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その瞬間、体の内側からじんわりと冷たいものが広がるのを感じた。
「んっ……ぷはっ……あっ……!!」
唇が離れた瞬間、俺は思わず碧に縋り付く。
先程までの息苦しさが嘘のように消え去り、体の熱もすぅっと引いていった。
まるで魔法にかかったかのように、不快な熱が消え
呼吸が楽になる。
肺が新鮮な空気を吸い込み、全身に酸素が巡る。
だが
「っ……!?」
媚薬の副作用なのか、それとも薬の作用なのか
全身が痺れたように力が入らず、碧の膝に倒れ込んでしまう。
体が重く、指一本動かせない。
まるで、全身の骨が溶けてしまったかのようだ。
「遼くん、大丈夫だよ。全部飲めて偉いね」
碧は俺の背中を優しく撫でながら、耳元で囁いてきた。
その声は、信じられないほど優しくて
俺は抗うことをやめ、目を閉じて彼の腕と膝に身を任せてしまう。
彼の温かい手が、俺の髪を撫で、額の汗を拭う。
碧の膝の上で、彼の体温を感じながら、俺は深い安堵の中で意識を手放していった。
意識が沈みゆく中で、碧の優しい声が聞こえた気がした。
「もう、大丈夫だからね、遼くん。僕がずっと一緒にいるから」
その声が、俺の意識の底に、深く、深く沈んでいく。
再び意識が戻った時には、よく知る
碧の部屋の寝室にいた。
見慣れた天井、柔らかな光。
カーテンの隙間から差し込む朝の光が、部屋を優しく照らしている。
ベッドに寝かされ、全身を包む柔らかなシーツの感触に深い安心感を覚える。
嗅ぎ慣れた碧の部屋の匂いが、俺の心を落ち着かせる。
ゆっくりと目を開けると、サイドテーブルには水差しとグラス
そして俺の鞄が丁寧に置かれていた。
ベッドサイドの小さなランプが、部屋を柔らかな光で照らしている。
外はまだ夜明け前なのか、静寂に包まれていた。
体を起こそうとすると、全身に痛みが走った。
媚薬の影響なのか筋肉痛みたいな感覚もあるし、拘束されていた時の影響で体が強張っている。
特に手首と足首には、鎖が食い込んだ痕が赤く残っており、ズキズキと痛んだ。
腕を動かすたびに、筋肉が軋むような感覚がある。
「っ……」
俺は小さく呻き声をあげて、再びベッドに横たわった。
まだ、体が重い。
ふと、隣に気配を感じて視線を向けると、そこには碧が座っていた。
彼は、俺が目を覚ますのをずっと待っていたかのように静かに俺を見ていた。
「ああ、目が覚めた? 良かった」
彼はいつもの穏やかな笑みを浮かべながら、優しく俺の頬を撫でてきた。
その瞳には、深い安堵の色が浮かんでいる。
指先は、ひんやりとしていて、まだ微かに火照った体に心地よかった。
彼の指が、俺の頬の輪郭をそっと辿る。
「碧……」
俺は掠れた声で彼の名を呼んだ。
喉はまだ少し痛むが、声は出るようになっていた。
「無理しないで。まだ休んでていいよ」
碧はそう言って、俺の頭を優しく撫でてくれた。
その手つきは、まるで壊れ物を扱うかのようだった。
彼の指が、俺の髪を梳くように動く。
「…お前、俺のこと殺さないし、それどころか助けに来るし……まじなんなんだよ」
俺はかすれた声で、混乱と疑問をぶつけた。
こいつは一体、何を考えているんだ。
俺を助ける理由は何だ。
俺をこんな目に遭わせた組織の一員であるはずなのに、なぜ。
その矛盾が、俺の頭を混乱させる。
「何度でも言うけど、遼くんに惚れちゃったんだよ」
碧は微笑んで答えた。
その笑顔は、どこか諦めたような、しかし揺るぎない確信を秘めているように見えた。
彼の瞳は、俺を真っ直ぐに見つめている。
しかし、その言葉に俺は唇を噛んだ。
碧に救われたという事実は、紛れもない。
だが、俺は碧のことをまだよく知らない。
こいつの考えていることがわからない。
その言葉が、真実なのか
それとも別の目的があるのか、俺には判断できなかった。
彼の言葉は甘く響くが、同時に、俺の自由を奪うような重さも感じさせた。
俺が黙っていれば、碧は優しく微笑んだまま、俺の髪を撫でた。
その指が、俺の額から髪の毛をそっと払いのける。
「大丈夫。僕がずっと守ってあげるから」
その言葉は、まるで呪いのように俺の心に絡みついてきた。
彼の瞳をじっと見つめ返すと、その瞳には嘘偽りのない愛情が宿っているように見えた。
しかし、その愛情の裏に、何か深い闇が潜んでいるような、そんな予感もした。
彼の愛情は、まるで俺を閉じ込める檻のようにも感じられて
「…そう言って、お前も俺のこと、壊すんじゃねぇの……?」
俺は震える声で尋ねた。
過去の経験が、俺の心を疑心暗鬼にさせる。
誰も信じられない。
誰かに守られるということが、どれほど脆いものか、俺は知っていた。
碧は優しく微笑みながら答えた。
その声は、まるで子守唄のように穏やかで
俺の不安を溶かすようだった。
彼の指が、俺の頬をそっと撫でる。
「大丈夫。君は僕が守る。二度と傷つけさせないよ。君は僕だけのものだから」
碧の言葉は、まるで呪いのように俺の心に絡みついてきた。
それは、俺を縛り付ける鎖のようでもあり
同時に、俺を包み込む温かい繭のようでもあった。