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岡田の人生は、もはや後戻りできない場所に到達していた。彼は警察官としての誇りを持っていたが、その誇りを無惨に踏みにじり、裏切りと罪の深みに沈んでいった。逮捕された時から、自分の未来がどれだけ無意味なものになったかを、痛感していた。
裁判は、予想通り厳しく進んだ。岡田は、犯した罪を認めざるを得なかった。彼が手を染めた闇バイト、組織の一員として関わった違法な取引、多くの無辜の人々を傷つけた事実。証拠は確かで、弁護人さえも彼を擁護することはできなかった。
「被告、岡田俊也。あなたが犯した罪はあまりにも深刻で、これ以上の許しを与えることはできません。」
裁判官の冷徹な声が、法廷に響く。
岡田は無表情でその言葉を受け止めた。どんな言葉をかけても、今さら取り返しがつかないことは十分にわかっていた。自分がどれだけ無力だったか、そしてその無力さがどれほど多くの人々に苦しみをもたらしたのか。全てが、彼に重くのしかかっていた。
判決が下った。
「死刑。」
その言葉が響いた瞬間、岡田は何も感じなかった。感情が麻痺したかのように、ただその事実を受け入れるしかなかった。彼は頭を垂れ、静かに目を閉じた。心の中で、何もかもが終わったことを悟った。
数ヶ月後、岡田は死刑囚として収監されていた。毎日が同じように過ぎ、彼はただ孤独と向き合っていた。彼の周囲には、かつての仲間たちが立つことはなく、唯一の存在は刑務官だけだった。
その日も、夕日が刑務所の外壁に映り、小鳥の鳴き声が聞こえるだけだった。岡田は、その静かな世界に包まれながら、自分の過去を振り返っていた。もうすべてが遅すぎるとわかっていても、今更、後悔しても何の意味もないことを、彼はわかっていた。
ふと、懐かしい声が耳に入った。
「岡田、君が今、この場所にいることが、まるで夢のようだ。」
藤田だった。岡田は、目を開けると、あの時と変わらぬ表情をした藤田が、少し遠くから彼を見つめていた。
「藤田…」
岡田は、震えた声が出す。目を合わせることすらなかったが、今、この瞬間、彼を目の前にすると、何も言葉が出なかった。
「君は、どうしてこんな道を選んだんだ?」
藤田の問いかけに、岡田は一度ため息をついた。
「わからない。ずっと自分が正しいと思っていた。誤りだと、今はわかる。」
岡田は無力に言った。目の前にいる藤田の顔が、彼にとって最後の希望だった。
「もうすぐだな。」
藤田が静かに言った。
岡田は一瞬、目を閉じた。そして、彼の心に浮かんだのは、かつての彼自身だった。警察官としての理想に燃えていた頃の自分。正義を信じ、世の中を良くしようとしていた自分。
だが、その道が間違いだったと、今になってようやく理解した。自分が選んだその道が、すべてを台無しにしたのだ。
死刑の執行の前夜、岡田は独房に一人で座っていた。周囲の音が静まり返り、彼の心もまた静寂に包まれていた。彼は床に膝を抱え込み、頭を垂れた。
明日、彼は死ぬ。そのことを受け入れた今、岡田には言葉がなかった。ただ、冷たい空気が身に染みるだけだった。後悔の念が彼を包み込み、涙すら出なかった。
次の日、彼の最後の瞬間が訪れた。処刑室の扉が開き、岡田は冷たく無表情で歩を進めた。彼の心の中には、もはや何も残っていなかった。
その時、彼の最後の言葉が響いた。
「…ごめんな。」
藤田の顔が、そしてかつての仲間たちの顔が浮かんだ。だが、今更何を言っても遅すぎた。
岡田はその言葉と共に、目を閉じた。そして、彼の物語は静かに幕を閉じた。