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⚠原作にはない行事が出てきます。
Happy Valentine
ストーカー男による監禁から咲茉を救い出したという話は瞬く間に広まり、竜一と隼は一躍時の人となった。新聞社やテレビ局などの報道陣も毎日のように学園にやって来て、生徒たちに取材をしている。助け出した2人の男子生徒はもちろん、危うく冷凍保存されそうになった被害者も、世間の注目の的となった。
「いやぁ~、メディアの力ってほんとすごいね。恐ろしいわ」
今日もだらしなく頬杖をついて寝そべった兎田が半笑いで呟く。
「事件から2週間くらい経ってるのに、まだいろんな報道の人が来ますもんね。おばあさんもただでさえ忙しいのに取材に応じないといけないらしくて文句言ってました」
「仕方ないよ。3人の顔がしっかり出ちゃったんだもん。被害者の女の子は芸能人顔負けの美少女だし、助け出した2人も好青年ときたもんだから、そりゃみんな黙ってないでしょ」
「マジでうぜえ。いちいちギャーギャー騒ぎやがって」
隼は心底うんざりしているようだ。竜一も周りから騒ぎ立てられるのには慣れていないので正直心地が悪い。
「ま、人の噂も七十五日って言うし。そのうち収まるでしょ 」
呑気にそう言って、子どもたちのヒーローごっこで怪獣役を任されていた兎田は「あーやられた〜」と適当な台詞を口にして仰向けに寝転がるのだった。
数日後の昼休み。この日は咲茉も保育ルームで一緒に昼食をとっていた。
「結城さん、引っ越しの準備進んでる?」
『うん、ぼちぼちね』
「え、引っ越し?」
今回の件でストーカー男に自宅がバレていたのもあり、早めに引っ越しをすることになった咲茉。ストーカー男の自宅には、びっしりと咲茉の写真が貼られていたそうだ。バイト先で盗撮したものや、通学路での写真など、本人は一切身に覚えのない写真が大量に見つかったらしい。そして、カメラの内蔵された眼鏡も。フレームのボタンに触れるだけで、スマホを構える必要なく今撮りたいものを自分の目線そのままに瞬時に撮れる仕組みだ。
「恐ろしい機械が開発されちまったもんだな」
「本来は日常や子育ての記録とか、証拠集めの為に創られたものらしいんだけど、よくないことに使う人もやっぱいるよね」
『ほんとね』
隼と竜一の言葉に咲茉も困ったように笑う。
「ふーん。…で、咲茉ちゃん新しい家は決まってんの?まだなら俺んちでもいいよー」
「なんでてめえの家に転がり込まないといけねえんだ。アホか」
冗談混じりに言った兎田の頭に隼が軽く拳骨を食らわせる。
『お気持ちは嬉しいんですけど、もう決まってて。森ノ宮邸でお世話になることになりました』
「え、そうなの?じゃあ竜ちゃんちじゃん」
「はい。おばあさんも女の子の結城さんが来てくれたら嬉しいって言ってました。元々結城さんの後見人も引き受けてるし、面倒を見るのが1人増えようとどうってことないらしいです」
「へーえ。あのばーさんがねえ」
「ひとり暮らしするより安全だろ」
「そだね」
『バイトも辞めることにしました。今回のことでお店にも迷惑掛けちゃったし、これから理事長先生のお家で暮らすなら生活費を工面する必要もないだろうって言われて』
「そっかー。…ってことは、竜ちゃんとエマちゃんは同じ年頃の男女が一つ屋根の下で一緒に暮らすことになるんだね」
兎田がにやにやと笑みを浮かべる。
「おい、変な言い方やめろ」
「そうですよ! 」
隼は汚いものを見るかのような目つきで、竜一も少しムッとしたような表情で兎田を非難した。そんな3人を見て咲茉は可笑しそうに笑っていた。
『…というわけで、今大急ぎで荷造りしてるんです。来週には全部森ノ宮邸に運び終わる予定で』
「なるほどね。手伝い必要な時は言ってね」
『ありがとうございます』
子どもたちの食べこぼしを片付けながら、兎田が何かを思い出したように口を開いた。
「引っ越しが来週なら、バレンタインコンサートの練習も同時進行で大変だね」
『そうなんです。なんか歌も歌わされることになって……』
「歌?」
「エマちゃん歌うの?」
『演奏する曲で歌入りのがあって。男の先輩と私で歌わないといけなくなっちゃった。しかも振り付けまで覚えないといけないし…』
「え、何それめっちゃ見たい。ちょっと今ここでやってみてよ」
兎田がスマホを取り出す。
『い、嫌です!恥ずかしい。私ダンス苦手なんですよ…』
「いいじゃーん。人前で歌って踊る練習と思ってさ」
