三十分ほど歩き続けたコユキは、進行方向の先に赤い鳥居と同じく真紅の小さな祠(ほこら)がある事に気付きライコーに話し掛けるのであった。
「ライコー様、赤いお社が見えるけどあそこが綱(つな)さん家(ち)なのかな?」
コユキに掴まれている刀、『鬼切り丸』が答えを頭の中に送ってくる。
『そうじゃ、まあ、彼奴(きゃつ)の事じゃからそこらで遊んでいるかも知れんけどな』
「ふーん」
さらにテクっているとライコーが言い当てたのか鳥居の土台、沓石(くついし)に腰を下ろして刀の鞘(さや)の先端部、鐺(こじり)を指先に乗せバランスを取っている男性の姿が見えてきた。
横顔しか見えないが、見た目はヤケに若そうに感じられる、大体十代半ばだろうか?
近付いて行ったコユキに気が付いて、向けられた顔は美しく整っており『ザ・美少年』そのものであった。
――――ほぅ、絵に描いたような美形じゃないの、あ! あれか! 確か光源氏のモデルになった源(みなもとの)融(とおる)の子孫だったわね、それでか
内心で納得していると立ち上がった綱が人懐っこい笑顔で話し掛けて来た、ジャニファンならこの笑顔でイチコロだろう。
「おばさんって聖女さんなの? アーティファクトでも探しに来たのかな? でしょ? おばさん」
「おばっ! ま、まあ、そうだけど…… あんた初対面の女性に向かってあんまりはっきり言わない方が良いわよ、人によっては怒るわよ?」(ぷんぷん!)
「そうなの? 僕って年上大好きだからそう呼べば喜んでくれると思ったんだけど…… 分かったよ、これからは気をつけるね! お姉さん」
コユキは|下卑《げび》た笑いを浮かべながら答えたのであった。
「ううん、アタシは、いえ、おばさんにはおばさんって呼んでいいのよん、後、目一杯甘えても良いんだからね、お・ば・さ・ん・に♪ うふふふ」
気持ち悪く笑うおばさ、コユキであったが、綱の化け物好き、いいや、おばさん好きは本当だったようでニコニコしながら言うのであった。
「おばさん優しそうだね、んじゃあアーティファクトあげるね、って言っても僕の所に残っているのはこの刀『髭(ひげ)切り』たった一つしかないんだけどね、これ貰ってくれるかな?」
『綱よ、麿じゃ』
『! 頼光さま? って刀にっ! と言う事は、ま、まさかっ!』
『そのまさかじゃよ、この者が約束の訪問者、ルキフェルの後継者じゃ、理解しているじゃろうがそんな玩具(おもちゃ)では役に立たん、まさか怖気づくとは思わんがあの日の誓い違(たが)える事は無かろうな?』
『勿論です、どうせならこの『髭切り』も取り込んでからご一緒します、ご覧あれ』
ライコーと綱の会話はコユキには聞こえない様にしていたらしく、おばさんに任せて、だとか、もう一振り隠してんじゃないの? 名刀を、だとか不愉快な発言を続けては、げへげへ笑っているコユキの前で、光に包まれた渡辺(わたなべの)綱(つな)と愛刀『髭切り』は姿を変え、一振りの刀『蜘蛛切り(くもきり)』へと生まれ変わっていたのである。
「あ、あれれ? もう刀になっちゃったのか、残念ね~、そっかー先にいっちゃったか~、んもう、早いんだからっ! ってヤツねーガッカリだわん」(下品)
『そう落ち込まずとも良いぞ、麿『鬼切り丸』は所持しているだけで物理攻撃力を倍加させるし、対になる『蜘蛛切り』は魔法攻撃力を倍化させる優れものじゃ、どちらも破格の遺物じゃぞ! なあツナよ、そうじゃろう?』
『え、ええ、まあ、そうですね…… 嘘では無いですよ、おばさん』
「そっか、兎に角これから頼んだわよ、ライコー様、ツナ君! よろしくね!」
『うむ』
『………………うん』
「?」
『オッホン! んではこの先を左じゃぞぃ、そこから道なりに進めば卜部(うらべ)季武(すえたけ)の魔窟(まくつ)に出るぞぃ! さっさと向かおうぞ!』
「うん、そうね……」
何故か元気の無い感じのツナ『蜘蛛切り』の様子に首を傾げながらも、ライコー『鬼切り丸』の言葉に従って、左への曲がり角へ歩を進めるコユキであった。
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