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それから一ヶ月が経過した。
国仕魔法使いの任命式を終え、エーファはこれからの仕事場へ向かっていた。
「エーファ」
後ろから低い美声に呼び止められた。
国仕魔法使いの正装である、細やかな刺繍が施された漆黒のローブを翻し、エーファは振り返った。
予想通りの人物に、エーファは笑いかけて一礼した。
「ご機嫌麗しゅうございます、王太子殿下」
クラウスは小さく笑み、エーファに歩み寄る。
「就任おめでとう」
エーファは嬉しくなって、輝くような笑顔を浮かべた。
「ありがとうございます。お役に立てるよう、尽力して参ります!」
クラウスは頷く。
「ああ。頑張ってくれ。君の活躍に期待しているよ、エーファ・ウィルズリー国仕魔法使い」
そう、エーファは、クラウスの命を救ったことを称えられ、国王バルトロメウスよりウィルズリー姓を賜った。
国仕魔法使いを任ぜられることも十分そうだが、姓を賜ることも非常に名誉なことだ。
エーファはますます嬉しくなった。
……やるからには、ちゃんとやらねば。
期待に応えられるように。
「はい!」
エーファの元気な返事を聞き、クラウスは笑みを深めて仕事に戻っていった。
気合いを入れ直したところで、エーファは再び仕事場へと歩を進めた。
エーファのこれからの仕事場、竜胆宮は、王宮の一角にある。
魔法使いたちのための決闘場もいつくか設けられており、過ごしやすい場所だと聞いている。
これから他の国仕魔法使いたちとの顔合わせがあるので、会議室に行かねばならない。
と、あっという間に竜胆宮の会議室の前に着き、エーファは扉にノックした。
「どうぞ」
青年の声だ。
エーファは扉を開ける。
するとそこには、琥珀色の髪の若い男、同じ年くらいの紺色の髪の女、そして老爺がソファにゆったりと座っていた。
若い男女はエーファより十ほど上だろうか。
若い男は物腰が柔らかそうで穏やかな笑みを浮かべているが、女と老爺はそうではなさそうだ。
女はつんとそっぽを向いていて、老爺は無表情である。
エーファが部屋に入ると、若い男が口を開く。
「竜胆宮へようこそ。俺はディートヘルム・カールレット。こっちはビアンカ・アースキンとベルント・グレイ」
紹介された女と老爺—ビアンカとベルントは会釈もせず黙ったままだ。
ディートヘルムはそんな二人の様子に苦笑した。
エーファも慌てて自己紹介をする。
「お初にお目にかかります。エーファ・ウィルズリーと申します。よろしくお願いします」
ディートヘルムは立ち上がり、エーファに手を差し出した。
「歓迎するよ、エーファ」
エーファはにこりと笑み、ディートヘルムの手を取った。
「ありがとうございます」
ふたりは握手を交わす。
ディートヘルムが手を離すと、エーファに座るよう促した。
「しかし、平民出身なんてすごいね。平民出身の国仕魔法使いは三百年ぶりだと聞いているよ。陛下も王太子殿下も申し分ない実力だとお認めになっているそうじゃないか」
エーファは照れくさくなった。
礼を口にしようとした時、それまで黙っていたビアンカが遮る。
「本当にそんな実力があるのかしらね。お情けなんじゃないの?」
ひやりとするような冷たい声だ。
エーファは空気がびりびりと緊張するのを感じた。
「ビアンカ」
ディートヘルムが諫めても、ビアンカの態度は変わらない。
「かわいい息子を助けてもらったんだから、陛下も忖度したのかもしれないわ」
「ビアンカ」
ディートヘルムが再度諫めたが、ビアンカはつんとしたままだ。
「……そこまで言うなら、決闘してみれば良いではないか」
ベルントがやっと口を開いた。
エーファもディートヘルムもビアンカも目を見開いた。
ディートヘルムは片手で額を覆い、ビアンカはにやりと笑った。
「いい考えね。ちょうど今日は仕事があんまりないし」
ディートヘルムは呆れたように言う。
「……正気か二人とも。エーファ、こんな馬鹿げた提案に乗らなくていいんだぞ」
ディートヘルムがそう言ってくれるが、エーファは爛々と目を輝かせた。
「いえ、やりましょう! 」
「エーファ?」
予想外のエーファの返事に、ディートヘルムは困惑しながらも、仕方なく承諾した。
そういうわけで、国仕魔法使い四人は決闘場に移動した。
竜胆宮で最も大きな決闘場だ。
エーファの実力を示すため、ビアンカだけでなくディートヘルムもベルントも参加する。
まずビアンカがエーファの対戦相手だ。
エーファはビアンカが位置につくと、杖を召喚した。
「では、両者用意」
ディートヘルムが声を上げる。
ビアンカは、エーファに現実を教えてやろうと思っていた。
当然、自分が圧勝すると信じていた。
エーファに攻撃を仕掛けられるまでは。
「始め」
ディートヘルムの声で、二人はほぼ同時に攻撃を始めた。
しかし、エーファの方が早かった。
ビアンカに鋭い矢のような攻撃が飛んでくる。
ビアンカは、急いで防御魔法を張った。
だがエーファの攻撃は強く、防御は脆くパリンと割れた。
ビアンカは攻撃を受けた。
「うっ……」
多少出血するが、エーファは構わず攻撃を仕掛ける。
先程と同じように光の束をすぐに放った。
ビアンカは咄嗟に防御魔法を仕掛けるが、やはり、エーファの魔法の前では弱い。
防御にピシリ、とひびが入った瞬間、ビアンカは悟った。
どう足掻いても、エーファには勝てないと。
「降参よ、降参!」
ビアンカがそう叫んだ瞬間、エーファの魔法は砂のようにさらさらと消えてなくなった。
ふとエーファの顔を見やり、ビアンカは背筋に寒気が走ったのを感じた。
エーファは冷酷な目をしていた。
その目だけで人を殺せそうだ。
エーファはにこりと表面的な笑みを浮かべる。
「あら、もうですか。では次の方お願いします」