テラーノベル
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アクシデントがありつつも、楽しい時間というのは早くに過ぎ去ってしまう。
気づけば陽は朱色にかわる夕刻。
俺とセレーネは、二人隣り合って砂浜に座っていた。
他の皆も空気を読んでくれたのか、周囲に映るのは美しい景色と、見合いが終わるのを今か今かと待ちわびているアクアレムの騎士たちだけ。
ザザーと白い波が寄せては返し、俺達の足を濡らす。
「もうすぐ時間ですね……」
「そうだな」
「多分今日が人生で一番楽しかったです。父が死んだと聞かされた後に楽しむって不謹慎でしょうか?」
「いや、親ならどのような時だろうと、娘が楽しんでいるのが一番だろう」
二人で海に沈みゆく陽の光を眺めていると、どこか物悲しい気持ちになる。
「王子……どうしてわたくしをここまで気にかけてくださるのですか?」
俺はニヤリと笑みを浮かべ、仰々しく言う。
「ククク、セレーネよ、そなたはとんだ甘ちゃんよ。気づかぬうちに余のハーレム計画に入れられ、人質となっているのだからな。ゆくゆくはそなたの身柄を使い、アクアレムを脅迫してリガルドの支配下に――」
セレーネの指が動き、彼女の小指だけが俺の小指の上に乗る。
「…………」
「それは……極悪ですね」
おいやめろ、その中学生恋愛みたいな指の動き。
「今日ほど連れ去られたいと思ったことはございません」
「ククク、余の洗脳魔法にかかったようだな」
「どうやら……あなたのことを慕ってしまっているのかもしれません」
「え?」
驚きで素の声が出た。
あれ、俺洗脳魔法かけてないよな? もしかして気づかないうちにナハトがかけてたとか?
「セレーネは、余の顔を見てどう思う?」
「……とても……凛々しいです」
あっ、ダメだ。洗脳かかってるわ。こんなパンパンマンみたいな顔を凛々しいとか言うわけない。
俺は遠巻きに俺達を観察しているナハトに(今すぐ洗脳をとけ)と唇の動きだけで伝える。
しかしナハトは腕をクロスして(かけてない)と返事する。
「王子……」
彼女は薄く頬を朱に染めて、こちらを見つめてくる。
こ、これはキスフラという奴なのか? さっき海中で人工呼吸されたような気がしなくもないが、あれはノーカンだろう。
夕焼けのビーチという、あまりにもベタすぎて、今どきドラマですら採用されないシチュエーション。
そこで気持ちを打ち明けた王女と、悪王子が見つめあってって……。
「セレーネよ……」
「はい、王子……」
「そなたは……デブ専なのか?」
「…………フフ……す、すみません」
セレーネはツボにハマってしまったのか、俯いてクスクスと笑う。
「いや、余の顔を凛々しいなどと言うのは、もうデブ専としか……」
「王子は、よっぽどご自身の姿に自信がないのですね」
「笑うなよ。余は、今まで生きてきてそんなこと言われたことないのだ。疑り深くもなる」
「確かに王子はイケメンというわけではないと思いますが、容姿にこだわらない女も多くいます」
「そうなのか……カルチャーショックだ」
「わたくしは、王子のような一緒にいて楽しい人がタイプでございます」
「そなた奥手と思っていたが、意外と押してくるな」
「そうですね、わたくしも自分の意外な面に驚いています」
二人で笑いあう。
その後しばしの沈黙があった後、俺は最後の問いを彼女に投げる。
「……セレーネ、亡命する覚悟は出来たか?」
「…………」
「余はそなたをこの国から連れ出すためにやって来た。そなたが望むなら、この水槽から出してやる。なに心配するな、余に誘拐されたってことにすれば国民は怒らん」
「あなたが、この国で横柄にされている理由ですね。全てご自身にヘイトを集めて、わたくしの亡命を手助けする」
市場で俺が傲慢なバカ王子を演じた理由。どんなに取り繕おうと、国民からすると亡命は国を捨てて逃げたように思われる。
