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敵対していた、と思っていた。
相容れぬ思想のぶつかり合いだと、誰もが思っていた。
だが――あの二人だけが、知っていた。
戦うことが、“願いを守る”ことだったと。
焼け焦げた静岡の山中に、煙がたなびく。
誰も近づけない重い空気の中、倒れ伏す二人の姿。
愛知の装甲は砕け、静岡の羽織は焦げいる。けれど、二人とも、まだ命はある。だがもう、立ち上がることはできない。
愛知:「……覚えているか……あの、茶畑の裏の……路地……」
静岡も、わずかに口元を動かす。
静岡:「……あぁ……よう、喧嘩した……そのたび、おまえ……きしめんで機嫌取ってきたな……」
愛知:「うるさい……静岡こそ……みかん押しつけてきやがって……」
静岡:「はは……どっちも、うまかったな……」
高校時代。
関東と関西の狭間、遠足で集められた“中部連合”のメンバー。
その中で、最も衝突していたのが静岡と愛知だった。
お互いをライバル視し、何かにつけて張り合っていたが――
富士登山で遭難した愛知。
他の県が見捨てかけた中、唯一助けに行ったのが、静岡だった。
静岡:「この山は、オレが守る山だ。だったら、ここで死ぬやつが出るのは……絶対、許せねぇ!」
愛知:「……助けられた借りは、いつか返す。戦場で、だ。」
静岡:「お前が来るとわかったとき……わかってたさ……俺が、お前を止めるしかないって。」
愛知:「その役目は……お前以外には……できなかった。」
空を見上げ、二人は笑う。
傷だらけのまま、声も出せないほど弱ってなお、笑っていた。
誰にも知られず、誰にも称えられず――国の真ん中で、二人の親友は戦い、そして止めた。
静岡と愛知。
それは争いではなく、約束の果たし合いだった。
親友だからこそ、自らの手で“終わらせる”と決めた。
誰のためでもない、この国のために。