《炎露、少し、我の昔話をしようアル》
中華は俺がこれ以上話すつもりがないのを知ってか、穏やかな声色で自分自身の話を始めた。
《我も、昔塞ぎ込んでた事があってネ、その時はどんな優しい言葉も辛かったアル》
凍り付いたドアの向こうで話す彼女の声は、どことなく寂しそうだったが、何故か、楽しそうで懐かしそうで。
《でも、1人になりたくてもさせてくれない奴が居たアル。そいつは、今ではシスコンと化した我の妹アルヨ》
何がおかしいのか、中華は小さく笑った。
愉しそうに、笑った。
兄さんが、昔の事を思い出して笑っている時と同じような笑い方だった。
《それに師匠も、愛華も、我に手を差し出してくれたアル。我は1人になんてなれなかったアル》
《それは、誰一人として、我を見捨てなかったから…。炎露の事も、誰も見捨ててないアルヨ?》
何もかもを包み込むような中華の温かい言葉は、俺の心の中にスッと溶け込んだ。
不意に、頬に温かい水が流れた。
手で拭って、やっと俺が泣いているんだと自覚した。
「あり、がとう」
嗚咽混じりの涙声で、やっと絞り出したのは、その一言だけだった。
気が付けば、天井から垂れていた氷柱は無くなっていた。
俺が泣いているのを察してか、中華はそっとドアの前から離れていた。
久しぶりに涙を流すと、心が少しだけ軽くなったような気がする。
少し泣き腫らした顔で、部屋を見渡す。
氷柱こそ溶けたものの、ドアや机などを覆っている氷はまだ溶けていない。
これはきっと、自分自身で溶かさないといけないものだ。
俺自身で、乗り越える。
凍り付いていた心の炎が、燃え出した気がした。
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