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にこにこ
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2週間。
それは、ひでにとって今までで一番長い二週間だった。
学校へ行く。
放課後になると病院へ向かう。
ナースステーションで愁斗の様子を聞く。
LINEを送る。
夜になると電話をかける。
返事はなくても、毎日続けた。
“今日も待ってる。”
その気持ちだけは、途切れさせたくなかった。
⸻
そして迎えた、隔離解除の日。
面会開始は午後3時。
ひでは2時半には病院へ着いていた。
『……早すぎたな。』
ロビーの時計を見る。
まだ30分もある。
落ち着こうと思っても、落ち着けない。
気付けば何度もスマートフォンを開いていた。
15分前。
もう待てなかった。
エレベーターへ乗る。
病室のある階へ向かう。
扉が開く。
廊下へ出た、その時だった。
向こうから看護師が車椅子を押して歩いてくる。
その車椅子に座っていたのは——
『……愁斗。』
ゆっくりと顔が上がる。
「……ひでくん。」
二人の時間が止まる。
たった2週間。
それなのに、愁斗は少し痩せていた。
頬がこけ、腕も細くなっている。
でも、その優しい目だけは変わらなかった。
『やっと会えた。』
ひでが笑う。
愁斗も笑おうとする。
でも。
その笑顔はすぐに消えた。
視線が膝へ落ちる。
手をぎゅっと握る。
「……ごめん。」
『え?』
「この前。」
「酷いこと言って。」
「『帰って。』って。」
「……ごめん。」
静かな廊下。
誰も急かさない。
ひでは何も言わず、愁斗の言葉を待った。
「本当は。」
「帰ってほしかったわけじゃない。」
「先生に。」
「思ったより治りが遅いって言われて。」
「このまま退院できなかったらどうしようって。」
「施設のみんなに会えなくなるかもしれないって。」
「怖くて。」
「全部怖くなって。」
「……八つ当たりした。」
「ごめん。」
勇気を振り絞るような声だった。
ひでは少しだけ笑う。
『ちゃんと謝れたじゃん。』
愁斗が驚いて顔を上げる。
『俺さ。』
『あの日、正直すげぇ落ち込んだ。』
『何が悪かったのか分かんなくて。』
『病院に来ない方がいいのかなって、本気で思った。』
愁斗の表情が曇る。
「……ごめん。」
『でも。』
『今日、その言葉が聞けた。』
『だからもう終わり。』
『許す。』
愁斗は何も言えなかった。
胸につかえていたものが、少しだけ軽くなる。
ひでは車椅子の前にしゃがみ込んだ。
『1つだけ約束して。』
「……?」
『苦しい時は苦しいって言え。』
『辛い時は辛いって言え。』
『1 人で抱え込むな。』
『俺は、そのためにいる。』
愁斗は唇を噛みしめる。
こんな言葉をかけてもらったことなんて、一度もなかった。
ゆっくり頷く。
「……うん。」
少しだけ沈黙が流れる。
愁斗は窓の外へ目を向け、小さく息を吐いた。
「……もう。」
言葉が止まる。
唇が震える。
「もう来ないかと思った。」
その一言だけで十分だった。
2週間。
待ち続けた時間。
寂しかった時間。
全部、その一言に詰まっていた。
ひでは笑う。
『約束しただろ。』
『毎日来るって。』
『会えなくても、待ってるって。』
愁斗は少し驚いたように目を見開く。
「……毎日?」
『毎日。』
『 学校終わったら病院。』
『毎日看護師さんに聞いて。』
『毎日電話して。』
『毎日LINE送ってた。』
愁斗は少し照れながら笑う。
「……知ってる。」
『え?』
「全部見てた。」
「LINEも。」
「留守電も。」
「返せなかったけど。」
「……嬉しかった。」
その一言に、ひでは安心したように息を吐いた。
看護師が優しく微笑む。
「病室へ戻りましょうか。」
『俺も一緒に行っていいですか?』
「もちろんですよ。」
車椅子がゆっくり動き出す。
2人は並んで歩く。
今度はもう、
離れないように。
コメント
1件
リオンです。14話、読み終わりました……いやあ、涙腺が緩みましたね。隔離解除でようやく会えた二人、愁斗が震えながら「ごめん」と謝る場面は胸が詰まりました。でもひでが「許す」って言えるのが本当に強い。そして「苦しい時は苦しいって言え」。この一言にひでの変わらぬ覚悟が詰まっていて、愁斗が「もう来ないかと思った」とこぼすシーンで、待つ側も待たれる側もお互いを想い合っていたのが伝わってきて、もう…最高でした。次も楽しみにしてます!