正直、竜一も見てみたかった。
「嫌だっつってんだろが。パワハラすんな」
また隼が兎田の頭に拳骨を食らわせた。
『まだ動きがへなちょこだからほんとに恥ずかしいんですよ。あと1週間でどうにか仕上げないといけなくて…。どうなることやら』
最後のほうは最早他人事のように笑う咲茉。
「んじゃ、バレンタインコンサート当日の楽しみにしとくね。保育ルームのメンバーも毎年聴きに行ってるから」
『ひえっ!じゃあますます頑張って踊れるようにならなくちゃ…』
そう言って、咲茉は小さく肩を竦めるのだった。
2月14日。校内バレンタインコンサートは、5限と6限の時間に行われた。席は自由なので、竜一と隼は保育ルームのメンバーと固まって席に着いた。
プログラムを見ると、吹奏楽部だけでなく、ダンス部やバンド部、合唱部、演劇部もバレンタインデーにちなんだ出し物をするらしい。それぞれの部活が、某アイドルグループの恋愛ソングや情熱的な曲、セクシーなダンス、恋愛物の劇を披露する。最後が吹奏楽部の演奏だ。
休憩時間の間にせっせと椅子や楽器をスタンバイする吹奏楽部員。そしてチューニングを行う。
ステージのライトが灯った。吹奏楽部の生徒はみんなでお揃いのピンク色のシャツを着て、カチューシャやヘアゴム、イヤリング、ネックレスなど、ハートのモチーフの小物を身に着けていた。
「あっ、エマおねえちゃま!」
奇凛が小さく声を上げ、ステージを指さした。
フルートのメンバーの中に、咲茉の姿を見つけた。楽しそうに演奏している。
3曲目、咲茉はフルートの席を離れてパーカッションの一員として打楽器を演奏。タンバリンを叩いたりグロッケンを弾いたり鈴を鳴らしたりと大忙しだった。
咲茉ともう1人、男子部員がステージ袖に捌けるのを待ってから4曲目が始まる。どうやら次の曲が例の歌入りの曲らしい。プログラムを見ると、“はじめてのチュウ”と書かれていた。
「うわ、エマちゃんが“はじめてのチュウ”歌うとか絶対可愛いに決まってんじゃん」
「ほんと!楽しみね!」
一緒に観ていた美鳥の母も兎田と同様にわくわくしている。
5曲目の前奏が始まった。そしてすぐに衣装チェンジした咲茉と男子部員がステージ上に戻ってきた。色違いでリンクした可愛らしいデザインの衣装に、会場が歓声に包まれる。
♪眠れない夜 君のせいだよ
さっき別れたばかりなのに
みみたぶが for you もえている for you
やった やったよ Ah〜
はじめてのチュウ きみとチュウ
I will give you all my love
何故か優しい気持ちがいっぱい
はじめてのチュウ きみとチュウ
I will give you all my love
涙が出ちゃう 男のくせに
Be in love with you
デートコースは もう決めたんだ
明日の夢が 膨らんでくる
この愛を to you いつまでも to you
きっと、きっとさ Ah〜
はじめてのチュウ きみとチュウ
I will give you all my love
何故か優しい気持ちがいっぱい
はじめてのチュウ きみとチュウ
I will give you all my love
涙が出ちゃう 男のくせに
Be in love with you
はじめてのチュウ きみとチュウ
I will give you all my love
何故か優しい気持ちがいっぱい
はじめてのチュウ きみとチュウ
I will give you all my love
涙が出ちゃう 男のくせに
Be in love with you
(作詞・作曲:実川俊晴)
軽いステップを踏み、2人で目を合わせ、手を取り合い、お互いに微笑み合い、時には観客にも笑顔を投げかけながら歌う咲茉と男子部員。そして、曲の最後には、2人がぐっと寄り添い、男子部員の衣装の帽子で2人の顔を隠した。ちょうど、キスをしているように見える。
うわーーっ!!
きゃーーっ!!
どよめく会場。男子も女子も大興奮だ。割れるような拍手が巻き起こる。
「ちゅーした!ちゅーしたじょ!」
「ちゅーしたー!」
鷹や拓馬も大騒ぎ。
「やっべー。エマちゃん可愛すぎ」
「キュンキュンしちゃったわね!」
兎田と猿渡先生もはしゃいでいる。
「わ、竜ちゃん顔真っ赤〜!」
「う…、兎田さん!からかわないでくださいよ!」
耳まで真っ赤にした竜一。隼も実は動悸が激しくて大変なことになっていた。
アンコール!アンコール!!
