テラーノベル
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ゆうき あきや
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第18話:アンチの襲来と完全論破〜底辺の王、納税を宣言す〜
「……マジで、美味かった。四十生きてきて、初めて自分の足で立った気がしたわ」
四畳半のボロアパート。
俺は空っぽになった五千円の黒毛和牛のパックをカメラに向けながら、鼻をすすっていた。
同接5万人を超えるコメント欄は、俺の初任給(?)と初めての贅沢を祝う、温かい言葉と草(w)で埋め尽くされている。
『おっさん、よくやった!』
『自分の金で食う肉は美味いよな!』
『魔王の晩餐(A5ランク和牛)』
『明日からまた特売のみそラーメンに戻るギャップで風邪ひきそう』
リスナーたちとの、優しくて心地よいプロレス。
だが、光が強くなれば、必ず濃い影が生まれる。それがインターネットという魔境の絶対法則だ。
俺がティッシュで鼻水を拭っていた、その時だった。
高速で流れるコメント欄の中に、ひときわ異彩を放つ、冷たくてトゲのある言葉が混ざり込んだ。
『ナマポのくせに五千円の肉とか贅沢すんなよ。俺たちの税金で食う肉は美味いか? 底辺のゴミが』
一瞬。
本当に一瞬だけ、コメント欄の動きがピタリと止まった。
『は? お前誰だよ』
『空気読めやカス』
『おっさんは自分で稼いだ金で買ったって言ってんだろ!』
『モデレーター、こいつBANして!』
すぐに、古参リスナーたちが猛烈な勢いで噛みつき始めた。
無理もない。彼らにとって俺は、自分たちが手塩にかけて育て(札束で殴り)、ようやく「五千円の肉」というささやかな幸せを掴ませたペットのような存在なのだ。その感動に冷や水を浴びせるアンチの存在は、絶対に許せないだろう。
コメント欄が荒れかける。
アンチも負けじと連投してくる。
『事実だろ。生活保護受給者はパチンコも贅沢も禁止なんだよ。市役所に通報してやる』
「……おい、お前ら」
俺は、安物のマイクを手元に引き寄せ、低く、ドスの効いた声で呟いた。
「やめろ。そいつを叩くな。BANもしなくていい」
『おっさん?』
『でもこいつ……』
俺はカメラ(ヒビ割れたスマホ)のレンズを真っ直ぐに見据え、息を深く吸い込んだ。
「ナマポのくせに贅沢するな。俺たちの税金で食う肉は美味いか……か」
俺は三万円のゲーミングチェアの背もたれに深く寄りかかり、フッと自嘲気味に笑った。
「全くだな。お前の言う通りだわ。反論の余地が、一ミリもねえ」
『えっ』
『おっさん、折れんなよ!』
「折れてねえよ。俺は四十年間、お前らみたいな真っ当に働いてる連中が納めた税金にタダ乗りして、この四畳半で息を潜めて生きてきたんだ。底辺のゴミ? その通りだよ。社会のサビだ。お前が俺にムカつくのは、納税者として当然の権利だ」
俺は、あえてアンチの言葉を真正面から受け止めた。
綺麗事で言い訳なんてしない。俺が社会の寄生虫だった事実は、誰にも覆せないのだから。
「でもな、アンチ君」
俺は画面に向かって、ニヤリと笑った。
それは、これまで怯えてばかりいた限界おじさんが、四十年にして初めて見せた「牙」だった。
「俺は今日、初めて『自分の稼いだ五十万』で肉を食った。これがどれだけ恐恐しいことか、分かるか? 俺は明日、この五十万の数字が記された通帳と、領収書を握りしめて……あの地獄の市役所に行くんだよ!!」
俺の唐突な絶叫に、コメント欄がビクッと震えた(ように見えた)。
「通報してやる? やれるもんならやってみろ! お前が通報するより先に、俺が明日、朝イチでケースワーカーの鈴木さんのところに自首しに行くわ!! 『五十万稼ぎました!』って、第61号様式(収入申告書)にビッシリ書き込んで提出してやるよ!!」
『……は?』
アンチの戸惑うようなコメントが一つ、ぽつんと流れた。
「俺がこのまま、ずっと税金泥棒でいると思ったか? 残念だったな! 俺は来月、この稼ぎを理由に……生活保護を抜ける準備をしてるんだよ!!!」
ドカンッ! と、自分でちゃぶ台を叩き割る勢いで叫んだ。
「国民健康保険料? 払ってやるよ! 住民税? 所得税? 来年、血反吐を吐きながら全部納めてやる! お前らが納めてるのと同じ、クソ重たい『税金』っていう十字架を、俺も背負ってやるって言ってんだよ!!」
画面の向こうのアンチに向かって、いや、この理不尽で厳しい社会のすべてに向かって、俺は宣戦布告をした。
「俺は底辺のゴミから、ただの『納税者のおっさん』にクラスチェンジするんだ! お前らと同じ土俵に立って、毎日胃痛に苦しみながら社会の歯車として回ってやる! だからアンチ君……俺が来年、確定申告の書類書きながら泣き叫ぶ姿を、特等席(チャンネル登録)で見とけや!!!」
しん、と静まり返った数秒間。
アンチからの返信は、二度となかった。
完全論破、いや、完全なる「全面降伏からの逆襲」だった。
そして、その静寂を破るように、コメント欄がかつてない大爆発を起こした。
『うおおおおおおお!!!!!』
『アンチを一瞬で黙らせたwww』
『「通報するより先に自首する」パワーワードすぎるwww』
『一番カッコいい生活保護脱却宣言』
『税金泥棒から納税者へのクラスチェンジ、熱すぎるだろ!!』
『おっさん、マジで一生推すわ』
ボシュゥゥゥン!!!
チャチャリンッ!!!
『スーパーチャット:50,000円(魔王の納税準備金!)』
『スーパーチャット:10,000円(確定申告頑張れ!)』
『スーパーチャット:10,000円(アンチすら魅了する男)』
「あ、コラ! 投げるな! 明日の申告額がまた増えるだろうがァァァ!!」
感動と興奮のるつぼと化した五万人のリスナーと、またしても増えていく来年の税金に絶望する四十歳。
逃げられない。
俺はもう、自分の放った言葉の責任から逃げることはできない。
明日。俺はついに、ケースワーカーの鈴木さんへ「最後の引導」を渡しに行くのだ。
コメント
1件
おっさん、ついに牙をむいたな…!「通報される前に自首する」って完全論破の新境地すぎるだろww アンチすら沈黙させる感じ、めちゃくちゃ痛快だった。それにしても、納税者になるって宣言した直後にスパチャで税金増えるオチ、シュールすぎて草。こんな熱いクラスチェンジ、見たことねえわ🔥 作者さん、このカタルシスはガチでやばいです!