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※この物語はフィクションです。
作中の受験制度や日程、進路に関する描写は、実際のものとは異なる場合があります。
あくまで物語としてお楽しみください。
これから受験をされる方は、実際の制度をご確認ください。
『第二十五話 代償』
──
「……ここ、どこ?」
目を開けると、白い天井が見えた。
ここ……自習室だっけ?
「保健室よ」
声のする方を見ると、女性の校医が椅子に座っていた。
その隣には、心配そうな顔をした結衣。
「千夏!」
「……結衣?」
「もう!急に倒れるんだもん!」
「ごめん……」
「ごめんじゃないよっ」
結衣は頬を膨らませた。
校医が記録にペンを走らせながら口を開く。
「頭が痛かったり、吐き気はない?」
「……ありません」
「頭は打ってなさそうね」
校医は安心して息をついた。
「…………」
「最近、ちゃんと寝てる?」
「……寝てます」
「何時間?」
「……五時間くらい」
実はいちいち覚えていないが、怒られないように多めに答えた。
「……足りないわ。せめて七、八時間は寝ないと」
「え?」
「この季節、倒れる受験生は多いの。勉強しなきゃって焦る気持ちは分かるけど、身体を壊したら受験どころじゃないでしょう?」
「……はい」
「今日はもう帰って休みなさい」
千夏は渋々うなずいた。
──
体のあちこちが痛い。どこかアザになってなければいいけど。
まだ、どこかフワフワした足取りで結衣と一緒に自習室へ向かう。
もう自習室にはだれも残っていなかった。
床に散らばった参考書や文具は誰かがまとめといてくれたようだ。
カバンにしまおうとしたところで、千夏は机の下に何かが落ちているのに気づいた。
拾い上げる。
それは、千夏の模試の成績表だった。
第一志望。
国立御園水女子大学 教育学部。
判定は──C。
そして、その紙には、倒れたときについたのだろう。
くっきりと靴跡が残っていた。
千夏はしばらく、それを見つめた。
「……まだ、頑張れる」
「千夏?」
「なんでもない」
千夏は成績表を鞄にしまった。
──
家に帰ると、母親からも散々心配された。
「毎晩、夜ふかししてるから!」
「うん」
「これからは早めに寝るのよ」
「……分かった」
自分の部屋に入り、ベッドに横になり、目を閉じる。
#極道
鷹槻れん

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#初めて
けれど、頭の中には次々と不安が浮かんでくる。
増えていく参考書の付箋。
今日、進めるつもりだった問題集のページ。
覚えていない英単語。
昨日間違えた数学の問題。
千夏はしばらく天井を見つめていた。
そして──
「……少しだけ」
起き上がり、机に向かう。
「一問だけだから」
問題集を開いた。
──
冬休みが始まった。
休みと言ってもやる事は多い。
冬季講習で朝から夕方まで授業。
帰宅してから復習。
夜は過去問。
そして、また翌朝。
カレンダーのバツ印が増えていく。
あれから睡眠時間も意識するようにした。
体調は悪くない。
むしろ頭も冴えてきている。
──大晦日の夜。
「千夏ー!まだ勉強してるの?」
窓の外から声がした。
窓から顔を出すと結衣たち女子三人が手を振っていた。
「初詣行こうよ!」
「え……今から?」
「今から!ちょっとくらい、いいでしょ?」
久しぶりに見る友達の顔。
千夏は少し迷ってから、参考書を閉じた。
「……行く」
神社は大勢の人で賑わっていた。
新しい年を迎えようとする人々の声。
屋台の明かり。
吐く息は白い。
でも身が引き締まる。
やっと賽銭箱の前にたどり着き、千夏は手を合わせた。
お願いすることは、一つだけ。
──第一志望、合格しますように。
目を開ける。
お参りが済むと、結衣がおみくじを引こうと千夏の手を引く。
「千夏、引いた?」
「うん」
「何だった?」
千夏は紙を開く。
