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「今日は、何をして過ごしていたんだい?」
彼がグラスを傾けると、グラスの中で氷のぶつかり合うカランという微かな音が鳴った。
「華さんに、お茶の淹れ方を教えてもらいました」
「そう、上手く淹れられるようになったかな?」
「基本は教えてもらったんですが、美味しいお茶を淹れられるようになるには、まだまだだって言われちゃいました」
口にして、ちょこっと舌を出すと、
「そうか。焦らないでゆっくり上手くなったらいい」
言いながら、大きな手の平で優しく頭が撫でられて、「はい…」と、はにかんで頷いた。
「もう少し飲むかい?」
飲みさしのグラスが指差されて、「いいえ、もう」と、首を横に振った。
「蓮水さんは、まだ飲まれますか?」
「いや、私もこれで終わりにしておこう。今、水を持って来るよ」
彼が冷蔵庫から取り出してグラスに注ぎ分けてくれたミネラルウォーターを、こくっと口に含んでひと息をついた。
「しかしこんな風に君と過ごすようになるなど、出会った頃には思ってもみなかったよ」
まだ水割りの残るグラスを手にした彼が、ふと呟く。
「私もさっきそう思ってました。こんな風に、二人でなんて……」
恥じらいが募り火照った頬が、片手でくっと引き寄せられ、
「これも、きっと運命だ」
耳元に低く囁きかけられる。
「……運命だなんて」
頬に添えられた彼の手が熱っぽく感じる。
「運命が、私を巡り遭わせてくれた……鈴に」
耳のそば近くで名前が呼びかけられ、甘ったるくひそめた声が吹き込まれると、胸の鼓動が一気に早まった──。