帰ってから一人鍋ポーションを使い、鶏と野菜とうどんをまとめて煮込みながらスマホを手にした。
何となくお兄ちゃんとの電話にだけ向き合うのは緊張するから。
2時間ほど前の履歴をタップすると
‘良子っ’
コール音より先にお兄ちゃんの声がする。
「お兄ちゃん」
‘良子…良子ごめん、ごめんな……あの日電話くれただろ?寝起きで鼻声だったんじゃなくて泣いてたんだな。本当に悪かった…あのとき俺がうちへ来いと言ってやっていたらこんなことには…迎えに行っていれば……’
震えるお兄ちゃんの声に、お兄ちゃんもずっと苦しいのだ……と、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「お兄ちゃんが悪いんじゃないから……心配かけてごめん」
‘心配かけてもいいが、連絡取れないのはキツイ……’
「…うん」
‘責めてるわけじゃない、良子に時間が必要だとは理解しているつもりだ’
「うん……お兄ちゃん、鍋出来た」
‘はっ?鍋?’
「今から食べる」
‘…ぶわっはっははっ…良子……鍋作ってたのか?’
「うん」
‘食え食え、その前に鍋の写真撮って送って。ショートメッセージで、俺のアカウント送る’
すぐに送られてきたお兄ちゃんのメッセージアカウントへ、一人鍋の写真だけ送ると
‘今日はこれで満足。俺からは連絡しない。良子のいい時にいつでも何度でも連絡して’
そう返信があった。
‘お兄ちゃんがもう謝らないなら連絡する’
‘もう謝らない。連絡くれ’
‘鍋すごく美味しく出来た’
‘俺は二日目のカレー’
こうして連絡先にお兄ちゃんが加わり、時々連絡をとるようになった。
お兄ちゃんは私が高2の時に東京に来て以来、離れて暮らしているから、あの地元のイメージがあまりないので気楽に話せる。
何度目かの電話で、あの日引っ越すと言っていた引っ越し先でお兄ちゃんは一人で暮らしており、すぐ近くに婚約者の山崎チカさんが住んでいると知った。
‘良子の居場所を守る、確保するということをチカと二人で話し合って決めた。ここにチカが来ることはあっても泊まらないし荷物もない。良子がいつ来てもいいようになってる。俺がチカのところへ泊まることはあるけどな’
「ありがたいけど申し訳ないね。私、不自由ない部屋にいるから予定通りチカさんと暮らしてよ、お兄ちゃん」
‘良子は人の心配するな’
そう言われると、もう何も言えない。
「でもお兄ちゃん、私ここがいいから引っ越しはしないよ」
‘それならそれでいい。無理強いするつもりはない’
「うん…今度お兄ちゃんと……チカさんに会えるかな?」
‘良子…いいのか……?’
「うん、ちょっとだけ会ってみようかな………」
‘よしっ。良子は土日が休み?’
「うん」
次の日お兄ちゃんは、美容室のすぐそばの洋食屋さんに日曜日の1時に来て、とメッセージをくれた。
チカさんはその時間あたりに休憩を取るようにするけど、時間は定かでないようだ。
それでも‘ちょっとだけ会ってみようかな’と言った私に負担のないように改まってディナーなどにしなかったのは、二人の配慮だと思う。
コメント
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お兄ちゃんもチカさんも良子ちゃんの今の状況を受け入れ、2人で遠くから寄り添おうとしているのが嬉しい。そして良子ちゃんの発する言葉を一字一句漏らさないようにしていることも感じる。 良子ちゃんランチ楽しいよー♪チカさんヘアスタイル褒めてくれるかな?ってやってくれたのはチカさんだけどね😆またお願いできるね✨