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夏目萌*優しい彼~コミカライズ
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瞼の裏に柔らかな日差しを感じた。まるで海に登るお日様みたいな、きらきらした光。
次に感じたのは、優しいお花の香り。
私の薄暗い部屋ではこうはいかない。
新鮮な刺激をもっと享受したくて、大きく息を吸い込むとハリセンボンを飲んだかのように、喉がチクチクして咳き込んでしまった。
その刺激で目を覚ますと、私はまだ夢でもみているのかと思った。
何しろ、身につけているのは西洋の純白の|夜着《ナイトドレス》。私が横たわっているのは立派な|寝台《ベッド》の上。ふかふかの布団もある。
部屋は流行りの洋館のようで、天井には丸い電球、壁は白壁に大きな窓。
ピカピカの窓には、分厚い生地のカーテンとレェスのカーテンも掛けられている。
その窓際の壁には振り子時計、立派な椅子付きの鏡台まである。時計の針を見るとお昼の十二時を過ぎたところ。
本当に夢みたいで、起きたら目が覚めるんじゃないかと思いながら体をゆっくりと起こした。
ぐっと背伸びをする。
こんなにゆっくりと寝たのはいつぐらいだろうか。
すうっと、深呼吸するとまた花の香りが鼻腔をくすぐった。
香りの元は机の上にある大きな花瓶、そこに活けられた瑞々しい生花からだった。
こんな美しいものばかりに囲まれ、私は御伽話の世界に紛れ込んでしまったのかと目を白黒させるが、喉のチクッとした痛みが現実だと訴えて来た。
これが現実とするならば──ここはどこ?
私は一体どうしたんだろう。
喉の痛みからずっと、眠りこけていたなんてことは無さそうだけども……。
ふと声を出そうとすると、喉が痛んでケホケホと咽せてしまった。
そっと喉元に手をやって喉を労る。
喉飴、龍角散、カミツレを煎じたもの。そう言ったものが欲しいと思った。
そして、その他自分の体に異常はないと思うと、ここに来る前の記憶がざあっと波のように押し寄せた。
……そうか。
私はきっと、蒼波様によって東堂家から連れ出された。
この西洋風の部屋は、蒼波様のお家かもしれないとそわっとしたとき。
ガチャリと扉が開いた。ビクッとして扉を見つめる。そこには白いシャツに黒いズボン、編み上げブーツ姿の蒼波様がいた。
まるで軍の任務の合間に、休憩でこの部屋に寄ったかのような気軽さではあったが、明るい場所ではっきりと見る蒼波様の美貌に釘付けになる。
しかし、今の私の姿は人前に出る姿ではない。
きっと髪も乱れている。
何より目の前の麗しい人物と口付けをした仲だと気恥ずかしくなり、がばっと布団を胸元に手繰り寄せてしまった。
「気がついたようで何よりだ。真那、どこか体の不都合はないか?」
真那と、名前を呼ばれて不意に胸がドキッとした。
静かにこちらに寄ってくる蒼波様に、助けてくれてありがとうございますと言いたい。
こんな素敵な部屋に私など、もったいない。じゃなくて、今はお礼を優先しなくては。
あとはやっぱり蒼波様の体調が気になる。
私の血、稀人の血を受け入れて体に異変はないですか?
色々とご迷惑をお掛けしてすみません。
聞きたいこと、言いたいことがあるのに、声が出ないって、なんともどかしいんだろう!
ふうっと大きく深呼吸して気持ちを整える。
今は声が出ないのは仕方ないので、布団から指先を出して喉元に指先を当てて、首を横に振った。
あとは問題ないと、胸元に手を当てて『大丈夫』だと言う思いを込めて首を縦に振った。
「その様子だと喉が痛くてまだ、声が出ない。あとは問題ないと言ったところか」
そうですと、頷く。
「真那は東堂の家を出て丸一日以上、深く眠っていた。その間に薬を飲ませたが、喉はまだ治らなかったみたいだな。あとで薬湯を持って来させよう。だから今は無理しなくて喋らなくていい。早速目覚めたばかりだ申し訳ないが、少し時間を貰ってもいいか」
私、東堂家を出て一日が経っていたんだ。
東堂家には、なにも想いれのあるものなんてない。
私物も特にない。それよりも東堂家を出れたことに、ほっとする。
喉以外の不調はないので、問題ないと頷く。
すると蒼波様は私を見つめたあと「失礼」と言ってから寝台の端に腰を掛けた。
キシッと軋む寝台。必然と距離が近くなった蒼波様にまた胸がドキドキした。
「まず、ここは帝都で俺の屋敷。これからはこの家が真那の家になる。自由に使っていい。東堂家については真那が何も気にすることはない。それから、伝えたいことは沢山あるが……」
蒼波様はすっと手を伸ばして私の手を取った。
「!」
長い指先としなやかな力強さに、肩を跳ねさせるが蒼波様の指が離れることはなかった。
「俺の命を救ってくれて、ありがとう。真那がいなかったら俺は、きっと志半ばで死んでいただろう。この恩は俺の一生を掛けて返す。我が妻として、命尽きるまで真那を守り抜くことを誓おう」
わがつま。
我が妻? なんのことだろう──って、そうだ!
私は蒼波様の妻となることを、了承して口付けしたのだ!
一気に体の奥から熱泉が噴き出すが如く、体が熱くなると思うと頬まで熱くなった。
ことの重大さに、口をわなわなと震わせてしまう。
すると蒼波様は何を思ったのか、ちゅっと私の手の甲に唇を落とした。
「──!!」
「そう硬くならくてもいいだろう。夫婦なのだから」
「!?」
黒瑪瑙の瞳が楽しげに微笑み、ふわっと離れる蒼波様の唇と手。
軍人とは聞いていたのに、その動作はあまりにも優雅な華族のようで驚くばかりだ。
口付けをされた手をぎゅっと抱きしめて、例え、今声が出たとしても私は何も言えないと思った。
「さて、俺はこのあと用事があるから、名残り惜しいがお暇する。すぐに使用人をよこすから詳しいことは、その者に聞いてくれ。何か不自由があったら、なんなりと言うといい。屋敷の者にはそう伝えている」
あの森で命懸けで啖呵を切っていたことや、東堂家で冷静で凛としていた人とは、同じとだとは思えないほど、今は物腰が柔らかい。
海にも荒ぶる波と波静かな時がある。きっと蒼波様もそのように公私を分けているのだろうと、感じた。
コメント
1件
第11話読み終わったよ〜!!🌸 もうね、蒼波様の登場シーンで心臓バクバクした😭💕 目覚めた主人公が「我が妻」って言われて赤面するところ、最高にキュンとする…! 軍人なのに優雅で甘やかすギャップにやられたわ。手の甲にキスされるシーンは何度でも味わいたい✨ 喉が痛くて声が出ないもどかしさも感情移入しちゃった。次話も楽しみにしてるね!