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28話 「冷たい部屋」
路地裏を抜け、人気のない倉庫に滑り込む。
ここはギルドの古い保管庫で、今はほとんど使われていない。
鍵を閉めると、静寂が訪れた。
「とりあえず、ここなら追っ手は来ない」
ミリアが窓から外を確認し、頷く。
少女は壁際に腰を下ろし、腕で膝を抱えている。
銀髪が月明かりを反射して淡く輝き、その顔立ちは年齢より大人びて見えた。
「……名前は?」
問いかけても、反応はない。
ただ鋭い視線だけが返ってくる。
無理に聞き出すのはやめ、俺は荷袋からパンと水筒を取り出し、そっと置いた。
少女は一瞬だけそれを見つめ、やがて小さく手を伸ばす。
食べ方は丁寧で、長く飢えていたようには見えない。
だが、その仕草には妙な品の良さがあった。
「……不思議な子だな」ミリアが小声で呟く。
「おそらく、普通の奴隷じゃない」
俺も同じ感覚を抱いていた。
その夜は交代で見張りをしながら過ごした。
明け方、俺がうとうとしていると、少女が窓の外をじっと見つめているのに気づく。
まるで何かを探すように――いや、誰かを待っているようだった。
朝になり、ギルドに報告だけを済ませる。
少女の存在は伏せ、しばらくは倉庫で保護するつもりだ。
昼過ぎ、ミリアが食料の買い出しから戻ってくると、少女はすでに掃除をしていた。
埃だらけだった床は綺麗に拭かれ、棚の壊れた扉まで修理されている。
「……働き者だな」
思わず笑うと、少女はほんの一瞬だけ表情を緩めた。
その笑みは、まるで氷がわずかに溶け始めたようだった。