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#ワンナイトラブ
おまる
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すぐ外には何十人もの社員が働き、キーボードを叩く音が聞こえてくるというのに。
至近距離で見つめる彼の瞳には
仕事中の冷静さは微塵もなく、熱っぽくドロリとした独占欲が渦巻いている。
「……今は、君が俺の本物の婚約者だってみんなが知ってる。…早く独り占めしたい気持ちを、午前中ずっと抑えるのがどれだけ大変だったか」
低い、熱を帯びた声が耳元を震わせる。
徹さんは私の顎を細い指先でクイと持ち上げると
吸い寄せられるように、それでいて深く、抗いようのないキスを落とした。
コーヒーの香りが微かに漂う狭い室内で、重なり合う唇。
彼の舌が侵入し、口内の裏側を丁寧に愛撫するたび
心臓の鼓動が背中の壁を伝って外まで漏れてしまいそうになる。
その時、廊下からパタパタと小走りの足音が近づいてきた。
「あ、田中さーん!まだ給湯室にいるー?」
同期の沙織ちゃんの声だ。
私は真っ青になり、徹さんの広い胸を全力で押し返そうとした。
心臓が口から飛び出しそうな緊張感。
もし今、ドアを開けられたら──。
けれど、彼は焦るどころか、反対に楽しそうに口角を上げた。
意地悪な光を瞳に宿し
抵抗する私の手を片手で封じると、さらに深く
ジュウ、と音を立てるような濃厚なキスを強いてきた。
「ん……っ、ふ…っ、とおる、さ……ん…っ」
声が漏れないよう必死に堪えるけれど
彼が喉の奥まで探ってくるせいで、甘い吐息がこぼれてしまう。
「あれ? いないのかな……。どっか行っちゃったか」
ドアの向こうで足音が止まり、やがて遠ざかっていく。
その気配が完全になくなるまで、徹さんは私の唇を離さなかった。
ようやく解放されたとき、私は全身から力が抜け
彼の胸に額を預けて荒い息をついた。
膝がガクガクと震え、心臓が耳のすぐ横で鳴っているみたいにうるさい。
「……ふふ、スリルがあって悪くないね」
「……悪くないじゃないですよ。心臓が止まるかと思いました……本当に、こういうときだけ意地悪なんですから…っ」
私が恨めしそうに潤んだ瞳で見上げると
徹さんは満足げに、名残惜しそうに私の唇を指でなぞった。
そして、何事もなかったかのような手つきで、乱れたネクタイをゆっくりと締め直す。
「じゃあ、仕事に戻ろうか。専務室で君の報告を待ってるよ」
彼はドアノブに手をかけ、去り際に私の耳元で
甘く、それでいて逃げ場を奪うような声で囁いた。
「……続きは、夜。家でたっぷりね。……高橋結衣さん?」
その、まだ慣れない新しい苗字。
名実ともに彼のものになったのだと突きつけられ
私は返事もできずに、真っ赤な顔で立ち尽くすことしかできなかった。