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「今日も実家に行くのか」
軍服の金ボタンを留めながら将臣が尋ねる。
「はい。薬を一から作り直さねばいけませんので」
凪が少し困ったように、けれど嬉しそうに答える。
「義父上の体調が戻って一安心だな」
「はい。一日も早くお店を再開できるよう、頑張ります」
「大変だな。……だが、生き生きしている凪を見られるのは嬉しい」
凪は革鞄をぎゅっと抱え、恥ずかしげに俯いた。
「無理はするなよ。……気をつけて帰ってこい」
凪の胸が、どきりと跳ねた。
(「帰ってこい」……その言葉ひとつに、将臣様の優しさが詰まっている)
胸に押し寄せる温かな手触りを振り切るように、凪は明るい声を張った。
「はい! 行ってまいります!」
※
「まずは、胃腸薬のゲンノショウコをもっと作っておきましょう」
凪は手際よく薬研ですりつぶしていく。
次々と作業を進める凪の手元を、源一郎はじっと見つめていた。
「凪。わしの体調も、もうかなり回復した」
凪は薬草から目を逸らさない。
「ええ、本当によかったです。早く薬箪笥をいっぱいにしないと」
どこか浮き立つような手つきだった。
源一郎は小さく息を吐いた。
「……だからもう、ここへ手伝いにくるな」
凪の顔が弾かれたように上がる。
「なぜです?」
「わし一人で十分だ」
源一郎は凪と視線を合わせず、ゴリゴリと乳鉢を擦り続けた。
「……私では、兄の代わりになれませんか?」
「そういう訳ではない……」
源一郎ははっきりと言わず、再び苦しそうに視線を落とした。
(やっぱり……私は不要なのかな)
伏目がちに手元を見つめる凪の姿に、源一郎は困ったように目を泳がせる。
「お前は……自分の幸せだけを考えていればいいんだ」
すかさず、凪が声を荒らげた。
「私は今も、いらない子ですかっ!?」
「な、凪っ!?」
父の前では絶対に口にしないと決めていた言葉。だが、もう抑えきれなかった。ずっと胸の奥底に沈めていた、冷たく尖った塊。
凪は眉を吊り上げ、唇を噛み締めて父を睨んだ。
それを見た源一郎が動揺して手を止める。
「ち、違う! わしも、母さんも、凪を愛していた!」
「嘘です!!」
凪はそれを、ただの反射的な気休めだと思った。
「私さえ生まれなければ、母上は死なずに済んだってっ……! 父上はずっと、私を恨んでいたのではないですかっ⁉︎」
(あの時の写真帖の傷からは、そんな記憶が見えたのに……!)
胸から溢れ出す熱で視界が歪み、ボロリと大きな涙がこぼれ落ちた。
「凪……お前は大きな勘違いをしておる」