仕込まれていたであろうサクラの生徒の掛け声で会場中がアンコールを希望する。
一旦ステージ袖に捌ける2人。吹奏楽部顧問の指揮で、アンコール曲が始まった。
男子部員が先程の衣装のまま自分のパートに戻り、咲茉は早着替えでピンク色のドレスを身に纏い、再登場した。
深々と一礼して、静かにマイクを構える。
♪あなたの燃える手で あたしを抱き締めて
ただふたりだけで生きていたいの
ただ命の限り あたしは愛したい
命の限りに あなたを愛するの
頬と頬寄せ 燃える口づけ 交わす喜び
あなたとふたりで 暮らせるものなら
なんにも要らない
なんにも要らない あなたとふたり
生きて行くのよ
あたしの願いはただそれだけよ
あなたとふたり
固く抱(いだ)き合い 燃える指に髪を
絡ませながら 愛しみながら
口づけを交わすの 愛こそ燃える火よ
あたしを燃やす火 心とかす恋よ
(愛の讃歌
作詞:エディット・ピアフ
作曲:マルグリット・モノー
訳詞:岩谷時子)
柔らかく、伸びやかな咲茉の歌声。とても幸せそうな表情で堂々と歌い上げた。
後奏に入り、またゆっくりと一礼する。そして観客に向かってにっこり笑ってみせた。
再び会場内が拍手に包まれる。
隼は生まれて初めて、寒くもないのに全身に鳥肌が立つのを感じた。
「吹部の演奏、めっちゃよかったよな〜!他の部の発表ももちろんよかったけど」
「結城さんが可愛過ぎた」
「間違いない」
「一緒に歌って踊ってた先輩マジうらやま」
「俺、心臓鷲掴みにされたわ〜」
「あたしもー!」
教室に戻り、皆口々にコンサートの感想を述べている。その大半を占めているのが隣のクラスの結城咲茉の話題だった。
「狼谷!結城さんほんとにすごかったな!俺、なんかドキドキしちゃった」
「あ?…ああ、すげえパフォーマンスだったな」
竜一と隼もひっそりとコンサートの余韻に浸っていた。
その日の夕食。つい数日前に森ノ宮邸への引っ越しを完了させた咲茉。竜一や虎太郎、羊子理事長と食卓を囲む。
「結城さん、コンサートお疲れ様!すごく感動したよ!」
『ありがとう、鹿島くん』
「あたしも吹奏楽部の演奏から聴きに行けたけどね、よかったよ。特にアンコール曲。あんな大勢の前で1人で歌うなんて。あんた肝が据わってるね」
『理事長先生、ありがとうございます』
照れたように咲茉が笑う。
「う。おねちゃ、ちゅーした」
「こっ、虎太郎!」
その場で大騒ぎこそしなかったが、虎太郎にとっても刺激的でインパクト大なパフォーマンスだったようだ。
「…あのさ、あのキスしてるように見えた最後のポーズって……」
『もちろんフリだよ。ほんとにチューしてたら大変』
可笑しそうに咲茉が笑う。
「だっ、だよね!見てるこっちがドキドキしちゃったよ」
「やはりフリでしたか。身体を張ったパフォーマンスと分かってはおりましたが、この犀川、咲茉様のファーストキスのお祝いにお赤飯を炊くところでした」
『えっ!?』
「冗談でございます」
真面目な顔をして時々とんでもないことを言う犀川。
「くだらない冗談はやめな!それより犀川!早くデザートを出しておやり!」
「承知しました」
犀川がワゴンを押して戻ってきた。
「竜一様、虎太郎様、咲茉様へのバレンタインチョコレートでございます。理事長が用意されたチョコレートで私が作らせていただきました」
「うわ!すごい!おばあさん、犀川さん、ありがとうございます!」
「ばっちゃ、さっちゃ、あーと」
『ありがとうございます!いただきます。…の前に。実は私からも用意してて…』
咲茉が4人にバレンタインデーのプレゼントを手渡す。
『犀川さんみたいなクオリティーの高いものは作れませんが、愛情だけはこれでもかというくらい込めました』
「ありがたく受け取るよ」
「私にまでありがとうございます。家宝にいたします」
『えぇっ!?いや、早めに食べてください!』
「おねちゃ、あーと」
「ありがとう、結城さん。いただきます」
『うん!狼谷くんと兎田さんには明日渡すつもり。鹿島くん、いつもありがとう。ハッピーバレンタイン!』
犀川作のパティシエ顔負けのチョコレートも、咲茉が焼いたクッキーも、どちらもとても美味しかった。ホワイトデーのお返しは何がいいかな、と、今から考えを巡らせる竜一だった。
つづく
コメント
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第10話、めっちゃよかった! バレンタインコンサートの咲茉、可愛すぎてやばい。 「はじめてのチュウ」のパフォーマンス、最後のキスシーンフリって分かっててもドキドキしたわ。竜一が真っ赤になってるのとか、隼が鳥肌立てたのとか、ああいう細かい反応が刺さる。 ラストの夕食のシーンも温かくて、犀川の「お赤飯炊くところでした」には笑ったわ。 この家族の空気、好き。
ちろりーぬ
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なーさん。です
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