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ある日、ミラが不安そうな表情でユウたちの前に現れた。
「ねぇ……ちょっと厄介な話があるの」
ユウが短く問う。
「何だ」
ミラは小声で続けた。
「闇市よ。ギルドの裏で動いてる非合法の市場。私、昔はそこに関わってたの。……抜けたつもりだったけど、最近また声をかけられた」
リオが目を丸くする。
「おいおい……裏社会とか冗談だろ」
レオンが眉をひそめる。
「ミラ……危険すぎるよ」
ミラは唇を噛む。
「分かってる。でも、放っておけば私だけじゃなく、みんなも巻き込まれる」
ユウは静かに答えた。
「行こう。逃げても終わらない」
夜。人気のない地下路地を抜けると、そこは異様な空間だった。
松明の光に照らされた広場には、違法な武器、防具、魔導薬が並ぶ。
胡散臭い商人たちが笑い声を上げ、血の匂いすら漂っていた。
「……これが、裏の世界か」
レオンが怯えた声を漏らす。
ミラは拳を握り締める。
「懐かしい……でも、二度と戻りたくない場所」
その時、甲高い声が響いた。
「ようやく来たな、ミラ!」
人垣を割って現れたのは、片目に傷を持つ男。
黒いローブを羽織り、腰には湾曲した大剣を下げている。
「この街の闇市を仕切ってる《ガルド》だ。……昔の仲間に会えて嬉しいぜ」
ガルドは嘲笑を浮かべた。
「お前、俺たちを裏切ってギルドに入ったそうじゃねぇか。許されると思ってんのか?」
ミラが睨み返す。
「私はもう、あなたたちとは関わらない」
ガルドは肩をすくめ、ユウたちを指差した。
「ほう……そのガキどもが仲間か。なら、こいつらの命と引き換えに忠誠を誓え」
リオが剣を構え、吠える。
「ふざけんな! 俺たちは仲間を売ったりしねぇ!」
レオンも声を震わせながら言う。
「ユウ……どうする?」
ユウは静かに一歩前に出る。
「俺が相手だ」
闇市のざわめきが一瞬で静まり返った。
ガルドが大剣を抜く。
「ほぉ……いい目をしてやがる。だがな、俺は闇市で百戦を超えて生き残った男だ!」
観衆が「決闘だ!」「血を見せろ!」と叫び、円形のスペースが空けられる。
ユウは剣を構え、低く息を吐いた。
(ここで倒れるわけにはいかない……)
ガルドが突進し、大剣を振り下ろす。
「砕けろォッ!」
轟音と共に地面が砕ける。
ユウは刹那、横へ飛び、鋭い斬撃を放つ。
「――《疾風》!」
だが、ガルドは重い剣を振り回し、ユウの斬撃を弾き返した。
「はっはっは! 悪くねぇ! だが軽すぎる!」
リオが歯を食いしばり、仲間に叫ぶ。
「ユウに任せるしかねぇ……俺たちは絶対に邪魔すんな!」
ミラは悔しそうに拳を握る。
「ごめん……全部、私のせいで……」
レオンは震える声で呟いた。
「違う……ユウは、この瞬間を楽しんでる」
闘気が満ち、剣と剣が幾度もぶつかる。
ガルドの剛力に押されながらも、ユウの剣筋は研ぎ澄まされていく。
「悪くない……だが、まだ足りない!」
ガルドが渾身の一撃を振り下ろす。
ユウはその瞬間、目を閉じ、心を研ぎ澄ませた。
(剣とは……心を映すもの。力ではなく、静寂の中にこそ真がある)
――刹那、ユウの剣が光を放つ。
「――《無想・一刀》」
ガルドの大剣が粉々に砕け、次の瞬間、彼の喉元にユウの刃が突きつけられていた。
観衆は一斉に息を呑み、沈黙する。
ユウが静かに告げた。
「剣は人を脅すために振るうものではない」
ガルドは顔を歪め、そして笑った。
「……クク、ハハハッ! 面白ぇ! てめぇ、本物だ……!」
そう言い残し、ガルドは闇市から退いた。
仲間たちが駆け寄る。
リオがユウの背中を叩き、叫ぶ。
「すげぇ! 本当にすげぇ! 今の技、なんだよ!?」
ミラの瞳には涙が浮かんでいた。
「……ありがとう。私の過去ごと、救ってくれて」
レオンは震える声で呟いた。
「これが……“剣聖”の資質……」
ユウは剣を鞘に収め、静かに夜空を仰いだ。
(……まだだ。俺の道は、これからだ)
その夜。
ギルドの奥、再び密談の場。
「ユウ……やはり規格外の存在か」
「剣王の才を持つ者……いずれ我らの計画に障害となるだろう」
暗闇の中、誰かが呟いた。
「消すべきか……それとも利用すべきか……」
陰謀の影は、さらに濃さを増していた。