しかし俺が暴れて無理やりリガルドに連れ帰ったのなら、そのヘイトは全て俺に向き、セレーネは無理やり連れ去られた被害者でいられる。
「勘違いするな。そなたはいずれこの国の王に戻るのだ。その時に国民に嫌われていたら、回り回って余が困る」
「感謝致します、王子。ですが、わたくしはやはりこの国に残ります」
「……理由を聞いてもよいか?」
「はい、決して自暴自棄になったというわけではありません。ですが王子たちと接していてわかったのです、わたくしはこのアクアレムという国を愛していると。民や父を残し、わたくし一人でこの国から逃げ出すことはできません」
「この国に残る意味、理解しているだろう? 処刑されるぞ」
「オクタスはわたくしを求めていますので、奴の伴侶にされると思います。さすがにそうなった場合は自害いたしますが」
セレーネは、明日遊びに行くくらいの気安さで覚悟を口にする。
「わかっていてなぜ」
「なぜでしょうか、少し前はこの後どうなるか不安で仕方ありませんでしたが、今は覚悟が決まっています。良い思い出ができたからでしょうか」
「……余は、そのようなつもりで見合いをしたわけではないぞ」
「楽しい思い出を作って、まだ生きていたいと思わせたかった。ですよね」
「人の人生をコントロールするほど、余は傲慢ではない」
「わたくしも、できることならジャガー王子やソニア王女のように、あなたの味方でいたかったです」
そう言ってセレーネは、自身のペンダントを首から外すと、俺に手渡してきた。
シルバーのチェーンで、ブルーの宝石がはまった気品のあるアクセサリーだ。
「これは……」
「お土産でございます。代々アクアレム王家に伝わるものなのですよ」
「そんな貴重なものいらん、形見みたいに渡してくるな」
「そう……おっしゃらず。忘れ去られるというのは、恐ろしいものです。王子の心のほんの片隅に居させては……いただけませんか?」
「…………」
彼女の顔があまりにも切なげで、突き返すこともできず受け取ってしまう。
そうして日は没し、私服に着替え終えた後オクタスが兵を引き連れてやってきた。
「お時間です姫様」
「はい」
セレーネは優雅に背筋を正した気品のある歩みで、騎士たちの元へと向かう。
騎士たちはセレーネを確保すると、先にゴンドラへと乗せてポセイドン城へと連れ帰る。
ゴンドラを見送ったオクタスは、俺達に振り返ると悪党特有のいやらしい笑みを浮かべる。
「無事に姫様を返していただき、感謝いたしますラウル王子」
「見合いが終わっただけだ。後日迎えにゆく」
「なるほど、私はてっきり姫様を連れて亡命でもするんじゃないかと思っていましたよ」
「セレーネは王女だ。彼女の意思は無視できない。オクタスよ、先に言っておく、セレーネは余の女だ。それを傷つければ、容赦なくリガルドはアクアレムに襲いかかるだろう」
「ククク、恐ろしいですな。それより王子もお早めに帰られたほうが良いですよ。この辺りにはタチの悪い海賊が出ますので」
そう残しオクタスは立ち去った。
「何が海賊だ。国賊のくせに」
俺は握りしめた拳を解くことができなかった。
ありんす
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#牛肉
コメント
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みぅです🤍 48話、読み終わりました。 セレーネが「あなたの味方でいたかった」って言うところ、すごく切なくて胸がギュッとしました…。覚悟を決めた笑顔が怖いくらい綺麗で。 お土産としてペンダントを渡すシーン、これもう今生の別れを悟ってるんだろうなって。王子に「忘れ去られるのが怖い」って本音を漏らすところ、彼女の弱さが見えて、余計に応えた。 パンパンマン呼ばわりで笑いを取る場面も、雰囲気が重くなりすぎない絶妙さで、ありんすさんのバランス感覚さすがです。 続き、心待ちにしてます🌙