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一方その頃、バルトロメウスの執務室では。
「父上、何をされているのですか?」
クラウスはバルトロメウスが窓の外を興味深そうに眺めているのが気になった。
バルトロメウスの視線の先には、竜胆宮がある。
「観戦だ」
「観戦?何のですか?」
バルトロメウスはクラウスの方を向き、手招きした。
「来てみなさい」
クラウスは父の隣に来て、窓の外を見た。
そこには、驚くべき光景が広がっていた。
次の対戦相手はディートヘルムだ。
ディートヘルムは杖を握り直す。
あのビアンカが負けてしまった。
自分まで負けては、国仕魔法使いとしての体裁が保てない気がした。
開始の合図で、ふたりはほぼ同時に攻撃を放つ。
が、今度はディートヘルムの方が一瞬早かった。
ディートヘルムはエーファからの攻撃を防御しながら彼女に攻撃を放し続ける。
無数に飛んでくる光を、エーファは魔法で防いだ。
なるほど、彼の魔法は大胆だ。
打つ早さもいいし、力がある。
……しかし、精密さや丁寧さというのが欠けている。
エーファはディートヘルムの攻撃を防御しながら大きな光の束を放った。
ディートヘルムは咄嗟に防御魔法を仕掛けるが、やはりエーファの魔法を受け止めきれない。
ディートヘルムは攻撃を受け、多少の怪我を負った。
ディートヘルムも降参し、後はベルントのみになった。
エーファとベルントはしばらく魔法を打ち合う。
ベルントの魔法は緻密で丁寧で、且つ勢いもある。
さっきの二人よりは強いらしい。
国仕魔法使いを任ぜられて四十年らしいし、経験も豊富なのだろう。
……だが、遅い。隙がありすぎる。
エーファは一瞬の隙をつき、ベルントに攻撃魔法を放った。
ベルントはやはり彼女の魔法を受け流せず負傷し、降参した。
これで国仕魔法使い三人がエーファに負けてしまったが、彼らが弱いのではない。
エーファが強すぎるのだ。
エーファの一族は元々かなりの才能を持つ魔法使いばかりだったが、エーファは特に類稀なる才能を持ち、アグネスと同等の実力を身に着けたのだ。
所謂先祖返りだ。
国仕魔法使いの三人は怪我を負ったが、エーファはかすり傷がついていないどころか、息も上がっていない。
一方の三人は、全員国仕魔法使いとしての自尊心を真っ向から叩き折られ、傷心した。
三人とも、エーファの実力を認めざるを得なかったのだ。
各々魔法で怪我を治癒し、国仕魔法使い四人は竜胆宮の中へ戻った。
ふとビアンカがエーファに歩み寄ってくる。
エーファは何事かと首を傾げた。
ビアンカは白皙の顔を赤らめている。
「……わ、悪かったわね。……エーファ」
ビアンカはぷいっとそっぽを向きながらツンケンした声音で言った。
エーファは固まったが、すぐに目を輝かせ、満面の笑みを浮かべた。
「いえ。改めてよろしくお願いします、アースキン様!」
ビアンカは決闘の時の殺気はどこへやらなエーファの無邪気さに驚く。
そして、照れながら続けた。
「あたしのことはビアンカで良くてよ。敬称もいらない。きっと他二人も楽に呼んでいいと思うわ」
そうよね?とビアンカは二人に目を向ける。
ディートヘルムは晴れやかに笑ってこくりと首を縦に振り、ベルントは何も言わず無表情で頷いた。
エーファは満面の笑みを浮かべる。
「私を受け入れてくださってありがとうございます」
エーファは温かい気持ちになった。
国仕魔法使いの仕事は、主に二つ。
王族や国民からの依頼をこなすことと事務作業だ。
多忙ではあるが、エーファにとって充実した日々が始まった。
そして、エーファが国仕魔法使いに就任して一ヶ月が経った、ある日の朝。
寝台の上で上半身を起き上がらせた時、エーファはほんの一瞬頭痛を感じた。
エーファが頭痛や腹痛などの体調不良に見舞われることは滅多にないのだが、国仕魔法使いという新しい仕事を始めたし、毎日忙しいからそういう日もあるだろうと特に気に留めなかった。
しかし、その後数週間にかけてエーファの体調はみるみる悪化した。
頭痛、倦怠感、吐き気、身体中の痺れ。
かなりひどくなったが、エーファはただの疲れだと思うことにした。
病は気からと言うし、気にしないようにしよう。
ルイーザやアンドリュースの前でも取り繕い、仕事には何とか行っていた。
が、さらに一ヶ月後。
エーファが竜胆宮に出勤するなり、ビアンカが声をかけてきた。
「あんた大丈夫?顔色悪いわよ」
「……え?」
取り繕っていたつもりだったのに。
エーファが驚いていると、ビアンカはエーファの額に手を当てた。
「熱もあるじゃない。今日は帰って休みなさい」
……言われてみれば、確かに身体が熱いような。
ああ、目眩もしてきた。
しかし、ただでさえ国仕魔法使いは忙しいのだ。
ここで抜けたら迷惑をかけてしまう。
エーファは首を横に振った。
「いえ、仕事しないと」
エーファの言葉に、ビアンカは美しい眉を吊り上げた。
「あのねえ、あんたが風邪を引いてたらそれを移された方が困るのよ。わかるでしょ?」
……彼女の言う通りだ。
今自分が風邪を引いているとして、誰かに移してしまったら、それこそ仕事が進まなくなってしまう。
体調不良のせいか頭もろくに回らない。
エーファは自分の言動を恥じた。
「……ごめんなさ……」
い、と言おうとした時、エーファはその場に膝から倒れた。
ビアンカはぎょっとしてエーファの身体を支える。
「ちょっとエーファ?!ディートヘルム、誰か呼んできて!」
エーファはビアンカの声が遠く感じた。
来たばかりのディートヘルムは戸惑ったが、即座に状況を飲み込み、走っていった。
ビアンカが何かエーファに言っているが、もう聞こえない。
エーファは考える余裕もなく、そのまま意識を失った。