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#極道
鷹槻れん

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#初めて
※この物語はフィクションです。
作中の受験制度や日程、進路に関する描写は、実際のものとは異なる場合があります。
あくまで物語としてお楽しみください。
これから受験をされる方は、実際の制度をご確認ください。
『第二十四話 届くかもしれない』
──十一月下旬。
「千夏、今度の日曜日さ」
帰りのホームルームが終わったあと、結衣が声をかけてきた。
「うん?」
「模試終わったんでしょ?久しぶりに、どっか行かない?」
「ごめん。日曜日は塾」
「……ですよねー」
結衣は肩を落とした。
「ごめんね」
「いや、私も受験生だから分かってるけどさ」
結衣は少し寂しそうに笑った。
「前はもっと遊んでたのにね」
「うん」
千夏も頷いた。
結衣は少し考えてから、拳を握った。
「大学入ったら……遊ぶっ!」
「急にどうしたの?」
「受験で勉強漬けの分、大学入ったら遊びまくるの!」
「授業も受けないと単位落とすよ」
「じゃあ、遊びを学ぶ学部ないかな」
千夏は真顔で考えた。
「……そんな学部卒業して、どんな職業につくの?」
結衣も真顔になる。
「……職業、遊び人」
「なんか……どっかのゲームで聞いたような」
「レベル20で賢者に転職できるの」
「転職より先に就職先は?」
「勇者の仲間になれるよ」
「……」
「現実って厳しい……」
二人は顔を見合わせた。
そして、同時に吹き出した。
「じゃあ、ちゃんと勉強しよ」
「そうだね」
笑いながら、二人は教室を出た。
けれど、以前のように一緒に帰ることはなくなっていた。
千夏は塾へ。
結衣も別の予定へ。
受験が近づくにつれて、二人の時間は少しずつ減っていた。
─十二月。
共通テストの模試。
その結果が返ってきた。
千夏は教室の隅で、一人、成績表を開いた。
第一志望。
国立御園水女子大学 教育学部。
判定は──C。
「……C」
思わず、声が漏れた。
十月はDだった。
それが、Cになった。
たった一つ。
それだけなのに。
千夏の胸に、小さな光が灯った。
「……もしかしたら」
成績表を握る手に、少しだけ力が入る。
「もしかしたら、届くかもしれない」
まだ合格圏内ではない。
安心できる数字でもない。
それでも──。
『教師になりたい』
そのために、この大学へ行きたい。
そして今、その夢に一歩近づいた。
──翌朝。
「……眠い」
千夏は学校の廊下を歩きながら、小さくあくびをした。
「昨日、何時まで勉強してたの?」
結衣が聞く。
「……二時くらい?」
「くらいって何!?」
「時計見たのは二時」
「それ、寝た時間じゃないでしょ」
「……たぶん」
模試の結果が上がったが、かえってそれが無理をさせる原因にもなっていた。
「千夏」
結衣が真顔になる。
「ちゃんと寝なよ」
「大丈夫、大丈夫」
千夏は笑った。
「C判定出たんだから、ここからもっと頑張らないと」
「でも──」
「結衣さんも一緒に頑張ろう?」
「……うん」
結衣は心配だったが、それ以上言えなかった。
千夏はそのまま教室へ向かう。
いつもと同じように。
いつもより少し速い足取りで。
──十二月も後半。
街はクリスマスムード一色になっていた。
駅前には大きなツリー。
商店街には赤と緑のイルミネーション。
店先にはクリスマスソング。
けれど千夏にとっては――。
「……クリスマス?」
参考書をめくる。
「Although Christmas has religious origins, it has become a cultural event that is celebrated in different ways around the world.……」
クリスマスイブの夜も、千夏は机に向かっていた。
そこへ悠真からメッセージが届く。
『千夏ちゃん、今部屋の明かりついてるけど勉強?』
『あと少し』
『それ、昨日も言ってたけど、日付変わるまで電気ついてた』
『……あと少しですってば』
『便利な言葉だな』
『受験生の魔法の言葉です』
『そんな魔法、使いすぎると体壊すぞ』
『大丈夫』
『その『大丈夫』の根拠を述べよ』
思わず千夏は笑った。
『じゃあ、五分だけ休憩します』
『少しだけアパートの前に来れるか?』
千夏は母に「ちょっとコンビニに行ってくる」と告げると、上着を羽織って玄関を出た。
悠真がアパートの扉から顔を出す。
彼は階段を降りてくると千夏の手の上に温かい缶コーヒーと小さなお菓子を置いた。
「はい、クリスマスプレゼント」
「これだけ?」
「文句あるなら返して」
「ないです」
千夏は笑いながら、お菓子とコーヒーを胸に抱いた。
「ありがとうございます」
「どういたしまして」
千夏の家とアパートの間に木枯らしが吹く。
「寒いから、暖かくして早く寝なよ」
「……あと少しだけ」
「おいおい」
「だって、せっかくC判定になれたんだし」
「魔法の言葉、乱用注意」
「受験生だから」
「便利だなあ」
千夏は部屋に戻り、参考書の続きを始める。
少し冷めた甘めの缶コーヒー。
カラメルとシナモンのほろ苦いクッキー。
千夏は窓から、悠真の部屋を見て呟いた。
「Merry Christmas、お兄様」
明日は終業式。
勉強漬けの冬休みが始まる。
──だが。
──終業式の放課後。
しばらく学校は使えないから、と自習室で千夏と結衣は向かい合わせに机に向かっていた。
参考書。
問題集。
赤ペン。
付箋。
机の上には、いつもの光景が広がっている。
「……よし、次のページ」
ペンを握る。
問題を読む。
けれど──。
文字が、ぼんやりと滲んだ。
「……あれ?」
千夏は目をこすった。
もう一度、問題を見る。
「……?」
頭が重い。
「どうしたの?」
結衣が声をかけてきた。
少し休めば大丈夫。
そう思った。
だから、ペンを置かなかった。
「うん……何でもない……」
手に力を入れる。
けれど、うまく力が入らない。
視界が暗くなった。
「……あれ……?」
千夏は立ち上がろうとした。
その瞬間──。
身体から力が抜けた。
椅子が大きく後ろへ動く。
机の上のペンが床へ転がった。
「……千夏?」
結衣が、異変に気づき勢いよく立ち上がる。
千夏は返事をすることができなかった。
静まり返った自習室に、椅子の倒れる音が響く。
「千夏っ!」
結衣の声が、自習室に響いた。
机の上から一枚の紙が床に落ちる。
それは模試の成績表だった。
第一志望──C判定。
千夏が保健室へ運ばれた後も、
成績表だけが、床に残されていた。
──続く
コメント
3件
千夏さん、無理しすぎはダメだよ……と思いながら読んでたので、最後はびっくりしました。大丈夫かな😢
もう、最後のシーンがすごく胸にきた……。C判定に一歩近づいた喜びと、無理がたたって倒れてしまう千夏の姿が、受験生のリアルな脆さをそのまま切り取ったみたいで。結衣の「千夏っ!」って叫びが聞こえてきそうだった。それと、成績表だけが床に残る描写、すごく切なかった。悠真くんのクリスマスプレゼントのやりとりは、あたたかくてほっとしたんだけど、その後の展開が重くのしかかる。体調を崩す前に気づいてあげたかった……って思わされる、惹きつけられる終わり方でした。続きがすごく気になります。