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◻︎聞き慣れないセリフ
「よかったんですか?あの人、森下チーフを“茜”って呼んでましたよ」
「そぉですよぉ、絶対、親しい人ですよね?置いてきちゃったけどぉ…」
「そんなことはいいから、それぞれ仕事に戻って!」
まだ何か言いたげだった二人だったが、そこで終わらせた。
昼休み、早絵を誘ってランチに行く。
「プレゼン、お疲れ様!反応どうだった?」
「うん、まぁまぁ。だけどね…」
「何かあったんだ…」
ランチプレートのパスタをクルクルフォークとスプーンで綺麗に巻くのは早絵。
「綺麗な食べ方だね、相変わらず」
「茜が雑なの、なんで蕎麦みたいにすするかな?で、それより何があった?」
「…アイツ」
「ん?」
「アイツが戻ってきた、社長付きとして」
「アイツって、アイツ?あの悪夢の元凶の?マジで?そういえばどっか外国支社に行ってたんだよね?」
「オーストラリア?とか」
「で?何か言われたの?」
「茜!って呼び止められたけど無視した」
ぶっ!と軽く吹いた早絵。
「え?名前呼び?」
「そう、結城君や日下さんの前でね。あの二人に何か聞かれても知らないって言っておいて。今度アイツを見つけたら、キツく言うから」
「あぁ、そうだね、結城君はともかく、あの日下って子は、そういうネタが好物そうだし。茜の元彼だってわかったら何を言い出すかわからないしね」
ランチを終えてデスクに戻ると、日下がやってきた。
「あのぉ、チーフぅ、さっきのあの人って、本当に知り合いじゃないんですかぁ?」
「違うわよ、向こうは私を知ってるかもしれないけど、私は知らないから」
「そうなんですか…。なぁんだ、残念。ちょっとイケメンだったしぃ、社長付きって言ってたから、紹介してもらおうかなって思ってたんですぅ」
「紹介?ダメダメ、既婚者なんだから」
「え?あの人、結婚してるんですか?」
_____ヤバっ!
「いや、確か、指輪してたから、うん。結婚してると思うよ」
「既婚者かぁ…。それはそれで、燃えますねっ!」
「はぁ?何が?もういいから、さっさと仕事に戻って!」
「はぁい」
返事はよかったけど、そのままお手洗いの方へ歩いて行った。おそらく歯磨きをしてメイクを直すのだろうけど。
_____もう、仕事始まってるのに!
バン!と強めにデスクを叩いたら、積み上がっていた書類が崩れ落ちた。
「あー、もうっ、何やってるんですか、チーフ!仕方ないなぁ」
落ちた書類を手際よく集めてくれるのは、結城。
「あ、ごめんね」
「いいですけど…何かありましたか?朝から少し様子がおかしい気がして」
_____よく見てるなぁ
「いや、別に」
「よく見てるなぁとか思ったでしょ?」
_____どきっ!
「ま、まぁね」
「そりゃそうですよ、好きなんですから」
「え?」
集めた書類をデスクに置くと、自分の席へ戻って行った。
_____いま、なんて言った?
聞き慣れないセリフが聞こえた気がした。