テラーノベル
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朝日は目に刺さるほど眩しかった。
志摩の隠れ家に戻った俺は、ソファに沈み込み、拓海が遺したメモリーカードをテーブルに放り出した。
「久保田の野郎は?」
「別室で縛ってある。あいつは頭はいいが、痛みにはとことん弱い。一時間もすれば、知っていることを全部吐き出すだろうよ」
志摩はコーヒーを淹れながら、無造作にノートパソコンを起動した。
カードを読み込ませると、無機質なファイル名がいくつか並ぶ。
その中の一つ、音声ファイルをクリックした。
『……いいか、拓海。これはお前が触れていい領域じゃない。今すぐ忘れろ』
スピーカーから流れてきたのは、聞き間違うはずのない、親父の声だ。
『親っさん、でもこれは…っ、国民から吸い上げた税金を、俺たちがロンダリングして政治家に流すなんて。こんなの……っ、極道の仕事じゃねえ』
『極道の仕事が何かなんて、誰が決めた。……拓海、お前はもう「家族」を裏切るのか?』
そこで音声は途切れた。
拳が震える。
拓海は、最期まで極道としての「筋」を通そうとしたんだ。
組織を裏切ったんじゃない。
組織が、あいつを裏切ったんだ。
「黒嵜、これを見ろ」
志摩が画面を指差す。
そこには、膨大な数字が並ぶエクセルシートが表示されていた。
「これは……榊原組が関わっている、建設会社の受注リストか?」
「ただのリストじゃない。与党の重鎮、中臣代議士の選挙区で行われる公共事業の裏帳簿だ。落札額の10%が榊原組を経由して、中臣の隠し口座へ還流している。……拓海は、このデータの『実物』をどこかに隠したはずだ」
「実物だと?」
「ああ。このメモリーカードにあるのは、その隠し場所を示す『暗号』だ」
俺は画面を睨みつけた。
拓海が命を懸けて守った「とんでもないもの」。
それは、この国の根幹を腐らせている、巨大な汚職の証拠だった。
「志摩、親父がなりふり構わず『掃除屋』を送り込んできた理由が分かった。これが公になれば榊原組どころか……政府がひっくり返る」
「ああ。だからこそ、お前を消さなきゃならない奴らが、警察の内部にも、政界にも山ほどいるってことだろう」
その時、別室から久保田の悲鳴が聞こえた。
俺は腰を上げ、冷たい目をして廊下へ向かう。
「志摩。コーヒーは取っておいてくれ。……ちょいと、弁護士先生に『法律』の厳しさを教えてくる」
俺はドスを抜きはしなかった。
だが、俺の瞳には、久保田が味わうであろう地獄よりも深い闇が宿っていた。
復讐は、もう個人的な恨みだけでは済まされない。
この国の闇そのものを、俺の手で引きずり出してやる。
黒嵜和貴。
俺という「人間」の最後の一欠片が、また一つ、削れ落ちていくようだった。
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