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月城 蓮桜音
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ふわもちお餅
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朝の薬の塗布と包帯の交換を終えて、マコトは話を切り出した。
「この病院の院長に、意識が戻ったことを報告しに行ってくる」
「……まあ、そうだよね」
包帯の巻かれた両手を見詰めながらアトリが頷く。
「記憶がないことも、詳しい人に診察して貰った方がいいだろうし。まずは、オレ一人で行ってくるから、ちょっと待ってて」
「うん、行ってらっしゃい」
そろそろ入院患者たちの朝食が終わる時間だ。シノブも院長室にいるはずだろう。
(そういえば、アトリが怪我した時の状況、事故だか事件だかもはっきりしてないみたいに言ってたよな)
その後、何か捜査に進展はあっただろうか。
考えているうちに院長室に着いて、ドアをノックした。
「院長、マコトです」
「どうぞ」
部屋の窓際の椅子に座っていたシノブが、顔を見るなり聞いてきた。
「マコト、あの少年の具合はどう?何か事件のこと話してた?」
「……それをお伝えしに来たんですけど…。え、意識が戻ったこと、知ってた?」
驚いて、つい敬語が崩れてしまった。
「いそいそと二人分の朝食を運んでたでしょ、なんで院長である私に知られてないと思ってたの」
呆れたように言われる。
ふと、マコトは聞き咎めた。
「今、はっきり『事件』って言いましたよね」
「さっき、捜査関係者から報せが来たんだけど――」
事件の概要を最初から纏めると。
民家から(と言っても資産家の別荘らしい)異常な轟音が聞こえたと言う報せを受けて警察が駆けつけたところ、複数の遺体と、少し離れたところに倒れていた少年を発見。部屋着のような軽装だったので、家族の一人と判断し、最寄りの病院に搬送。
現場には魔力の痕跡が残っていたので、何らかの魔法が発動して爆発が起こったものと思われる。
全員が魔力を持っていない家族だったので、魔法を使う第三者がその場にいたと考えられた。
ところが今朝、遺体が五人分で、別荘にいた家族全員分が揃っていたと判明した。
搬送する前に確認したから、少年に魔力はなく、魔法を発動したのが彼ではないことは判っている。
彼が『第三者』ではないのだ。
「じゃあ、あの少年は何者なの?ってこと」
シノブは肩を竦めた。容疑者でもない、かと言って別荘にいた被害者家族の内にも含まれない。今後の扱いに困るのだろう。
「あの少年、じゃなくてアトリです」
毅然とした口調で、マコトは言った。
「自分でちゃんと名乗りましたよ。名前しか覚えてないみたいだけど」
今朝からの彼の様子を、シノブにかいつまんで説明する。少し考える仕草をしてから、彼女は結論を出した。
「もう少し落ち着くまで待って下さいって、警察には連絡しておくわ。で、 当面の間、二人は同室ね。そもそもあの部屋はマコトに使って貰うために用意した場所だったし」
「ありがとうございます」
そろそろ、アトリが一人でどうしているかが気になり出した。随分しおらしく『いってらっしゃい』なんて言っていたな、と。
そんなマコトの胸中を知ってか知らずか、シノブは唐突に話題を変えた。
「そういえば、マコトと会わせて欲しいって方がいてね、ちょうど今日の午後からいらっしゃるから、よろしく」
ぽん、と肩に手を置かれる。
「貴方の開発した新薬に興味があるそうよ。わたしの甥だって言ったら、是非会わせて欲しいって」
「?わかりました…」
何故だか、シノブが真意の読めない表情をしているのが若干気になったが、マコトは早足で院長室を後にした。
病室に戻って来て、ドアを開けると、何故かとても寒かった。
「あ、おかえりー」
呑気な声が迎えてくれたが、その光景はマコトが目を疑うようなものだった。
窓際に、複数の手のひらサイズの雪だるま。
もちろん窓は全開で、寒風が吹き込んでいる。
「何がどうなって、こうなった?」
「だってこの部屋、何もないんだもん。やることないから、こうやって」
アトリは、更に雪をぎゅっぎゅっと握り込んで、雪だるま達に角やら尻尾やら付けていく。
「……身体が冷えるからやめとけ」
