トラゾーさんとらっだぁさんが付き合うことになった。
そう聞いた時はまずいなと思った。
何がまずいってあの人の周りにいる人たちだ。
そんなことをぐだぐだ思ってる間に1週間くらいが過ぎていた。
とても厄介なことになりそうな気がしてならない。
僕たちと少し離れたところに立って僕たちを見ていたトラゾーさん。
複雑な思いを抱いているのだろうなと感じてはいた。
けど、無理にこっちに引っ張ろうとはしなかった。
そんなことをあの人は望んでいないだろうから。
けど、そうやってるうちにトラゾーさんはらっだぁさんに逃げてしまったのだ。
「(うーん…大変なことになったぞ…)」
ぺいんとさん一旦置いといて、1番厄介なのはクロノアさんだ。
そして、らっだぁさん。
あの2人は似ているようで全く似てないくせに根本が全く同じだから。
各々がいろんなことを考えているようだけど、それに巻き込まれてるトラゾーさんが可哀想でならない。
逃げ込んだ先の人物が上辺だけ優しい人だと知らない。
一旦置いていたけど、ぺいんとさんは、と高を括っていると多分足元を掬われる。
なんやかんやで考え方の似てるぺいんとさんとトラゾーさん。
以心伝心してるかのように通じ合うことが多い。
下手をすれば、うまく捕まえるのはぺいんとさんかもしれない。
「……いや、誰にも捕まらないように逃げ切って欲しいな」
僕はただ見ていることしかできない。
助けてあげたいけど、できないから。
何故なら、クロノアさんとらっだぁさん、それぞれに釘を刺されたから。
「(あの2人は似すぎでしょ…。あんな一言一句ほぼ同じこと言えないって…)」
『しにー』
『しにがみくん』
『俺の邪魔したらどうなるか分かってるよな?』
『俺の邪魔をしたらどうなるか分かってるよね?』
『『絶対に逃がさない。俺は俺のモノを誰にも渡さない』』
思い出しただけでも寒気がする。
ガチトーンと有無を言わさない雰囲気。
あの冷めた目。
そのくせ、口元は笑っていて。
なんて厄介な人たちに好かれてるんだと。
トラゾーさんに同情したくらいだ。
「怖かったな…殺されるかと思ったもん…」
そのうち、トラゾーさんのこと監禁でもしそうな勢いだ。
人の心がなさそうならっだぁさんはするかもだけど、常識人のクロノアさんに限ってそんなこと、ましてや”薬を使ったり”するようなこと絶対にしないと信じたい。
「一緒になって、トラゾーさんになんかしたりしないよね…」
あの人たちに言いくるめられたら、流石のトラゾーさんも…。
「……いやいや。そんな…あり得ないか、流石にね」
人間、限界が来た時寂しさを埋めてくれるなら誰でもいいと自暴自棄になるところがある。
自分のことを大切にできないで。
「……そりゃ、トラゾーさんに寂しいなんか言われたらどうにかしてあげたくなるよ」
ギャップというやつだ。
自分のこと可愛いと思ってない天然人タラシだから。
「…でも、そんなトラゾーさんの寂しいに気付いてたのにどうにもしてあげられなかった…」
怖い人に落とされてしまったから。
早く気付いて、その深いところから出て来てほしい。
穴の底に埋められてしまう前に。
そんなある日のことだった。
トラゾーさんから個人チャットがきた。
「なになに?今、通話できますか?…いいけど、どしとんだろ」
大丈夫なことを伝えると数秒して通話が繋がった。
「トラゾーさん、どうしたんですか?」
『しにがみさん、』
思い詰めたような声だった。
「…らっだぁさんと何かありましたか?」
『え、いや、らっだぁさんとは何も。優しくしてもらってますよ』
「は?惚気なら他でやってもらえますか?」
『ち、違いますって!』
「…冗談ですよ。…それで?何を悩んでるんですか?」
しばらくの沈黙の後、トラゾーさんが口を開く。
『………実は、なんだか最近誰かにつけられてるというか、見られているというか…』
つけられる?
見られている?
それって典型的な、
「ストーカーですか?」
『いや、それが分からなくて…』
「らっだぁさんにそのことは?」
『確定もしてないのに、らっだぁさんに迷惑かけれないですよ。勘違いだったら恥ずかしいですし…』
「ぺいんとさんやクロノアさんには言ったんですか?」
『同じくの理由で…』
「どうして僕に?」
『気のせいかもしれないけど、…なんか、…その、ちょっと怖いなって…話するだけでも、気が晴れるかと思いまして…』
「…なるほど」
きっと申し訳ない顔をしてるんだろうなと予想できる。
『ホントにふとした瞬間に気付く程度で。…いるかも分からんのんですけど、…何かしてくるわけでもないですし』
「ふむふむ」
『……まぁでも、俺の勘違いですよきっと。張り詰めてるから余計に気になっちゃうだけでしょうね』
「張り詰める…?」
『、…いえ!何でもないです!…しにがみさんに話したらホントにすっきりしました!ありがとうございます!じゃあごめんなさい通話切りますねっ』
「え?あ、ちょっトラゾーさ…」
一方的に切られて、何度か通話を試みたも繋がらなかった。
「……え、ホントになんかされたりしてない、よね…?」
なんとも言えない変な感じと気持ち悪さに首を傾げるしかなかった。
そして、その日を境にトラゾーさんは体調不良を理由に休むことになった。