テラーノベル
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病室へ戻ると、窓から柔らかな午後の日差しが差し込んでいた。
『ベット、行けるか?』
「うん…できると思う。」
『怖いから、支えるよ』
「ごめん……」
「でも……ありがとう」
震えながらおぼつかない足で、なんとかベッドへ移動できた。
弱ってしまったな…そう思いながらも
脇の下に手を入れて。
支えながら。
車椅子からベッドへ移る愁斗を見届けると、ひではいつもの椅子に腰を下ろした。
『やっと同じ部屋で話せるな。』
「……うん。」
ほんの数日前まで当たり前だった時間が、今は何よりも特別に思えた。
しばらく沈黙が続く。
その沈黙さえ、心地よかった。
『そういえばさ。』
「?」
『これ。』
ひでは紙袋を差し出した。
「なに?」
『退院したら渡そうと思って買ってた。』
中から出てきたのは、小さなクッキーの箱だった。
「……まだ退院してないけど。」
『待ちきれなかった。』
愁斗は思わず吹き出す。
「ふふっ。」
『お、笑った。』
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「笑ってない。」
『いや、笑った。』
「気のせい。」
『絶対笑った。』
二人の笑い声が、小さく病室に響いた。
それからは、他愛もない話ばかりだった。
学校であった出来事。
施設の下の子たちの話。
好きな音楽。
将来の夢。
『施設のみんな、元気?』
「うん。」
「先生が電話くれた。」
『なんて?』
「一番下の子がね。」
「『しゅう兄まだー?』って毎日聞いてるんだって。」
『人気者だな。』
「違うよ。」
「寂しがり屋なだけ。」
そう言う愁斗の表情は、どこか嬉しそうだった。
『退院したら一番に会いに行かなきゃな。』
「うん。」
「約束。」
『約束。』
その日の帰り際。
『そうだ。』
「?」
『先生に聞いた。』
「何を?』
『少しずつ歩く練習始めるんだろ?』
「うん。」
『無理だけはするなよ。』
愁斗は少し笑う。
「大丈夫。」
その返事に、ひでは苦笑した。
『その”大丈夫”が一番信用できない。』
「ひどい。」
『だって今まで何回聞いたと思ってる。』
『“大丈夫”って言って、本当に大丈夫だったこと、一回もないじゃん。』
愁斗は返す言葉がなく、照れくさそうに笑った。
「……気をつける。」
『約束?』
「約束。」
二人は小さく指切りをした。
「後俺から…一つ言うことが…」
『なに??』
「俺ね。」
「退学した…」
『……え?』
「日数がさ… 足らなかった、」
『数ヶ月だぞ?』
「うん…」
「あとは……もう…戻りたくない。」
『……っ。』
「だから、俺、自主退学って形で。」
『いい選択だよ』
『通信制だってある、』
「うん。」
『しかも。』
『俺がこの先守るし。』
「え、?」
『何驚いてるのよ、俺前に言ったでしょ?』
「そう…だけど……」
いざ言われると恥ずかしくて
顔を赤らめた。
2人は強く太い絆で繋がれ始めていた。
翌日から。
愁斗は驚くほど前向きだった。
リハビリの時間になる前に、自分から立ち上がる。
歩行練習も、誰より真剣だった。
食事も全部食べる。
看護師からも、
「今日はよく頑張ったね。」
そう褒められることが増えた。
ひでがお見舞いに来るたび、愁斗は嬉しそうに報告した。
「今日は病棟を一周歩いた。」
『すごいじゃん。』
「今日は階段も少し上った。」
『無理してない?』
「してない。」
「先生がいいって言ったから。」
『ほんとか?』
「……たぶん。」
『“たぶん”じゃない。』
二人で笑う。
会えなかった2週間を取り戻すように、毎日たくさん話した。
けれど。
嬉しかった。
嬉しかったからこそ。
愁斗は気づかないうちに、自分を追い込んでいた。
もっと歩けるようになりたい。
もっと元気になりたい。
もっと笑っていたい。
もっと一緒にいたい。
その気持ちが少しずつ、
まだ回復しきっていない身体を無理させていたことに、
この時の二人は、まだ気づいていなかった。
コメント
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第15話、読み終えました。タイトルの「やっと会えた」にぴったりの再会のシーンでしたね。特に「気のせい」「絶対笑った」の軽い言葉のやり取りに、二人の距離が戻ってきた安心感がぎゅっと詰まっていて、ほっとしました。クッキーを待ちきれずに渡すところも、すごくひで君らしいなって。ただ、最後の「気づいていなかった」で、ちょっと胸が締め付けられました。この先の二人が心配になる、うまい終わり方だなと思います!