アトリの手の中の雪を取り上げ、彼を毛布でぐるぐる巻きにしてから、雪だるま達は窓の外にそっと移す。
「紙とクレヨンを借りて来たから、絵でも描く?」
「あ、いいね。描く描く。ありがとう」
早速、紙にクレヨンで線を描き始める。すぐに描き終えて、マコトに見せて来る。
「りんかく」
人間の影のようなものを黄色いクレヨンで描いている絵だ。
「最初にマコトが判ったときの絵」
どう感想をいうべきか、言葉を探したが、結局第一印象を口にした。
「……あんまり絵心ない方?」
「そうみたいだね」
二人で顔を見合わせて笑った。
昼食の後、くれぐれも大人しくしているように、とアトリに言い含めて、応接室に来た。
シノブに案内されてやって来たのは、痩せぎすな女性だった。薄い茶色の髪に、白く見えるほど薄い青の瞳。いかにも、研究者の顔つきだ。
「はじめまして、リラと言います。製薬会社の研究所の所長をつとめています」
「…マコトです」
挨拶の後、彼女はマコトの顔をじっと見た。
「飛び級を何度もした天才だと伺っていたので、どんな頭でっかちが来るかと想像してましたが…随分可愛い顔をしてらっしゃるのね」
媚態を含む微笑み。
「そうですか?自分ではよくわからないです」
容姿について色々言及してくる人間に対しては、1本線を引いた距離感で対応することにしている。マコトは即座に、好意を寄せ付けない笑みを顔に貼り付けた。
ふと横を見れば、既にシノブも同じような表情をしていた。こんな時だが、しみじみ血の繋がりを感じた。
「貴方の開発した新薬に関する論文を読ませていただきました。大変興味深いですね」
一番最近書いた論文は、痛み止めに関するものだ。もう少し突き詰めていけば、余命幾ばくもない人が、最期に痛みを忘れて過ごすことが出来るような薬も開発できる、と結んでいる。シノブが声を掛けてくれたのも、その論文を読んで、実際に終末期医療の現場を学びに来ては、というものだった。
「うちに来て下されば、今後の新薬開発でも、すぐに人間の治験が行えますよ。常にそれなりの人数を確保してますので」
「いや、健康な人に投与しても意味がないので、そう簡単に人数は」
リラは少し得意げに、マコトの言葉に被せるように言った。
「簡単です。研究所の近くに、その日暮らしをしているような人達が大勢住んでいる地域がありまして、その人達に報酬を払って治験に参加して貰ってるんです。お金さえ払えば、その条件の人間だってすぐに揃いますよ」
(どういう意味?!)
危篤のひとをすぐに作れるって?
助けを求めてマコトはシノブの方を見た。
シノブは、大袈裟な身振りで壁の時計を振り返った。
「ああ、申し訳ありません。本日、危篤の患者が立て込んでおりまして、そろそろ回診に行かないと。すみません、わざわざご足労頂いたのに」
「あら、そうですか。残念ですね」
あっさり引いてくれて、マコトは内心ほっとする。
「では、マコトさん」
リラが手を差し出して、握手を求めて来た。
その、白くほっそりした手の平を握り返すのを、マコトは一瞬躊躇った。何だか毒でも染み込んでいるようで。
「良いお返事、待ってます」
もう片方の手でマコトの手の甲を撫でてから、リラは手を離した。
職員がドアを開け、エントランスまでリラを送って行く。
確実に足音が遠くなったのを確認してから、シノブがマコトを振り返った。
「ごめんマコト!ここまでとは。あんまり何度も頼まれたから、ちょうどあの人が来るのとマコトが来るのが重なったから、まあ会わせてみるか、と軽く考えてしまいました」
両手を顔の前で合わせて、平謝りしてくる。
「うあぁ、何あれ何あれ。 今まで遭遇した人の中で、五本の指に入るヤバさだった」
握手した後に腕に立った鳥肌を、マコトは両手で抱き締めるようにさする。
「……一番ヤバいじゃないところに、闇を感じるわね」
コメント
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おお、今回も深い回だったな……! アトリの無邪気な雪だるま作りと、リラの“治験揃えるの簡単ですよ”発言の温度差にゾッとしたわ。マコトとシノブが合わせて同じ“防御笑顔”を貼る場面、血の繋がり感じられてグッときた。アトリの「りんかく」も素朴で可愛くて、二人の距離が縮まってる感じが好き。あの研究者、絶対また来るよな……展開が気になる🔥