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「あーあ……」
なんか今日、ダメだ。
頭が重い。水を吸った雑巾みたいに、じっとりと重い。じんわりと痛みもある。
洗濯物を畳むのはできるが、それ以上に複雑なことはできそうにない。今日俺が畳んだ衣服は、いつもより乱れている。何度か畳み直すが、いまいち上手くいかない。
──なんか今日、ダメだ。
俺はため息を吐いて、畳むのをやめた。
こういう時は、素直に休むに限る。このまま作業を続けても、結果が頭痛と心中するだけだ。
壁に手をつきながら立ち上がって、部屋を出る。心なしか、さっきより悪化したような。ああもう、何やってるんだよ──と、自分の失敗に頭の中で叱責しながら、俺は自分の部屋に戻った。
「ハァ……」
俺はベッドの上に倒れ込み、枕を頭の下に寄せる。朝に綺麗に整えたベッドシーツが、俺の下でぐしゃりと乱れた。脱いだブーツが片方倒れているが、直す気にならない。
不調の原因は、何なんだろうか。スクリプトの不具合か、ジョリーの不手際か。
仰向けになったがもやもやが晴れず、くだくだしい頭痛が続き、天井はぐるぐると回りだす。そんな筈ないのに、確かにそう見える。目を閉じても頭が起きてるせいで、すぐにまた開いてしまった。
コンコン。
と、闃とした部屋にノックの音が響いた。
「イースター? いる……?」
クィーバーの声だった。
「クィーバー?」
「あ、起きてたんだ……入ってもいい?」
「……いいけど」
答えるや否や、クィーバーが扉を開けて入ってきた。俺の不調を聞きつけたのか、少し心配そうな表情をしている。
「具合悪そうだったけど、大丈夫?」
「まあ、少しだから……そんな心配されることじゃねえよ」
半身を起こした拍子、頭がぐらっと揺れる。クィーバーの輪郭が、一瞬ぼやけたような気がした。
にしても、俺が不調ながら洗濯物を畳んでいた時間なんて僅かだというのに、よく気付いたものだ。余程注意深く観察しているのだろう。
「大丈夫そうならいいけど……今日は休んでなね」
クィーバーは優しく微笑んだ。他の連中の傍若無人っぷりと比べたら、彼女の慈愛はまるで天使のように見える。
「イースターが元気にならなきゃ、お洋服がシワシワになっちゃうよ」
クィーバーはそう言いながら、倒れたブーツを直して、近くの椅子に腰を下ろした。
「そうだ、お薬持ってきたけど飲む?」
「あー……薬か。飲む」
クィーバーは懐から、小瓶に入った錠剤を取り出した。削れたのか、底に白い粉が溜まっている。
「甘いやつだから。舐めて飲んでね」
「子供じゃねえよ……」
俺が差し出した手に、クィーバーは錠剤を二つ出した。それを口に運ぶと、口の中に甘い味が広がる。思ったより甘く柔らかくて、少し心が軽くなった。
別に普通の錠剤で良かったのだが。クィーバーから見た俺は、どれだけ子供なんだろう。
そんなこんなで、錠剤を舐め終えた。
「すぐに気分が良くなると思うから」
それから暫くの間、クィーバーは俺を優しく見守っていた。ほんの少し気まずさを覚えながら、俺はベッドに身を預ける。
薬は効き目が早いもので、暫くすると痛みは引いてきた。
頭が重かったが、彼女が来てからだいぶ良くなった気がする。薬の効き目が良いのか、単に彼女に癒されて気が楽になったのか。
「気分どう?」
「うん……だいぶ良くなったよ」
俺はまた半身を起こして、少し伸びをした。
まだ元気とは言い難いが、洗濯物ぐらいなら畳める気がする。
「そう? よかったー……」
クィーバーはそう言って、俺に背中を向けた。クスクス、とイタズラっぽく笑うのが気になって、俺は怪訝にその顔を覗き込む。
「な、なんだよ?」
「いや? 私、お薬なんて持ってなかったなーって」
「……は?」
薬を持ってない?
じゃあ、俺が飲んだのは一体──そう思って、俺は自分の喉に手をやる。そんな俺を見て、クィーバーはちょっと困ったように微笑んだ。
「あ、心配しないで? ただのラムネだから」
「ラ、ラムネって……」
確かに心配はいらないものだ。しかしなぜ、薬と言って俺に食べさせる必要があったのか。
「だ、だってさ……イースターがお洗濯のことで落ち込んでるから、頭痛もよくならないのかなって思って。お菓子とか食べて気分が明るくなれば、体調もよくなると思ったんだ」
「あ、あぁ……そういうこと」
なるほど、確かに気分の落ち込みは晴れて、頭痛は快方に向かっている。頭痛と言っても、俺の思い込みとネガティブな思考のせいだったのだろうか。どちらにせよ、その霧を彼女が晴らしてくれた。
「下手にお薬勧めていいのかわからないし……だからラムネにしたんだ。おいしかった?」
「別に普通に頭痛薬で良かったけど……いや、うん。美味しかったよ」
俺がそう答えると、クィーバーは嬉しそうににっこり笑った。ラムネの味より、彼女か気にかけてくれたのが嬉しかった。
「ありがとうな」
「良くなったならいいんだよ」
クィーバーがクスクス笑うのに、俺はつられるようにして笑った。
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