に、その机にぽたりと何が落ちた。
「トラゾーがいらない?そんなわけないじゃん。俺らにはトラゾーが必要だよ。そんなこと言う奴は、俺らの仲の良さに嫉妬してるだけの幽霊みたいなもんだよ」
「…くろのあさん」
「大丈夫。日常組は4人でひとつだよ。誰1人も欠けちゃいけない」
「…ふ、ふふっ。かっこいいな。やっぱりクロノアさんはリーダーですね」
「大事な友達が傷付けられて黙ってる俺じゃないよ?」
涙で潤む目を細めてトラゾーは笑った。
「飲み物、追加で持ってこようか?」
「いえ、大丈夫、です」
残った半分を飲み”氷”を噛んで飲み込んだトラゾーは袖で涙を拭いた。
「赤くなっちゃうよ」
目尻を撫でれば、見開かれる緑。
「…なんか…クロノアさんには、隠し事、できなさそうですね…」
「いいよ。隠したいことまで話す必要ないし、言いたいこととか、ほんのちょっとでいいんだよ」
「なんで、俺…あんなことで悩んでたんだろ…」
「疲れてるとこに、メンタルやられること言われたらネガティブになるのは当たり前だよ。ほら、俺のベッドでよかったら休みなよ」
「でも…」
「横になるだけでも違うよ?」
ね?と笑いかける。
「うぅん…」
「それとも一緒に寝る?」
声を潜めて言うと途端に赤くなる顔。
「え、んりょします…っ」
「じゃあ、ほら」
立たせてあげてベッドに座らせる。
「言ったように家族誰もいないから気にしなくていいよ」
「ぅ、あい…」
眠そうに欠伸をするトラゾーの肩を押すと簡単に倒れた。
「なんか、…すごい、…ねむぃ…」
「疲れてるんだよ。…夢に幽霊なんて出てこないくらい熟睡すれば、すっきりするよ」
「そ、んな…こと、ちょ、…くぜん…で、いわ…ん…で……くら、……さ、………」
閉じられた瞼と寝息を確認して体に薄い布団をかける。
「……トラゾーの穴はこれか」
鍵をつけた引き出しから2つの薬を取り出す。
「自白剤とか存在してんだな。…睡眠薬も、よっぽど疲れてたのか効き早かったな」
すやすやと静かに眠るトラゾーを見下ろした。
未だに残る赤い痕の下に指を這わせる。
「……ん、」
深い眠りに入ってるようで、起きる気配はない。
「大丈夫だよ。トラゾー」
顔を近付けて、聞こえてないだろうけど囁く。
「今度は俺が捕まえてあげるから」
あの人がつけた痕を消すように、そこに噛みついた。
びくりと肩が跳ねただけで起きることのないトラゾーの黒髪を撫でる。
そして、寝顔と首筋の噛み跡が写るようにして写真を撮った。
「あとは…」
少し開いているトラゾーの口に自分の人差し指の先を突っ込む。
眉を顰めて、異物と思ったのか反射で狙った通り噛まれた。
「っ、う…」
できた噛み跡も写真に撮っておく。
トラゾーは布団にくるまって反対を向いてしまったから可愛い寝顔が隠れてしまった。
「はは、」
材料は多い方がいいからね。
俺の噛み跡と、トラゾーの噛み跡。
こんなことじゃ、らっだぁさんは揺らがないだろうけどトラゾーはどうだろうか?
信じ切ってるあの人を裏切るようなことをしたと酷く憔悴するだろう。
人差し指の先を噛むのはトラゾーがあの人にだけする癖のようなものだと俺は知ってる。
と言うよりも、あの人自身が教えて来たから。
無意識の言葉による牽制。
まぁ本心も知ることができたし、軽く肩を押せばそのまま落ちる。
自ら作った底のない溝に。
俺は逃げないように、周りを囲って、溝を深く深くするだけだ。
あの人と、トラゾーの。
そう思いつつ、スマホを開いて電話をかけた。
「……あ、もしもしらっだぁさん?…いえ、あ、配信見てくれてんですか?ありがとうございます。…それで、実はトラゾー疲れちゃったみたいで寝てるんですよ。だから、迎えに来てあげてくれませんか?…あはは、ホラゲ苦手ですからね。緊張してたみたいで。……えぇ、はい。…じゃあ、」
待ってますね。
コメント
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同族嫌悪ですから (♯◉ω)-*-(ら^♯) 似てるってのもホントは認めたくないくらい嫌ですしね。 可愛いの認識は同じですけど、可哀想の認識は2人とも似て非なるものですかね。 うーん…多分、無意識に書いてますね🤔 ただ、先に書いた話は頭に入れつつ、ばーっと書いてくので、伏線みたいなものが奇跡的に回収されることもあるので、それかもしれないですね。
まじ最高です!🥹 ぺいんとさんと同じく悔しがってるkrさん見れるかなって思ってたらまさかの悔しがるどころか、どうやったら取り返せるって...😇💞 ポン酢さんのかくkrさんってThe 黒幕のノア過ぎてあいしてす🥵💕
krさん視点…✨️ 何個か(ポン酢さんが分かりやすくしてくれた)怪しい箇所が何個かあり黒幕のノアの登場ですね…((((;゚Д゚)))))))クロマクダァ 手の込んだことを仕掛けるものですよ。まぁでもrdさんよりkrさんの方がtrさんのこと知ってますし長いこといますからなにがどういう時にtrzに抜群なのかが分かりますからね! うわぁー!どんどん今後がどうなるのか楽しみになってきた(っ ॑꒳ ॑c)ワクワク