「……凶」
「げっ」
「凶だ……」
「だ、大丈夫だよ!お参りしたし、ただの紙だから!」
「……うん」
千夏は笑った。
神社の枝にくくりつける前、もう一度だけ「凶」の文字を見た。
──
その後、結衣たちとファミレスへ向かった。
軽くお茶一杯のつもりが、話や笑いは尽きない。
受験の話。
お互いの進路の話。
高校生活の思い出。
くだらない話。
「卒業して落ち着いたら、みんなで遊ぼうね!」
結衣が言った。
「うん」
千夏も笑った。
気がつけば夜が明けてきた。
「やば、初日の出?」
「拝んどく?」
「南無……」
「それ、お経だよ」
ファミレスの窓から見える、御来光に全員手を合わせて解散となった。
まだ日が昇りきらない、薄暗い早朝の帰り道。
向かいのアパートを見上げても、悠真の部屋は厚いカーテンが閉じられていた。
年末年始は帰省していると悠真からメッセージが来ていた。
だから、いつもの部屋には誰もいない。
『お土産、何がいい?』
『ずんだもち』
そんなメッセージのやりとりしかしていない。
悠真には学校で倒れたことは言わなかった。
余計な心配はかけたくなかったから。
家に帰ると千夏は、徹夜したにもかかわらず、そのまま机に向かった。
参考書を開く。シャーペンをノックする。
静かな部屋にページをめくる音だけが響く。
──新学期。
三学期が始まった。
黒板の端には大き目の字で、
『共通テストまで、あと○日』
と書かれていた。
教室の空気も、以前とは違う。
休み時間にも参考書を開く生徒がいる。
千夏も問題集を開いた。
もうすぐ、本番。
あと少し。
あと少しだけ。
そう思いながら、勉強を続けた。
──そして、一月中旬。
共通テスト前日。
「……熱、あるじゃない」
母親が体温計を見て、顔を曇らせた。
千夏は布団の中で目を閉じていた。
「追試験もあるから、明日は休みなさい」
「……うん」
千夏は素直にうなずいた。
明日は休む。
そう決めた。
──そう決めたはずだった。
──翌朝。
母親が千夏の部屋を覗いた。
「千夏、具合は……」
そこで言葉が止まった。
ベッドが空いている。
「……千夏?」
机の上には、昨日のままの参考書。
椅子の背もたれには制服。
けれど、千夏はいない。
玄関を見る。
靴もない。
「千夏……!?」
──その頃。
千夏は初めてきた広い大学キャンパスで試験会場へ一人で歩いていた。
身体が重い。
足元もおぼつかない。
それでも、前へ進む。
頭の中にあるのは、ただ一つ。
──行かなきゃ。
ここまでやってきた。
最初、模試の判定はDだった。
それがCになった。
「届くかもしれない」
そう思った。
だから。
今日だけは。
今日だけは、行かなきゃ。
テスト会場の教室に入る。
周囲には、同じように受験票を机に出した高校生たち。
千夏も鞄から受験票を取り出す。
「……大丈夫」
誰に言うでもなく呟いた。
「試験さえ始まれば……大丈夫なはず」
時間になり試験が開始した。
次々とマークシートを塗りつぶす。
けれど──
問題の文字が少しずつ霞んでいった。
「……う」
頭が割れるように痛い。
暖房が効いているのに、寒くて仕方がない。
周囲の声が遠くなる。
「……すみません」
試験官に声をかけようとした。
けれど、言葉が続かない。
身体から力が抜ける。
受験票が、机から落ちた。
そして──
千夏の身体が、その場に崩れた。
「大丈夫ですか!」
駆け寄る声。
騒然とする会場。
誰かが救急車を呼ぶ。
冬の朝。
試験会場に集う受験生たちの中で、
千夏だけが、試験を受けることができなかった。
──続く
コメント
3件
次回、楽しみにしています💦千夏さん、大丈夫なんでしょうか、不安です😥
冬休みから前日までの描写がじわじわくる……!“ちょっとだけ”が積もってああなっちゃうの、本当にリアルで胸が痛かったです😭💔 おみくじ“凶”の伏線が効いてて、「今日だけは行かなきゃ」のところで涙出そうになりました。 千夏が報われてほしい…次が気になりすぎます!🌸✨