前書き
今回の話には、
『416.悪魔の証明』
の内容が含まれております。
読み返して頂くとより解り易く、楽しんで頂けると思います。
コユキはまだ瞳をキラキラと輝かせて、夢見る少女の様に無邪気に言うのであった。
「あれ? って事は若(も)しかして…… アジやシヴァ、ラマシュトゥちゃん達も、今の幸福寺でだったら昔のってか、オリジナル魔王の姿になれるとか、そう言う事なのよね? 緑、紫、ピンクの天使っぽい姿とかって事でしょう? 萌よっ! 萌えー! んねぇ、ちょっとやって見せてよおぅ!」
兄弟の長兄であるオルクスは無言のまま目を瞑り微動だにしなかった。
残る五柱のフィギュアは挙動不審者の様に忙しなく視線を交わし合い、やがて兄弟の次兄であるモラクスにそれぞれの視線を集中させたのである。
モラクスがコユキの双眸(そうぼう)を真っ直ぐ見つめながら言う、真剣な顔であった。
「コユキ様…… 申し訳ありませんが、あの馬鹿以外、私達はオリジナルの姿を取る気持ちは皆無なのであります…… というのも…… 我らが首魁(しゅかい)たる魔界の大公爵、オルクスは未だ真核(しんかく)を奪われたままでございます故…… 依り代に縋(すが)って何とか善悪様とコユキ様の役に立てるように、時に見下される事があっても只々、貴女方の為に尽くして来ているのです…… どうか、どうかっ! ご容赦くださいませ…… あそこにいる馬鹿以外、我々マ・ト・モな神経を持っている兄弟が、今現在顕現する事など…… 出来ませんっ! お許しくださいませっ!」
「ゴメ、ン…… サンセンチ…… アヴァドン、イガイ、ノ…… ミンナ、モ、ゴメンネ…… クッ!」
「あ、そうか…… んんん、こっちこそゴメンだよぉっ! オルクス君っ! 無神経だったよね? 許してっ! 許してよぉ! 今のままでも凄く可愛いからさっ! 愛しみ、愛しみしか勝たんからね? 本当だよ?」
「あーあーぁぁぁ、いやいやぁー、吾輩も別段そんなつもりはぁ…… お兄ちゃん、そんなつもりじゃ無かったんだよぉ…… すまぬぅ…… てかぁ、ゴメンなさいぃ……」
慌てて叫んだアヴァドンの声に答えたお兄ちゃん、オルクスは立派であった。
アヴァドンの後ろで立ち竦(すく)んでいたアルテミスの顔をしっかり見つめながら答えたのである。
「アヤマル、コト、ハ、ナイヨ…… ミンナ、リッパ、ニ、ナッタネ…… ヨカッタ、ネ…… ハアァー、コレデ、ハチニンニナッタシ、モウ、イラナイ、ンダナ、キット…… シヌカ、ナ…… フッ」
ラマシュトゥが耐え切れない感じで叫ぶのである。
「兄様っ! そんなそんな、お止めくださいませぇ! コユキ様の考えが至らなかっただけですわぁ、どうか…… そんな風に自分を貶(おとし)める様な発言はお止め下さいませぇー、悪いのは遊び半分で他人の気持ちとかどうでも良いと思ってるコユキ様では有りませんのぉー」
「ちょっと! 何よっ! アタシは謝ってんじゃないのよ!」
「ムッ、ムムム、デ、デモ……」
コユキが兄妹の話に割って入るのである、んまあ、今のラマシュトゥの言い草なら仕方ないだろうな。
ほんの少しでも空気を読めれば、今この時、ラマシュトゥと思い悩むオルクスの間に何か言うのは、狂っている、そう、コユキ位のものだと判りそうなものだが、チャレンジャー的なアヴァドンが無理やり捻じ込もうとしたのである。
「おいっ! お姉ちゃん、吾輩が悪いって謝ってるんだからコユキ様に責任転嫁するのはおかしいだろうが! 我輩が悪い、そうだね、はい、お終い、って流れにするのが普通だろうが? コユキ様は悪く無いんだから、横から口出すんじゃねーよ! ちょいちょい疎(うと)ましいんだよ、お前!」
「ま、まあ! 私に対してなんて口を! アヴァドンの癖に」
激高するラマシュトゥをパズスが宥(なだ)め始める。
「まあ黙れよラマシュトゥ、お前が口出すと話がややこしくなるんだよ、また呼ばれたらどうするんだよ『お前だよ〇号』とかさぁ」
ビクッ!
ラマシュトゥが体を硬直させて黙り込む、恐らくセピア降格時代の事でも思い出したのでは無かろうか?
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